今どきの「忘れ物指導」はこうしてみよう

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マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

児童の「忘れ物」は、学校の中から永遠に根絶されることのない問題だと言えるのではないでしょうか。「小学校の段階ではもう遅いから」「そもそも家庭の問題だから」などと問題にせず、気にしない…。そんな選択肢もアリだと思います。でも、児童が今後の人生で、忘れ物で損をすることになったら、なんて考えると、まだあきらめたくないです。児童の個性や特性に応じて、ちょっとした工夫をしていきたいです。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

1 忘れ物をなくす指導の必要性

そもそも忘れ物対策の指導が必要な理由とは。
担任あるいは授業者の立場から言うと、忘れ物があったら授業に支障が生じるからです。
学習者本人も効果的な学習ができなくなるからですね。

家庭科や図工、体育の指導をしてくださる学級外のせんせいの中には、
「調理実習で、頭にかぶるバンダナを忘れた子に実習をさせませんでした」
「図工で彫刻刀を持ってこなかったので、製作ができませんでした。あとで対応をお願いします」
「運動着を忘れてきたので、見学させました」
と、バッサリな対応をされる方もいます。

これでは児童がかわいそう…。
でも、忘れ物の癖が抜けないまま、大人になったとしたら。

鉛筆を忘れたので、試験が受けられなかった
パスポートを忘れたばかりに、海外旅行の飛行機に乗れなかった
資料の入ったUSBを忘れたので、プレゼンができなかった

などなど、直せたはずの不注意癖は、後の人生に大打撃を受けるような事態につながりかねません。

わたしたち教員は、児童の将来に少なからず責任があります。
学校は間違えながら学んでいける場であり、未熟な児童のことだから忘れ物が許されるのであって、本来忘れ物はNGなこと。大人の世界であれば、忘れ物は取り返しがつかなくなる場合が多い、ということを伝えていきたいですね。
先の学級外のせんせいの事例は極端で冷たい指導ですが、全面否定はできません。
では、どうしていけばいいのでしょうか。

2 こんなことをやってみる

以前、同期や同僚のせんせいを誘って、ちょっとした勉強会をしていました。
学級通信を持ち寄って、折々のおしゃべりを楽しむことが多かったのですが、あるとき「忘れ物対策」が話題に上りました。
メンバーは皆、大変に苦労していたようで、厳しいものから寛大なものまで、実に様々な指導の実践が出ました。

「忘れ物をしたら困るだろ!」
「隣の人にていねいにお願いして見せてもらいなさい!」
「今日は見学だっ!」
「忘れ物をしなかったらシールをあげる!」
「忘れ物をみんなで防いだ班に『はなまる』をあげる!」
「ランドセルの内側にメモを貼らせる」
「明日準備するものを連絡帳にメモさせる」

などなど…。中でも次のような対策に「これはすごい!」とメンバーが感心していました。

① 直電大作戦!

忘れ物が多い児童に電話をかけ、保護者さんと世間話や学校での児童の様子などを話したあと、児童に替わってもらいます。
「ねえねえ、○○さん、今は何しているの?」
『テレビを見て、それからゲームをしていました』
「そうかあ…。楽しかっただろうな…。ところで、あした図工で彫刻刀がいるんだけど、この前持ってきてなかったよね。今、ちょっとおうちの人と相談して、彫刻刀をかばんに入れておいてくれるかな」
『あっ、そうだった!』
「うん、じゃあ、かばんに入れるまでせんせいが電話口(おうちの人の携帯)で待っているから、入れてきてよ」

(数分経って…)
『せんせい、入れました!』
「ああ、よかった。これで大丈夫だね」
『はい、せんせい、ありがとうございます』
「じゃあね」
という会話をします。

これだけで、かなり意識づけがなされます。
何度か繰り返すうちに保護者も積極的に協力してくれるようになり、改善に向かったそうです。

② レンタルコーナー設置!

忘れてしまったものはしょうがない!
いっそのこと、レンタルコーナーを作ります。
赤鉛筆、消しゴム、定規、削った鉛筆、ノート忘れのための紙、教科書(せんせい用を使います)、書写グッズ、図工グッズなどなど…。忘れそうなものをレンタルコーナーに置いておきます。
そして、ひと言「忘れたので借ります」と断ってから、借りるようにさせます。
これもまた、意識づけには効果的でした。

③ とにかく喜ぶ!

忘れ物常習児童が、忘れ物をしなかったとき。「そんなのは当たり前」なんて言わないで、とにかく大げさに喜びます。
「うわあ、持ってきたんだね。せんせいはうれしいよ」
「今日はばっちりだね。いい作品ができるのを期待しているよ」
「ウーン完璧! 見直したよ」

このように、児童にとって価値のある言葉を投げかけます。
自尊感情を自立につなげる作戦も有効です。

④ 担任がメモを渡す!

あまりに忘れ物が多く、児童自身にメモさせても効果がないという場合、担任がメモ用紙や一筆箋に
「あしたまでに○○○をもってきてね」
などとメッセージを書きます。
そして「連絡袋に入れるね」「ランドセルの蓋の裏に貼っておくね」などなど、児童が目にしやすい方法をとって、意識づけをさせます。

ひと手間ふた手間がかかりますが、必ず効果があります。
気持ちを込めた指導には、必ず返ってくるものがあります。

3 事情を考慮する

ある学級で、夏なのに冬の服を着ていたり、2週間も体育着を持ってこない児童がいました。
担任は指導していたものの、全然改善がなされませんでした。
やがて、家庭の事情で引っ越しすることになったそうです。
この児童の家庭には様々な問題があり、保護者は洗濯にまで手が回らず、家の中は荒れ放題で足の踏み場もなかったということで、児童にその気があっても、環境的な要因に阻まれていたわけです。
そして最近、こういった家庭が増えてきています。
このような事例があることも、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。忘れ物が、学びの機会を奪われてしまうという深刻な事態の予兆となっているかもしれないのです。
体育着を持ってこなかったから見学をさせる、ということであれば、永久に体育学習ができなくなる児童がいるかもしれないのです。
忘れ物をする児童の背景も、捉えていくようにしたいですね。

わたしが担任を受けもったとき、4月当初に忘れ物対策指導としてこんな話をしていました。
「前にね。担任したとき、絶対忘れ物をしない子がいました。なぜなんだろうなと思いました。
おうちの方が手伝って全部そろえてくれる、というわけではありません。
何と、その子は、毎晩布団の上に、明日使うものを一つ一つ並べていくのだそうです。朝、提出するもの。1時間目は国語、2時間目は体育、と…。そうして準備してランドセルに入れ、布団の上をきれいにしないと、眠れないそうなんです。すごいなあと思いました。せんせいも、これは見習わなければ! と思いました」

ここで、「皆さんも真似してみましょう」などと言うのは無意味です。
道徳で扱うストーリーのように、即効性はないものです。
心の片隅に残してもらい、いつかこのエピソードを思い出してくれたら。行動を変えるための、ほんのちょっとしたキッカケになってくれたら。
そんな気の長い構えで、忘れ物指導をあきらめずに続けていきたいです。

イラスト/したらみ


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マスターヨーダの喫茶室は土曜日更新です。

山田隆弘先生

山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。

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