マグネットシートを活用した「予想の活動を深める」授業デザイン 【理科の壺】
先生方の授業の工夫は、自身の授業の経験をもとに気づいたり、ほかの先生の工夫を知り自分のものにしたりすることで増やしていくものです。自分の経験から気づくことは、人から指摘されて初めて気づくことや、忙しさからそのような余裕がないといったことから気づけないこともあります。一方、ほかの先生からの工夫は、その先生にとって「効果があった」厳選されたものを教えてもらうことが多いです。もちろん、先生の個性によって向き不向きというのはありますが、参考になるものです。今回はどのような工夫があるでしょうか。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・齋藤照哉
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
A教諭は、6年生を担任する4年目の若手の先生。理科の授業の進め方で悩んでいるようです。少し聞いてみましょう。
はぁ…。
どうしたんだい?
実は、予想の授業が上手く行かなくて困っているんです。
どんな風に上手く行かないのかな?
予想を書いた後の話し合いがいまいち深まらなくて。ただの発表会になってしまうんです。手を上げるのも理科が得意な子ばかりで。
そうなんだね。では、今日は予想の場面で考えがたくさん出たり、深まったりするような授業デザインについて考えていこうか。
よろしくお願いします!
1.一人ひとりが自分の考えを主張するための工夫
理科の授業では、実験の前に子供たち一人ひとりが自分の予想をしっかりともっていることが大切です。予想の交流では、全員の予想を発表する時間は中々取れないですし、全体の前で話すことが得意ではない子供もいます。そんな時は、マグネットシートを活用して、自分の予想と同じものに貼っていくように工夫します。
●マグネットシート活用した板書例 【単元】6学年「水溶液の性質」
なるほど! こうすれば全員の子供が予想を主張できるわけですね。
そう! 自分の立場をはっきりとさせることができるし、誰がどんな予想をしているかが教師も子供も一目でわかるんだよ。
手を挙げて発言するだけが、自分の考えを主張する方法じゃないんですね。
マグネットシートは工夫次第で、もっと予想の場面で活用できるんだよ。
なんですって!? 詳しく教えてください。
2.より多くの考えや変容を引き出すための工夫
先ほどの板書例だと子供たちの考えは二つに分かれているように見えます。しかし、子供たちの考えを詳しく聞いてみると、それぞれの意見は少しずつ違っています。この違いを大切にすることで予想を立てる活動は充実します。子供たちの考えの違いを “見える化” する工夫として、予想の自信度を表現するものがあります。
●マグネットシート活用した板書例 【単元】6学年「水溶液の性質」
こうやって見ると、同じ予想でも子供たちの自信度には違いがあるんですね。
予想の分類は二つでも、子供は多様に考えているんだよ。例えば△の子になぜ自信がないかを聞いてみる。そうすると、みんなの予想が深まる発言が出てくることがあるんだ。「わからない」や「自信がない」は考えを深めるチャンスなんだ。
なるほど!
自分の予想を書いてからマグネットシートを貼って、交流が終わった後にもう一度マグネットを貼り直す時間を儲けるとさらに有効的だよ。次の板書を見て!
●予想の交流後にマグネットシートを動かした時の板書例
さっきとマグネットシートの位置が変わっているなぁ。
両面使えるマグネットシートを使って、移動させた子は裏返して黄色にしているんだ。
こうすると誰が変わったかが一目で分かりますね。
変える前の板書と比べると、「自信度が上がった子」、逆に「下がった子」、「“同じ性質をもつ” から “もたない” に変わった子」がいるね! A先生だったらこの後の授業はどうする?
そうだなぁ…。考えが変わった子の話を聞いてみたいです。
とてもいいと思うよ! なぜ変容したかを問うことで、みんなの考えがより深まりそうだね。この予想をとっておいて、考察の場面でもう一度動かすこともできるんだよ。
すごい! これならすぐにでもできそうだからやってみます。ありがとうございます。よ〜し、頑張るぞ!
A教諭は先輩教諭のおかげで、予想の授業が上手くなるツボを見つけたようです。マグネットシートと自信度を使った予想の表現は、慣れてくれば短時間で行うことができます。この事例では、数字で表現していますが、普段使っている名札のマグネットで十分です。予想を深める理科授業に皆さんも、ぜひチャレンジしてみてください。
※自信度を表現する指導方法は「文京学院大学客員教授 森田和良先生」のご実践を参考にしています。
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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〈執筆者プロフィール〉
齋藤照哉●川崎市立日吉小学校教諭。平成21年より川崎市立小学校理科教育研究会に在籍し、理科教育の研究に携わる。横浜国立大学にてCST(コアサイエンスティチャー)プログラムを履修し、認定後は神奈川CST協会の事務局として理科の振興を目指し活動を行なっている。令和4年度は横浜国立大学教職大学院に現職派遣として在籍し、学校マネジメントプログラムについて学んでいる。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。