宗教2世【わかる!教育ニュース#16】
先生だったら知っておきたい、さまざまな教育ニュースについて解説します。連載第16回のテーマは「宗教2世」です。
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宗教2世の問題は学校関係者にとっても、新たな問題点
「学校行事に参加するな」と保護者に言われる。友達との付き合いを縛られる。保護者が過大な寄付をして家計が困窮し、進学できなくなった。そんな子供がいたら、周囲が何かしら助けに動くでしょう。でも、なかには「宗教」を理由に、救いの手を差し伸べてもらえなかった子供たちもいます。
「宗教2世の問題は学校関係者にとっても、新たな問題点と認識しなければいけない」。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の信者を保護者にもつ子供への対応を巡り、永岡桂子文部科学相は2022年11月11日の閣議後会見でそう言いきりました。
これに先立ち、文科省は前日の10日付で各教育委員会などに、教団絡みの悩みを抱える子供を支援するため、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーと協力して、教育相談に取り組むよう通知しました。「宗教に関係することのみを理由に消極的な対応をすることなく、課題を抱える児童生徒の早期発見、早期支援・対応に努める」と求めています。心のケアが必要な場合は校内で情報を共有し、事に臨むよう促しました。9月と10月にも同様の通知を出しています。
ほかにも、児童相談所など関係機関と学校が緊密に連携することも要請。宗教絡みの悩みに対応した場合は、報告を求めました。授業料や教育費の悩みを抱える子の経済的支援の相談にも、ていねいに応じるよう説きました。
教委や教員も研修などを通じ、必要な知識と技能を身に付ける
宗教2世の問題に公的機関はこれまで、内心の自由や家庭内のことに踏み込むことになると、後ろ向きでした。流れが変わったきっかけは、安倍晋三元首相の銃撃事件。容疑者は、信者の母親の過剰な献金で家庭が崩壊し、教団とつながりがあると思った安倍氏を襲ったとされ、社会の関心が高まりました。
信仰を絡めた悪徳商法や、信者の保護者をもつ子供の苦境などに対応しようと、政府は8月、旧統一教会の問題を巡る関係省庁連絡会議を設置。法務省、警察庁、消費者庁、文科省、厚生労働省などの関係者が集まり、被害者の相談対応や救済を議論してきました。
会議が9~10月に行った電話相談には、2367件もの訴えがありました。最も多いのは、物品購入や献金など金銭トラブルで、68%に上ります。宗教2世からも「高校生のとき、教団関係者に1週間断食させられた」「保護者の献金で経済的に苦しく、修学が困難」といった悲痛な声が寄せられました。
11月10日の議論のまとめでは「関係者が十分な理解と認識に基づいて適切な対応を行えるよう、(国の法律相談窓口の)『法テラス』を中心に共有した知見に基づき、研修などの機会を通じ、必要な知識と技能を身に付ける」としています。これは、教委や教員も「関係者」の一人として、対応に動くことを意味しています。
内心の自由に関わるだけに、どこまで踏み込んでいいか、とまどいはあるでしょう。けれど信仰を盾に、子どもの人権を侵してよいはずはありません。
いじめ防止【わかる!教育ニュース#17】はこちらです。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子