問題を見いだす力を育成する、小学校理科の導入アイデア 【理科の壺】
どの自然事象を提示したら、子どもたちが意欲的に問題を見いだそうとするのか? が先生にとって大きな課題になります。教科書に載っている事例では、必ずしも各学校の状況に合っているわけではありません。したがって、問題の見いだしのためのアイデアをたくさん知っていることが大切になります。このようなアイデアは、先生向けの指導法の本に載っていることが多く、このような本も併用して考えていくとよいでしょう。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/北海道公立小学校教諭・植松結花
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
授業の最初に、「教科書の○ページにかいてある問題を読みましょう。」や「今日は○○という問題について考えるよ。」などと先生から問題を示していませんか? 問題を子どもたち自身が見いだすには、事象との出会い方を工夫することが大切です。そこで、事象との出会いを工夫する指導のアイデアを各学年1つずつご紹介します。
3年「電気の通り道」
電気を通すものと通さないものを調べる学習の導入場面では、車のおもちゃを動かすと豆電球が光ったり消えたりすることを観察することで、子どもたちの疑問を引き出します。
車を走らせると豆電球が光ったり光らなかったりする様子を見て、なぜそのようになるのか疑問に思うでしょう。豆電球が光るところにはアルミホイルが、光らないところには紙が貼ってあることに気付くと、「アルミホイルは電気を通すけど、紙は電気を通さないのではないかな」「他にも電気を通すものや電気を通さないものを調べたい」と意欲をもって活動につなげることができます。
4年「雨水の行方と地面の様子」
タイムラプス機能を使って動画を撮ると、長時間観察を行わなくても早送りで地面の変化の様子を見ることができ、土地の様子について問題を見いだせます。
鉄棒の下は一番初めに水たまりができたよ。
砂場は最後まで水たまりができなかったな。
水たまりのできやすいところとそうでないところでは土の様子が違うよ。
土の粒の大きさによって水のしみこむ速さが違うのかな。
5年「動物の誕生」
人の誕生の導入場面では、魚や亀、豚や羊などの動物と人の初期の胚の様子を並べて、『どれが人に成長するでしょう?』と問いかけます。まず、イラスト上段のみを見せます。
全部同じように見えるよ。
本当に人に成長するものがあるの?
次に、少し成長した姿を見せます。魚などは明らかに形が細長くなっていくので違いが分かりますが、他はまだ何に成長するのかよく分かりません。子どもたちは、初期の胚を見比べて共通していることや違いに目を向けながら人になりそうな部分を探します。
左は魚になるんじゃないかな。
手や足に成長するのはここかな?
最後に成長した姿もあわせて見せます。
魚と人の姿は全然違うのに、似ている時期があるなんて不思議!
改めてみると、初めの頃から豚にはしっぽになりそうなところがあるね。
など、たくさんの不思議を見つけるとともに、初めはそっくりに見えた姿からだんだんとそれぞれの動物の姿に成長していく様子を見ることで、共通性・多様性の見方や、時間的な見方を働かせながら人の誕生について問題を見いだすことにつながるでしょう。
メダカは10日間で生まれたけど、他の動物はどのくらいかかるのかな。
6年「植物の養分と水の通り道」
単元の学習の前に、しおれてしまった植物が起き上がる様子をタイムラプス動画にしておきます。そして、単元の導入の場面でしおれてしまった植物を見せて、子どもたちに「どうしよう…?」と相談すると、「まだ水をあげたら生き返るかもしれない!」「これは、枯れてしまっているよね」などといろいろな意見が出ることでしょう。そこで、タイムラプス動画の登場です。水をあげると立ち上がっていく様子を見て、「ほら!やっぱり生き返った!」と喜ぶと同時に、どうして水をあげると植物は立ち上がるんだろう…」と疑問を出し合い、水の通り道についての問題を見いだすことができます。
理科の壺は毎週水曜日更新です!
<執筆者プロフィール>
植松結花●うえまつ・ゆか 北海道公立小学校教諭 理科専科
北海道小学校理科研究会(旭川支部)、日本初等理科教育研究会(旭川支部)、SSTAソニー科学教育研究会に所属し理科教育について学んでいる。第69回北海道小学校理科教育研究大会旭川大会では、プレ授業研修会で授業者を務めた。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。