次の世代に何を伝えますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #58】


多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第58回は、<次の世代に何を伝えますか?>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
相澤先生との出会い
2023年1月5日木曜日の読売新聞の「教育ルネサンス」というコーナーに、一人の教師が紹介されました。上越市立直江津東中学校校長の相澤顕氏です。氏との出会いは私にとっては鮮烈なものでした。私の勤務する上越教育大学教職大学院では、カリキュラムの中に学校実習という、学校現場における実務が組み込まれています。学校現場からいただいた課題を、院生たちが現場の先生方と協働で解決にあたります。氏は、私が大学の教員になって間もない頃の実習先の中学校の教頭でした。氏が学校実習の受け入れ担当だったので必然的に顔を合わせる機会が多くありましたが、初対面の時に受けた得体の知れないオーラに圧倒されました。人なつっこい笑顔と独特の話術で出会う人を一瞬で虜にしてしまうような魅力を纏いながら、その芯には鋼の信念を感じさせる佇まいでした。しかし、それが「鮮烈なもの」という印象になったわけではありません。
ある日のことです。比較的落ち着いた学校といえども、毎日いろいろなことがあります。その日は、一人の男子中学生が授業に出席せず、体育館のステージ脇の控え室に籠もって大声を出して暴れていました。氏と私が校舎を歩いているとその場面に遭遇しました。180㎝を超えるであろう大柄の男子中学生が暴れている様子は、小学校の学級崩壊したクラスを担任した私でも恐怖を感じました。しかし、氏は私に向けた笑顔のまま「おお~、どうした~、何があった~」と緊張感を微塵も感じさせない自然な姿で控え室に入り、扉を静かに閉めました。最初は、男子生徒の怒鳴り声とドスン、バシンと何かを投げつける音がしましたが、やがて静かになりました。私は生徒指導が始まったと思い、その場を去りましたが、後で様子を聞くと「大丈夫、大丈夫、ええ子になって授業へ行きましたわ」と穏やかな笑顔を浮かべて言いました。
あの日、あの控え室で何があったかはわかりません。ただ、そのとき相澤顕という人の、朗らかなオーラに包まれた鋼の信念に少しだけ触れたような気がしました。氏の指導スタイルや人としてのあり方は、恐らく私とは真逆だと思います。人は、自分にないものをもつ人に憧れたり、ときには反発したりするといいます。私の場合は、自分が絶対に立ち入ることができない世界に踏み込む力をもっている存在として畏敬の念を感じていたのかもしれません。氏はどんな仕事をしてきた教師なのでしょうか。読売新聞の記事からその片鱗に触れてみたいと思います。
「パンチ力調査」を挑む
記事には相澤氏の教諭時代の「番長」とのエピソードが生き生きと描かれています。当時の氏の勤務する中学校には不良グループがいました。柔道の有段者である氏に、同僚は不良グループの排除を期待したようですが、氏は真逆の仕事をします。赴任して2週間頃のある日、どうしても彼らとつながりをつくりたい氏は、保健室での騒ぎをきっかけに彼らに言いました。「パンチ力の調査をしてやるよ」。そして、胸を突き出し3人のパンチを受けました。彼らが手加減しているのを感じたそうです。そのとき「番長」が言いました。「俺たちに相澤を殴る理由、ないよな」と声を上げ、仲間を連れて出て行きました。「番長」たちは、「顔や腹を殴ることもできたはずだった。しかし、それをしなかった」、氏はそう解釈し、彼らを信じることにしたといいます。
ある日の放課後、番長が数人の教師とにらみ合いになりました。力づくで番長を引きはがしましたが、番長は氏の胸ぐらをつかんで言いました。「俺とあいつらのどっちを信用するんだ」。氏は迷いました。どちらとも答えられません。どちらか選べば、もう一方の信用を失うことになります。氏は咄嗟に魂からの一言を叫びます。その言葉を聞くと、番長の手から力が抜けました。その後、番長は氏の誘いを受け、柔道部に入部します。不良グループも徐々に授業に参加するようになったといいます。記事には詳細が書かれていますので、さらに知りたい方はそちらにあたっていただきたいと思います。