「目標とする授業の姿」をライブで感じてほしい ~教育リーダー対談①白井利樹 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #23】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第23回「コミュニケーション科」の授業は、<白井利樹さんとの教育リーダー対談①>です。

右)菊池省三先生、左)白井利樹先生

しらい・としき。愛知県豊橋市立松山小学校校長。1965年愛知県生まれ。教育実践研究サークル 菊池道場 三河支部所属。

「教師力アップデート」の機会を設定するのは校長の仕事

白井 今から8年前、当時勤務していた小学校の教頭先生が市内の研究会で菊池先生の授業を参観し、「ぜひうちの学校にも来てもらいたい」と教務主任の私が交渉役を担当したのが、菊池先生との出会いでした。
教師が一方的に教え込むのではなく、子どもをほめ、やる気を引き出す授業で、子ども達が見る見るうちに変わっていく姿に驚きました。

菊池 教師が一方的に教える“悪しき一斉授業”や“○○スタンダード”といった型通りに授業を進める学校が多いですからね。

白井 今、校長として、教員の授業を見ることも多いのですが、教員が淡々と授業を進めるだけで、教師からの一方通行になってしまっているな、と感じることが少なくありません。「子どもが自ら学ぼうとすることが大切だ」と話しても、“教師が1から10まで教えるスタイル” からなかなか抜け出せない。

菊池 教師自身がそういう学びを経験していないから実感しにくいのでしょうね。

白井 そうなんです。校内研修で、菊池先生が話される「学びの空気」をつくる必要性を話しても、授業者としてどうすればいいのか戸惑っているな、と感じることが度々あります。
菊池先生の著作や雑誌記事、動画など、入手できる資料はたくさんあります。講演会やセミナーへの参加、オンラインでの受講も可能です。
けれど、学びの空気や雰囲気、響きは、ライブの授業でないと伝わらない。間の取り方や切り返し、投げかけ方、声の大きさなど、菊池先生が、教室の空気をどのように作り上げるか。授業記録には載らない、文字では表せないものを肌で感じ取ってほしいと思って、特別授業をお願いしています。
教員自ら感じ取ったことを「真似してみよう」「実践してみよう」と思わせることが教師力のアップデートにつながります。そういう機会を設定する、というのが校長の仕事なのではないかと思っています。

指導案に出てこない非言語の部分にも焦点を当てて

「教科指導は、学級経営を主眼に置かなければならない」

菊池 あちこちの学校で授業を参観させてもらうと、一部のできる子達だけが発表している光景を多く見かけますね。

白井 教員が発問すると、一部の子が答える。その発言に対して教師が詳しく言わせようと尋ね、またその子が答える。その子だけとのやりとりになり、最初の発問がずれてしまうと、他の子達は着いていけなくなる。蚊帳の外にいる子達は、授業がつまらなくなる。そういう授業から脱却しようと努力している教員がいる一方で、そういう授業に疑問すら持たない教員もいることを危惧しています。

菊池 教科書をきちんと教えることが最優先で、“○○スタンダード” に沿った “黒板を仕上げること” に重点を置き、子どもを見ていないんですね。型どおりに進めることを重視すると、イレギュラーな発言には蓋をし、浅く断片的な授業になっていく。

白井 教員の意図する方向に確実に向かわせたいので、教員が一直線でしゃべってしまうんですね。

菊池 教師と子どもの関係性がよくなければ、学び合いの空気は生まれません。できないことを子どものせいにする、負の連鎖を断ち切らなければなりません。
学びの空気の温度を上げる基本は、子どもをプラスの視点で見ることです。こう話すと誰もがうなずきますが、実際の授業では活かされていません。
的外れな解答やイレギュラーな発言に対して、「またこの子は授業の流れを壊してる!」と否定的に受け止めると、たしなめたり無視したりする対応になります。しかし、「普段は机に突っ伏している子が、授業に食いついてる!」と肯定的に見れば、その発言はプラスに受け止められるはずです。「今、○○さんがいいことをつぶやいたんだけど、聞いていた人はいますか?」と他の子達に伝え、みんなで共有し合うことで、“みんなで学び合う空気”ができていくのです。

「肯定的に子どもを見る姿を、次の世代に伝えていきたい」

白井 菊池先生の授業は、常に子ども達のいいところを見つけてほめようとする気持ちが表れています。
美点凝視で事実を認め、価値づけをして子ども達に返す。肯定的に子どもを見る様子が、1時間の授業の端々に現れているので、教員達にはぜひ取り入れてもらいたいと思います。

菊池 校内研修などで授業力を取り上げると、指導案など文字言語にばかりに重点が置かれています。しかし、実際の授業はライブです。指導案には出てこない非言語の部分が多いし、常に細かい切り込みがあるものです。こうした部分にも焦点を当てて研修を行っていくべきです。
こうした視点で授業を見ていくと、教師の一方的な指導だけでは、呼応する学び合いは生まれないことに気づくはずです。

白井 若手教員にも「目標とする授業の姿」を持ってもらいたい。菊池先生の授業が、そのようなきっかけになって、自分でアップデートしていこうと実践を重ねる教員が一人でも多くなるといいな、と思っています。

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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