一人一人が見通しをもって、自分の問題の解決に向かう授業 ~5年「ものの溶け方」を例に~【理科の壺】
授業の中で問題解決をするときは、クラスで立てた学習問題に対し、一つ一つ実験や考察をしていきながら、学習を進めていくことが多いのではないでしょうか。先生がコーディネートすることで、学習方法の習得は確実になると思います。しかし、一人一人が問題の見出しをするけれども、クラスで学習問題を整理していくことによって、自分の問題とクラスの問題にズレや相違が生じてしまい、子どもたちが自分自身で問題の解決をしている実感が持てなくなることもあるかと思います。
子どもたちに任せて良い部分では、子どもたちが主体的に学びの成果を発揮しながら、それぞれの問題意識を大切にして学習を進めてほしい。
では、子どもたち一人一人が見通しをもって、自分の問題の解決に向かう授業をするには、どのように単元を設定するのが良いでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・宮野利隆
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
1.クラスの学習問題は広く抽象的な言葉を使って立てる
子どもたちに見通しをもたせるためには、学習問題を自分たち自身の「具体化した言葉」で表現することが大事であると考えられます。
そこで、個別で問題を見出した後のクラスの学習問題は、あえて広く抽象的なものに設定します。そうことで子どもたちは、この抽象的な言葉に自分なりの言葉で表現した具体性を加味し、自分なりの方法で解決へと向かっていくようになります。つまり、一人一人が自分なりの仮説をもちながら、見通しをもって問題解決に向かうことができるようになります。5年「ものの溶け方」の学習を例に考えてみましょう。
5年「ものの溶け方」の学習では、「物が水に溶ける量は水の温度や量、溶ける物によって違うこと」について追究していく場面があります。
ここでは、
溶け残ったもの(食塩やミョウバン)を溶かすことはできるのか
とクラスの学習問題を立てます。
このような学習問題に対して、子どもたちは、生活経験や既習での学びを想起しながら予想や仮説を立てていきます。
水の量を増やせば、そこに入ることのできるものの量も増えるんじゃないかな。だから、水の量を2倍にすれば、溶けるものの量も2倍になるはずだと思う。
温かい紅茶に砂糖を入れるとよく溶けたから、温度を変えると溶ける量は増えるんじゃないかな。
水は温めると体積が増えたから、溶ける量も増えるんじゃないかな。
水は温度を低くすると、小さくなるから物を溶かしてとじ込める力が強くはたらくんじゃないかな。
流れる水のはたらきの学習で、大きな石が何度もぶつかり合って削られることで小さくなっていくと学んだから、溶け残ったものもたくさんかき混ぜれば溶けきるんじゃないかな。
これらを分類していくと、
「水の量を増やすと溶ける量は増えるのだろうか?」
「温度を高くすると溶ける量は増えるのだろうか?」
「温度を低くすると溶ける量は増えるのだろうか?」
「かき混ぜ続けることで、溶ける量は増えるのだろうか?」
などと分けることができます。
一人一人が納得のいく予想もあれば、そうでないものも含まれているはずです。
クラスで順序を決めて全員で同じ実験を進めていくのではなく、自分の納得のいく予想に対して順序を決めて実験を行っていきます。
2.活動の見通しをもたせ、子どもたちが学び合うことのできる環境を整える
そして、実験など実際の活動を始める前に、子どもたちが問題の解決に使える時間をあらかじめ設定し、伝えておきます。
そうすることで、見通しをもって実験の計画を立てるなど、自分たちで学びを調整しようとする姿が見られるようになります。
これは、1/4時間目の板書の様子です。このように、誰がどの問題に対して向かっているのか、共有しておくことで同じ問題に向かう子ども同士が実験方法の準備や確認を協力しながら解決に向かうことができます。
結果を共有することで2回目以降の実験に視点をもって臨ませる
今回の場合、4時間ほど時間をとってありますので、子どもたちは2つか3つの実験を行えるだろう、と想定しています。そして、1回目の実験結果を全員で共有することで、次の実験を行う際に視点をもって臨むことができます。
例えば、かき混ぜ続ける実験に臨んだ子どもたちは「あんなにたくさん振ってかき混ぜても溶けなかったミョウバンが温度を上げるだけで、本当に溶ける量が増えるのか!」
とか、温度を上げることでミョウバンの溶ける量が増えることを理解した子どもたちは「ミョウバンは温度を上げることで溶ける量がどんどん増えていったのに、食塩の溶ける量は本当にあまりかわらないのか?」
と批判的な思考をもって実験に臨むことができます。
自分が確かめたいことを自ら実証したり、友だちの実験結果を聞いて驚いたことを確かめたりすることで、子どもたちは自分自身で問題を解決した、という実感と経験を積んでいくことができます。
このように、問題解決を行う経験を一人一人が行っていくことで、メタ認知を働かせて自己の学びを調整する力が養われていきます。すべての単元でこのような取り組みを行うことは難しさもあります。しかし、カリキュラムをデザインする中で、個別が最適な方法で問題解決を行っていく単元を設定していくことは、子どもたちの資質・能力をよりたしかなものへと導いていくことにも繋がります。
イラスト/難波孝
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<執筆者プロフィール>
宮野利隆●みやの・としたか 川崎市立小学校教諭。川崎市立小学校理科教育研究会常任委員、令和3年度川崎市総合教育センター理科教育会議研究員、神奈川CST。自らの学びを調整する子どもの育成を目指した授業の実践や改善及び研究を行っている。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。