考えて表現する「社会科×プログラミング」 – 森村学園初等部・川島大和先生の実践
文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引」では、プログラミング教育のねらいの一つとして、「教科等での学びをより確実なものにする」ことを挙げています。
「社会科×プログラミング」でそれを実践しているのが、森村学園初等部で3、4年生の社会科専科を担当している川島大和先生です。川島先生が大切にしていることは、「授業が楽しいかどうか」。子供たちがより楽しく、主体的に学べるように、まなっぷや、Springin’といったプログラミングツールを活用する先生の取り組みを詳しく紹介していただきました。
川島 大和 先生 (かわしま やまと)
森村学園初等部 3・4年生社会科専科
森村学園初等部4年目の新鋭。初めて「社会科」という教科に触れる3年生で社会科嫌いを生まないことを最大の目標に授業を展開している。授業を創る上での大前提として「自分が授業を受ける子供だとして、楽しいと感じるかどうか」を大切にしている。子供には毎学期授業アンケートをとり、その意見を授業に反映させている。
目次
デジタル地図を活用して「地図が読めない」問題を解決
最初にご紹介する「社会科×プログラミング」は、地図学習の取り組みです。「地図」について、学校ではどんなことを学んでいるのでしょう。地図記号を覚える、等高線や縮尺で高さや距離を計測する、あるいは調べ学習に使う、白地図に書き込む、などでしょうか。
ところが周りを見ると、地図学習をしていても「地図が読めない」という人が実は結構多いのです。つまり、現実に自分の目で見ている場所が地図ではどこにあたるのか見つけられず、地図を見ながら目的地に行くということができません。場所を知るために地図を使う方法がわからないのです。
そこで、3年生の「地図学習」では、子供たちにとって身近なデジタル地図を使い、プログラミング学習ツール「まなっぷ」を活用して、地図を読む学習をすることにしました。
「まなっぷ」は、ブラウザ上で使うことができるプログラミングソフトです。画面左側にプログラミングのブロック、右側に地図が配置されていて、ブロックを組み合わせて、地図上でキャラクターを動かし、いろいろな表現をすることができます。
デジタル地図を活用したブラウザ型のプログラミング学習ツール「まなっぷ School Edition」(ZENRIN)
でも、なぜこの学習にまなっぷを使うのでしょう。印刷物の地図帳を使うことももちろんできます。ただ、まなっぷが地図帳と決定的に違うのは、「A地点とB地点に線を引き、キャラクターが動き、さらにセリフや写真も表示できる」点です。つまり、複数の地点を紐付けして学ぶことができて、点ではなく、線、面で位置を理解することができるのです。しかも「A地点からB地点」に行く方法は、AIが最適なルートを選んで表示してくれます。これらは紙の地図ではできないことです。
1年生が安全に登校できるように、「まなっぷ」のプログラムでアドバイス
とはいえ、まなっぷでプログラミングをするだけでは、社会科の学びにはなりません。そこで、1年生をターゲットに、明確な目的を決めて取り組むことにしました。
まず、1年生担当の先生にお願いして、「駅から学校からの道で走ってしまう低学年がいて困っています。安全な登校のしかたを教えてあげてください。」とビデオで話してもらいました。そして、子供たちがまなっぷの操作を覚えたところで、そのビデオを見せたのです。その結果、「まなっぷで作った地図で教えてあげる」ことが決まりました。
1年生にとって危ない場所はどこなのか、みんなで話し合って考え、実際にその場所に行って、一人一人がiPadで写真を撮りました。あとは、子供たちが自由な発想で、駅から学校までの道の安全な歩き方を教えるプログラムを作りました。
作成の目的は同じでも、どの作品にも作り手のオリジナリティが出ていました。セリフを自由に設定できるので、語り口調や注意してほしいポイントの伝え方などが違い、線の色や写真の表示タイミング、プログラム全体の速さなども千差万別です。写真も一人ずつ撮ったので、アングルやズームなどが違って個性が出ました。中には、いくつかのプログラムを並行して走らせ、車や猫のキャラクターを複数登場させて動かすなど、柔軟な発想で私たちの想像を超える作品を作る子もいました。
早くプログラムができた子供たちは、お互いに見せ合ってデバッグのようなことをして、ユニークなプログラムを組んだ子供の作品を見て参考にするといったこともありました。自然に教え合いができていたと思います。
