ギフテッドは日本に何%いるのか?―北欧インクルーシブ先進国から学ぶ改革のヒント―

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学級の中に、外国人児童もギフテッドもいる…。これが、「今の日本の現実」です。全ての子の学びを保障しようとするとき、一斉指導がベースの教育システムに限界を感じている方もいるかもしれません。

さまざまな「学び方」が共生している北欧の教育から、これからの教育に必要なエッセンスを考えてみませんか? 

第31回「日本LD学会」では、高知大学大学院の是永かな子先生が、北欧の教育実践の視察報告と、それを踏まえての「日本のギフテッド支援」への提言を行いました。

本記事は、是永先生の研究発表をベースに、追加取材をさせていただいたものです。

北欧諸国の取り組み

スウェーデンの取り組み

移民が20%を占めるスウェーデンでは、「母語がスウェーデン語でない子」が、当たり前にいます。

一方で、ギフテッドは、「多様な教育的ニーズのある子ども」として位置づけられ、教育保障を受けています。

下記の写真は、1年生のスウェーデン語の授業です。子どもが開いている教科書に着目してください。

難易度1は、単語を見ている
難易度5は、長文を読んでいる
同じ学年の中で、異なる教科書が使われています。

同じ学年ですが、「単語の意味と一致させた大きな絵」が目立つ教科書を読んでいる子もいれば、長文が記載されている教科書を読んでいる子もいます。

同じ学年でも、教科書は3種類、進度を含めると5段階の「学び方」が共生しています。

授業の受け方も、とても自由です。机に座って授業を受ける子もいますが、床に座っている子、床に寝そべっている子など様々です。

公立校の授業スタイルです

フィンランドの取り組み

フィンランド・ヘルシンキ市のインクルーシブ授業を実践している学校では、さまざまな子どもが、ともに学んでいました。是永先生は、言います。

大規模学級で授業をしている間に、小規模学級で指導を受けている子もいます。フィンランドでも、個々に応じたテキストでの学習が行われていました。

「学び」の枠組みは、柔軟な体制

インクルーシブ教育では、学び方は違っても「みんな同じ価値を持つ」ことを繰り返し指導します。

子どもの「学習余白」を少なくする

スウェーデンとフィンランドの他に、デンマークとノルウェーの教育実践の報告もありました。

多様な学びを保障するためのかかわり方は、たくさんあります。子どもの「学習余白」を少なくするという視点で、かかわりを図にしました。

多様な学びを保障するイメージ図
  1. 教員が、かかわる。子どもから、教員に質問がある。
  2. 教科書を使って、子どもが一人で学ぶ。
  3. 補助教材ICTやワークシートを使って、子どもが一人で学ぶ。
  4. 子どもが、他の子ども( or 他の子ども集団)に質問をする。
  5. 他の子ども集団が、子どもに説明をする。
  6. 一緒に学び合う。

図にしてみると、「学び方」はたくさんあると実感できます。

日本のギフテッド支援への提言

大枠は3つ

是永先生の発表は、「日本LD学会」の「ギフテッド分科会」の中で行われました。

ギフテッドという概念が浸透している北欧の視察を踏まえて、是永先生はこんな提言をされました。

これからの日本のギフテッド支援で大切なことは、大枠として3つあると考えます。

  1. 「一時的な支援の場」としての通級の有効活用。一時的支援で知的好奇心を満足させ、SST(ソーシャルスキルトレーニング)を含めた社会性学習を行うことで、通常学級での居場所と仲間との学びを保障する。
  2. 単に知的能力が高いことも「特別ニーズ教育」の対象と捉え、支援をすること。北欧では「浮きこぼれ予防・支援」として子どもに発展的学習内容を保障していた。
  3. 「ギフテッド支援」が公教育として保障されること。日本では知的好奇心の充足は、有料のリソースが活用されることが多く、家庭環境に左右されやすい。

