「学校参謀」の姿勢とは? 教頭になったら、まず心がけてほしいこと
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「名将の陰に名僧あり」「名将の陰に名参謀あり」と言われます。歴史を振り返って見ると、偉業をなしとげた名将の傍らには、優秀なNo.2の存在があります。
よき学校づくりのためには校長の補佐役としての教頭(副校長)が絶対必要であり、参謀として学校経営に深く関わっていかなければなりません。どんなことに配慮すべきでしょうか?
【連載】がんばれ教頭クラブ
目次
1 「補佐」するとは?
教頭の職務は校長の補佐ですが、学校管理職において「補佐する」とは、校長が適切な最終決断をするために困らないよう、多くの正しい判断材料を集め、それを正しく伝えることでしょう。
会社組織でも官公庁でも、立案権をもった補佐官が具体的な方向性を示し、実務的な方針をたてていきます。同じように実務の責任者として、学校の舵とりは教頭(副校長)に委ねられているとも言えます。補佐という表現には収まりきれないですよね。「参謀」と呼んで良いのではないかと思います。
では、よりよく「参謀」の仕事を遂行していくにはどうしていけばいいでしょうか。以下のようなポイントがあると思います。
2 「参謀」として学校を率いるポイント
ポイント1 情報が遅滞なく伝わる環境を作る
今まで経験したり、他校の実例を見たりしたことによると、「情報伝達遅滞」が危機管理の中で、最悪のケースを招いています。
「こんな小さなことをいちいち報告していては申し訳ないので、報告しませんでした」
このフレーズは報告しなかった言い訳としてよく聞く言葉です。
当事者は「取るに足りないことだ」と思ったに違いありません。しかし、物事の捉え方というのは、人それぞれで、大きく異なります。
実際、このような当事者の勝手な判断が大きな問題へと発展し、後の処理に何倍もの時間と労力がかかってしまった。そんなケースが非常に多かったのです。
あなたはまず、
『上司と部下は運命共同体です。わたしに報告することで、責任の半分以上を上司に委ねることができます。10秒の手間を惜しむと、その何倍もの時間を火消しに費やすことになるかもしれません。物事の大小は、自分だけで判断しないようにしましょう』
とみんなに伝えましょう。
また、担任が学年主任に報告したとしても、学年主任が伝達を止めてしまう場合もあります。主任にも報告の必要性を示しておくことが大切です。
そして、最も大切なことは、休み時間や放課後などに教職員が職員室に戻ってきたとき、教頭(副校長)は機嫌良さそうな雰囲気で、暇そうにしていることです。
難しい顔をしてパソコンや書類に向かっているのでは、話しかけづらいに決まっています。教育委員会への提出物や意見書、文書の点検など頭を使う仕事は、教職員が職員室に不在の時間に集中的にやってしまいます。
「この人、仕事してないんじゃないの?」と疑われるくらいがちょうどいいのです。
そして、担任たちから報告を受けるときは、パソコンなどの手を休め、きちんと正対して、適宜メモを取りながら聞いてください。そうです。あなたが児童に身に着けさせようとしてきた傾聴スキル。それを今こそ最大限に発揮してください。
さらに、教職員と雑談をしていると、その中に重要な事実が紛れていることがあります。
児童の小さな態度の変化から家庭環境の問題が発見できたり、何も語らない児童の、頑なな態度の理由が、別の出来事から見えてきたり…。
こうした意思疎通は、お互いの「信頼感」から生まれてきます。決して「報告義務」など、しゃちこばった形で制度化しないでください。
「ああ、この人にはいつ何時、何を言っても受け止めてくれるな」と思われるような人間的な安心感を、まずは作り出していきましょう。
ポイント2 教職員のスペックを把握する
わたしは若手の頃、教員とは皆マジメで、何事にも主体的に取り組み、常に向上心を持って自己研鑽をしていくものだと思っていました。自分なんか、まだまだだなあと思っていました。
しかしある時、夜遅くまで職員室で残業をしていたところ、同じように残っていた当時の教頭が、
「いざ教頭となって、人を動かし、その人事的な評価までもしなければならなくなったとき、先生たちはこんなにも差がある人々なのか、とびっくりした」