出来上がった作品は、iPadを持って1年生の教室に行き、実際にプログラムを動かして見てもらいました。3年生たちは、音読したり、「どう? わかった?」「もう1回見てみる?」と聞いたりしてサポートをしていました。
1年生は、作品を見終わった後に簡単な〇×クイズ(例:階段はかけおりて良い。〇か×か)を解き、感想を書きます。多くの1年生が、「楽しかった」「よくわかった」という感想でした。また、「早く私も3年生になって、小さい子に教えてあげたい」といった感想もありました。
子供たちの作品はこちらでご紹介しています。
まなっぷを使っていて、地図と現実世界がリンクしたことを実感した瞬間がありました。「曲がり角にピンを立てましょう」と言ったら、「曲がり角ってどこ?」という子供たちがいたのです。通学路で「曲がる」というのは毎日経験していて頭の中にその光景も浮かぶのですが、その場所が地図上でいうとどこなのかがわかっていませんでした。
そこでまなっぷでキャラクターを動かしてみると、「あ、ここで曲がった!」という発見があり、頭の中の光景と地図上の情報がつながりました。ここが曲がり角だよ、と教えてしまうのではなく、実際の動きを見ることで、曲がり角の場所が実感できたのです。
まなっぷは、社会科に限らず、遠足や、校外学習、林間学校などの振り返りに地図情報を足したり、理科のフィールドワークで学校内の植物マップを使ったりするときも使えると思います。私は、3年生の「まちたんけん」や、社会科見学などでも活用したいと考えています。
「防災」ゲームアプリ制作、明確な目的設定でモチベーションアップ
もう一つの「社会科×プログラミング」は、「防災」での実践です。3、4年生の「防災」の授業、苦労している先生は多いのではないでしょうか。私は、最初にこの授業をしたとき、横浜市が出しているハザードマップを読み取る実践を行いました。
ところが、子供たちは「広域避難所」などの凡例の漢字が読めないし、ふりがなを振ってもことばが難しくて意味が理解できない。さらに、地震が来たときの避難場所を調べたら、なんとそれは自分たちがいる学校で、じゃあ避難せずにここにいれば良いんだ…という結論で、あまり楽しくない、浅い学びになってしまいました。
そこで考えたのが、災害の際の「自助」について学ぶ授業です。「公助」の取り組みを知ると同時に、地震などの災害にあったとき、自分で自分の身を守り、さらに自分たちより小さい子供たちも守る「自助」ができることはとても大事です。
授業のテーマは、「もし大地震が起きたら?」。ただし、「教室では机の下に」「階段にいたら座って安全を確保」、といった答えは決まっているので、やり方によっては正解を教え込む「知識詰め込み型授業」になってしまう危険性があります。では子供たちに主体的に学んでもらうにはどうしたら良いのか。
私は、地震が起きたときの正しい行動について、「1年生に、Springin’で作るクイズゲームを使って教える」ことにしました。Springin’は、ゲームや絵本が作れるプログラミングアプリです。1年生というターゲットと、自分を守る行動についてアプリを作って教えるという明確な目的を設定することで、子供たちのモチベーションは一気にアップしました。
直感的な操作だけでオリジナルゲームや動くマンガなどが作れるアプリ「Springin’(スプリンギン)」(しくみデザイン)
「もし大地震が起きたら?」クイズをゲームアプリにする意味
ところで、1年生向けのクイズを「わざわざゲームアプリにする必要はある?紙でやってもできるのでは?」と思われるでしょうか。授業にICTを取り入れる実践に対しては、こういう声が上がることはよくあります。
しかし、「もし大地震が起きたら?」のクイズをアプリにする意味は大いにあると私は思っています。クイズの答えは選択肢から選びますが、紙を使うと、不正解だった場合は、残念、正解はこちら、で終わってしまいます。でもアプリの場合は、戻るボタンをつければ、子供たちは必然的に解き直すことになります。自分で操作して繰り返しトライすることで、より楽しく深く学ぶことができるのです。
クイズの問題は、森村学園初等部の全児童が持っている「森村生活手帳」という冊子の「災害がもし起こったら」というページにある情報から選びました。どの情報を使うかは子供たち一人一人が自分で決めました。
どうしたら1年生にもわかりやすいクイズになるか、子供たちに考えてもらうために、私はわざと大きな声で、「1年生が読めるようにするにはどうすれば良いかなぁ~」などと言ってみました。すると子供たちは、「この言葉遣いはどうかな」「漢字は使わないようにしよう」など、自分たちで考えて工夫し始めました。ゲームや音声を入れても良いか聞いてくる子もいました。
