「数学的な見方・考え方」が「深い学び」のカギ【算数】
新学習指導要領で示された「主体的・対話的で深い学び」というキーワードの中で、特にイメージしづらいのが、「深い学び」。小三・小四の算数では、「数学的な見方・考え方」を働かせるような深い学びのある授業づくりをするには、どこがポイントになるのか。神奈川県川崎市立久本小学校の松浦信明先生にお話を伺いました。
目次
「数学的な見方・考え方」を踏まえて意図的に指導する
「深い学び」については新学習指導要領の解説で、見方・考え方がカギになることが示されています。ですから、見方・考え方を働かせるような授業づくりをしていくことが必要で、数学的な見方・考え方とはどのようなものなのかを理解し、意図的に指導することが必要です。
本市の小学校算数教育研究会では、その重要性を踏まえ、学年や単元を超えた数学的な見方・考え方について一度、整理を行いました。
現在は来年度の新学習指導要領の全面実施に向けて、再度整理が十分なものであるかどうか、ていねいに見直しを図っているところです(*ちなみに現在、同市の見方・考え方については見直しが行われているところだが、「1を決めてその何倍か(割合)」「○○の何個分(単位の考え)」「目的に応じた分類・整理(データの活用)」等が、学年・単元を超えた見方・考え方として再整理されつつある)。
そのような数学的な見方・考え方を踏まえた授業づくりを行ったうえで、まとめやふり返りを通して、子供たちにしっかり意識させていくことが大事だと思います。見方・考え方を意識したまとめを行ったうえで、ふり返りの中で「こうすると他のところでも、単位の考え方が使えそうだ」とか、「見通しをもって学習に取り組めそうだ」というような内容のものが出てくるようにしたいものです。そして、すでに学んだ見方・考え方については、「あの考え方を使ったからできたよ」ということが出てくるようにしたいと思います。
さて、見方・考え方については、多様なものがあると考えられますが、その中で、例えばまとまりに着目して、そのいくつ分で考える「〇〇の何個分」という単位の考えは、間違いなく大切な数学的な見方・考え方の一つだと思います。しかし一方で、単位の考えは多様な単元の中に出てくるため、「すべてを一つにしてしまってよいのか」という議論も本市研究会の中にはあります。単位の考えは多様な学習につながっていくので、ここでは私自身が問題なく単元や学年を貫いていけると考えている、「○○の何個分」という見方・考え方(資料参照)について説明をしていきます。
●資料「〇〇の何個分」の見方・考え方の系統図(一部)
「○○の何個分」という考え方を意識させる
3年に「10000より大きい数」という単元があります。この単元では最初、10000ってどんな数だろうというところから始まり、位に着目して、数のまとまりを意識し、表し方や比べ方や数え方を考えていったりします。
この学習は一年生の時からやっている十進位取り記数法の原理がもとになっており、10のまとまりが5個で50、100のまとまりが7個で700…という考え方の拡張版です。それがとても大事で、5000+7000は、1000の位を単位にすると5+7=12となり、1000が12個だから12000と言えるわけです。
それは例えば、重さや分数等、多様な単元でも使えるわけで、もっと授業の中心として大事にしてもよいと思います。
残念なことに、この単元は子供たちにあまり考えさせず、数の読み方や計算の手続きを確認させるだけで授業が終わってしまう例が多く見られます。しかし、ここで「○○の何個分」という考え方を意識させていけば、次への学習の見通しが立つので、同じ見方・考え方が使える未習の問題に出合った時、問題解決の見通しが立ちます。
そこで学習のまとめで、「○○の何個分」ということを押さえ、ふり返り等でしっかり意識させていくことで、単位の考えと関連付けながら学習を深めていくことができます。
「○○の何個分」という見方・考え方を「面積」でも働かせる
「○○の何個分」という見方・考え方は、直接測定や間接比較とか、任意単位による比較、普遍単位による比較にもつながっていくと思います。4年の単元で言えば、例えば「面積」で働かせて大事にしたいところです。
この単元では、形の違う2種類の長方形の花壇があり、どちらの面積が広いかという問題に取り組むような学習があると思います。そこで任意の正方形を使い、その何個分かということで、面積を比較していくわけです。
ここで学習をまとめる時、「どちらかの正方形の大きさに揃えて、『同じ大きさの正方形何個分』で比べればよい」とまとめるのです。そうすると、それまでの学習で、子供が「○○の何個分」という見方・考え方を意識していれば、例えば「先生、3年でやった『○○の何個分』という考え方に似ているね」ということを言うかもしれません。
もし子供たちから出てこなければ、「似たような考え方を使ったことはなかったっけ?」と投げかけてみると、「そう言えば、3年の時に○○の何個分って考え方が出てきていたよね」と、子供たちの間から出てくるはずです。
そのような押さえができていれば、その後の普遍単位による測定にも自然につながっていくことになると思います。
面積を求める時、縦×横という公式を使いますが、それを単なる公式として覚えるのではなく、「1㎠の単位正方形が何個か数えているのだ」という意味まで理解できるようにしたいものです。そうすれば、例えば、5年の体積の学習でも、縦×横×高さを単なる計算の手続きとして覚えるのではなく、1㎤という単位立方体の数を数えているのだということがしっかり意味理解できることだと思います。
取材・文/矢ノ浦勝之
『教育技術小三小四』2019年10月号より