緊急課題は、ギフテッドの量的把握

是永先生の発表に対して、会場からの質疑応答では、「現場にいる教師です」とおっしゃる方から、こんな声があがりました。

「通常学級の中にギフテッドが『いる』」ということは、多くの教師が分かっていることだと思います。ただ、「学習指導要領に沿って一斉指導を行う」ということが気になって、身動きがとれないんです。 

「外国の教育実践」を、そのまま日本に導入するのは難しい…。それは、確かです。

けれども、誰かが、何かを変えていかなければ、現状は変わりません。今の教育システムを前進させるために、何が必要なのでしょうか? 是永先生は、即答されていました。

「通常学級に〇%のギフテッドがいる」という数字があれば、ギフテッド支援の必要性が、より明確になると思います。それが、次の一手です。

なるほど、次の一手は、量的把握なんですね!

デンマークやスウェーデンでは「ギフテッド支援が有効な子ども」は人口の5%と見積もられており、地域の公立学校の教育の一環として位置付けられています。

ギフテッドの「調査」についての提言

「新しい概念が、教育現場に浸透する」という意味では、「特別支援教育」が全国に広がっていったときの枠組みが参考になりそうです。それは…。

調査 → 数字(予算)→ モデル事業 → 全国展開

昨年の秋、「ギフテッド」の有識者会議が文部科学省に提言を行い、2023年度の文科省予算案には、「ギフテッド」支援、実証研究費として8000万円が盛り込まれました。

前述の枠組みで考えると、「モデル事業」が始まった段階でしょうか…。けれども、是永先生は言います。

内閣府は、IQのベルカーブの正規分布に従って、「ギフテッドは、2.3%いる」と示しました。しかし、この数字は調査によって導かれたものではありませんので、一度、ギフテッドの現状調査が必要だと考えます。

是永先生が考える「調査」のポイントは2点です。

  1. 文部科学省が行う。
  2. 前例(※)を踏襲して行う。 

※ 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国調査

質問項目は、デンマークが2024/2025年度から開始予定の、スクリーニングチェックテストが参考になると思います。

デンマークでは、「下記チェックリストの25項目中、19項目以上が該当した子どものうち、85%がIQ120以上であった」という研究報告があります。

デンマークで実施したチェックリスト

  1. 推理が得意(考えるのが得意、細かく議論するのが得意、面倒くさいように見える)。
  2. 習得が早い。
  3. 豊富な語彙力がある。
  4. 記憶力が抜群に良い。
  5. 広範囲の注意力を持つ(子ども自身が面白いと思うことに関して)。
  6. 繊細で感情的。
  7. こだわりを見せる。
  8. 完璧主義。
  9. 夢中になれる。
  10. モラルに敏感。
  11. 好奇心旺盛。
  12. 自分の興味に執着する。
  13. 非常にエネルギッシュ。
  14. 年上の仲間や大人を好む。
  15. さまざまなことに興味を持つ。
  16. ユーモアのセンスがある。
  17. 早くから本を読んでいた、よく読んでいた、読み聞かせが好きだった。
  18. 公平・公正に配慮している。
  19. 子ども年齢に比して非常に成熟した判断をすることが多い。
  20. 観察力が鋭い。
  21. 想像力が豊かである。
  22. 高い創造性。
  23. 権威に疑問を持つ傾向がある。
  24. 高いレベルの計算能力を持っている。
  25. パズルが得意。

「国際競争力がある人材を育てる」という意味では、「世界のギフテッド教育は、どうなっているのか?」という視座の高さは必要かもしれませんね。

是永かな子 高知大学 教職大学院教授
専門はスウェーデンの教育制度史研究。20歳の時のスウェーデン留学で、「日本とは全く違う社会」があることを知り、衝撃を受ける。異なった思考軸である「北欧の社会システム」を研究することで、日本の常識だけに捉われない教育提言を行う。

取材・文 楢戸ひかる イラスト/横井智美

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