と話してくれました。彼の目にわたしはどう映っていたのか、ちょっと怖くて聞けませんでした(笑)。
確かに、たまたま同じ職場に集まっているだけで、みんな生育環境もキャリアも違うし、従って考え方も価値観も違うわけです。家に帰っても家庭の問題で大変な世代の方もいるし、仕事のことだけ考えていられる元気いっぱいの若手もいるわけです。
こうした諸々の理由から、各人の発揮できる生徒指導力、学習指導力、特別支援教育力、学級経営力、危機管理対応力などは大きく異なってきます。そして、その個人差…つまりスペックを正しく掌握しなければ、それぞれに最適なロールを与えて、組織を円滑に機能させることはできないでしょう。
かの教頭はこのことを言いたかったのだろうと思います。
まずは手がかりとして、職場のみんなの人事書類にしっかり目を通しましょう。そして、それぞれの生活環境を把握し、雑談から心を通じさせていくようにして、スペックを掌握していきましょう。
ポイント3 学区を知る
新規採用の教頭(副校長)は、3月31日まで教諭や行政職だったのに、突然管理職という重責を担うことになります。この変化はかなり大きいものです。4月1日に辞令を受けて赴任すれば、地域コミュニティの方から電話があったり、業者さんの対応をしなければならなかったりと、未経験の仕事がたくさん舞い込んで来ることでしょう。これまでとは異なり、学校単位の仕事が増えるわけです。
そこで、なるべく早く、受け持ちの学区をよく知るようにしていきたいですね。
時間ができたら、学校の周りからどんどん範囲を広げるようにして、どんな環境の学区なのかを自分の足で確認していきましょう。学区の外れはどこか、隣接校との境界線はどの辺りかを知っておくことも重要です。交通事情や通学路はもちろんのこと、繁華街、子供が集まりそうな場所、商業施設、川や湖など、実際に確認していきましょう。
特に、何か災害が起こったとき、避難場所は避難経路、その対処法について、しっかり考えておきましょう。
あなたも地域の一員です。一般人として、校区内の施設やお店などに立ち寄り、地域の人たちお話ししてみるのもいいことですね。
ポイント4 学校の歴史を知る
学校の歴史を知ることは、過去の事例から今後何をすれば良いかと、判断する材料を探すことにもなります。創立100周年など、アニバーサリーが近いかどうかはもちろん、校地内に植栽されている「記念樹」などは、老木となり撤去しなくてはならない状況になったとき、そのいわれを知っているのと知らないのとでは、対応と周囲からの評価に雲泥の差が出てきます。
学校の歴史を知ることは赴任早々でなくても良いですが、少なくとも学校から発行する紹介リーフレットなどに記載されている学校略歴は理解し、外来者には説明できるようにしておきたいものです。徐々に地区内のさまざまな会合に顔を出しながら、昔から学校との関わりを持つ、地域の年長者や役職者などの知己を得るのも良いことです。寄付されたものを把握し、寄付してくださった方の名前や顔を覚えて、挨拶できるようになっておくと良いですね。
ポイント5 少し将来を見通す
学級担任は一ヶ月先を。学年主任は一学期先、教務主任は1年先を見通して、学級や授業の姿をイメージしながら業務を進めます。あなたも先を見通して教務主任を指導し、具体的にアドバイスをして年間計画を立てていきましょう。
さらにあなたは、組織の舵取りをしていくためにも、2~3年先の学校の姿をイメージしておくくらいが良いでしょう。市町村の大きな行事やイベントのこと、周年行事のこと、校舎改築整備のこと、県や市町村の教育研究指定などなど…。
今後◇◇◇が起こるだろうから、今は具体的には□□□をしなければならない…と、スケジュール感・課題感を持って仕事に当たりましょう。
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<ダウンロード特別付録>
筆者が教頭時代に制作した年間カレンダーです。編集可能な形式になっていますので、皆さんもぜひダウンロードしてご活用ください。
>>教頭職が取り組む危機管理(職員指導)カレンダー2023
【参考図書】
『総合教育技術 2012年5月号』(小学館)
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。