「サーバントリーダーシップ」とは?【知っておきたい教育用語】
リーダーシップのあり方として、近年、これまで主流であった「トップダウン型リーダーシップ」に替わり、「サーバントリーダーシップ」が注目を集めています。「サーバントリーダーシップ」には、どのような特徴や強みがあるのでしょうか。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛
目次
リーダーシップとは?
組織の構成員をまとめる行為やそれに必要な資質をリーダーシップといい、一般に指導力、統率力などの資質を意味します。立場としてのリーダーが、必ずしもリーダーシップをもっている訳ではありません。また、資質というと先天的な能力を想起しますが、経験や研修などによっても身につくものとされています。
リーダーシップの類型とサーバントリーダーシップ
リーダーシップの理論や考え方は、多岐に渡ります。代表的なリーダーシップの類型としてしばしば取り上げられるのが、教育界に大きな影響を与えたアメリカの心理学者クレト・レヴィンによる分類です。レヴィンは、リーダーシップのタイプを、次のように専制型・放任型・民主型の3つに分類しました。
専制型リーダーシップ
リーダーの意思を組織の構成員に「命令」として行動させるリーダーシップです。構成員は、常にリーダーの指示にしたがって行動する必要があります。メンバーが従う根拠としてはリーダーにカリスマ性があることや、リーダーが強い権力をもっていることなどが考えられます。メンバーの自律性は希薄ですが、災害時など緊急性を要する状況や、警察や消防など一貫した統率が必要な状況では有効です。
放任型リーダーシップ
リーダーが、組織の構成員に意思決定や状況判断のほとんどを任せるリーダーシップです。全員がリーダーのような状態になるので、構成員の能力が高い場合には有効です。一方、チームとしてのまとまりや一体感は薄まり、組織全体としての作業量も、ほかの2つのリーダーシップに比較して少なくなるといわれています。
民主型リーダーシップ
組織の意思決定にメンバーの意見や合意を反映させるリーダーシップです。メンバー一人ひとりの参画意識やモチベーションが高まるため、長期的に見ると全体の作業の質や量において有効であるとされています。一方、合意形成に時間がかかる、合意の過程で無難な結論に落ち着いてしまうといった欠点も指摘されています。
サーバントリーダーシップは、このうち、民主型リーダシップの類型に入るものといえるでしょう。
サーバントリーダーシップの特徴
サーバントリーダーシップの基盤になるのは、リーダーがメンバーに貢献するという姿勢です。サーバントリーダーに求められる属性としては、以下の要素があげられます。
●傾聴
メンバーの意見や考えに耳を傾けます。メンバーに貢献するためには、メンバーの話をじっくり聞き、考えや状況を掌握することが必須です。
●共感
相手の言い分や気持ちをくみとり、納得のいかないことであっても、まずは受け入れます。メンバーに「この人についていきたい」という信頼が生まれます。
●癒し
プロジェクトを遂行する過程においては、行き詰まってしまうこともしばしばあります。そんなときには、相手に寄りそう癒しの姿勢が必要となります。
●気づき
リーダーが組織や個々のメンバーの状況や変化に「気づく」こと、メンバーが自ら「気づく」ように仕向けることの両面があります。さまざまな状況に気づくことで、各メンバーが自律的に問題を解決できるようになります。
●納得(説得)
リーダーとメンバー、メンバー同士での納得とコンセンサスを重視します。メンバーが、自分の意思で活動を続けていけるようになります。
●概念化
上記の「納得」にも関連した要素です。メンバーに、プロジェクトの遂行に必要なビジョンや目標、方法などを明確に伝えます。メンバーが一つの方向に向かって進むことができるようになります。
●先見力・予見力
先を見通し、組織のあり方や方向性を見出します。トラブルを回避し、組織をよりよい方向に導いていくことができるようになります。
●執事役
「執事」のように、リーダーがメンバーから絶対的な信頼を得たうえで、メンバーに尽くし、気持ちよく活動してもらうことを重視します。メンバーが主人でリーダーが執事という関係性を意識することで、メンバーの能力を最大限に発揮させることができるようになります。
●成長への関与
メンバーのよさや潜在能力を見出し、それを開花させていこうとする姿勢です。メンバーの成長に携わることで、次なるサーバントリーダーを育成することができるようにもなります。
●コミュニティづくり
メンバーの連帯感を醸成し、互いに助け合うコミュニティとして維持・発展させていきます。こうした姿勢が、ある目標をひとつの共同体として達成する力を生み出します。
こうしたサーバントリーダーシップがもつ諸要素は、児童生徒の成長の伴走者となる教師にとっても、大いに参考になるところです。
▼参考資料
小野善生『最強の「リーダーシップ理論」集中講義』日本実業出版社、2013年
クルト・レヴィン『社会的葛藤の解決と社会科学における場の理論1 社会的葛藤の解決』ちとせプレス、2017年