Springin’は、社会科だけでなくプログラミングの授業でも学んでおり、子供たちはみんなある程度使いこなせています。またこのクイズはそれほど難しいプログラムではなかったので、わからないことがあれば、私に聞いたり、友達同士で教え合ったりして解決することができました。
このような活動をするとき、私は基本的には、まず
- 私がやってほしいことを伝える
- 子供が自分でチャレンジする
- わからないことがあれば、子供たち同士で教え合う
という流れで進めています。その上で、どうしても分からずヘルプが必要、という子がいれば、私がサポートします。最初から教えてしまうのは簡単ですが、主体的な思考力をつけるためには、教員は極力教えず、まず子供たちに考えさせるのが大事だと思っています。
自由な発想で工夫して、1年生が楽しく学べるゲームが完成
完成したゲームは、1年生がiPadで実際にプレーしました。基本的には、問題は2択で、正解が選べなかったらクイズに戻り、再度回答して次に進む形です。答えのページには、説明も入れ、全問クリアしたら、おめでとうメッセージが表示されます。
このスタンダードな形以外にも、選択肢を増やしたり、案内役に猫のキャラクターを使ったり、質問のページに動きをつけたり、文字を読むのに慣れていない1年生のために音声で質問したり。そして、全問クリアするとミニゲームができる特典付き、というのもあって、子供たちはしっかり考えて、自由な発想で1年生が楽しく学べるゲームを作りました。
ゲームをしたあとは、私が紙で作った簡単な復習クイズを1年生に解いてもらい、感想も書いてもらいました。「知らなかったこともあったので気をつけようと思った」「全問正解で嬉しかった」といった感想を聞くことができました。
子供たちの作品は、こちらでご覧いただけます。
先生の役割は「教え込む」ことではなく「きっかけ」作り
まなっぷやSpringin’といったプログラミングツールを使う実践をご紹介しましたが、「面白いけれど難しそう」と感じる先生たちも多いかもしれません。
実は私も最初は同じで、プログラミングを教えられるのか不安でした。でも、いろいろやってみて、子供たちと一緒に学べば良いのだと気づきました。実際、アプリを作っているとき、子供たちに「キャラクターをバウンドさせたいけれどどうしたら良いですか?」と聞かれましたが、やり方を知らなかったので、「誰かわかる人いる?」と助けを求めたら、別の子が教えてくれました。
私は、内容や絵や文字の見せ方についてのアドバイスはしました。しかし、プログラミングでわからないことは、誰かに聞いたり、みんなでマニュアルを見て調べたりすれば良いと思っています。教員は、プログラミングの専門家ではないのですから、なんでも「教え込む」存在ではなく、子供たちに「きっかけ」を与える存在であるべきだと思います。
教え込んで暗記させる社会科から、考えて表現する社会科へ
私は、教え込み・暗記の社会科から、子供たち一人ひとりが考えて表現する社会科へのシフトが大切だと思います。「果たしてそれで本当に知識が身につくのか」といった懸念はあるかもしれません。たしかに、教え込んで暗記させていけば小学校卒業時の「知識量」は多くなるかもしれません。しかし、丸暗記の知識は抜けるのも早いですし、テストづくめで「社会科嫌い」の子を多く生み出してしまいます。
そこで、小学校の社会科では、「知識量」ではなく、「調べ方・考え方・表現の仕方を学ぶ」という「学び方を学ぶ」視点で授業をすべきだと考えています。調べ方・考え方がわかれば、自ら知らないことを調べ、考えて知識を吸収することができます。表現の仕方がわかれば、その知識をアウトプットすることができます。
これができるようになって小学校を卒業した子供は、中学高校に進んだとき、スタート地点での知識量は少なくても、社会科は好きなままで、主体的に学ぶことができます。そして、知識詰込みで「社会科嫌い」になってしまった子供たちとの差はすぐに埋まり、いずれは逆転するのではないでしょうか。これを信じて、これからも子供たちも私自身も楽しいと感じる授業にトライしていきたいと思っています。
取材・執筆/石田早苗
教育現場でICT活用を実践している先生や学生たちが、その実践事例やノウハウをプレゼンテーション形式で紹介するYouTubeチャンネル「iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜」はこちら → https://www.youtube.com/iteacherstv