わがままA子に必殺!「ラブ作戦」
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらう本コーナー。
今回は、周囲とのトラブルが絶えない、お姫様キャラの女の子が登場。自分の非を認めようとしないわがまま放題の子どもに、教師ができることは? みんなが笑顔になれる楽しい「ラブ作戦」を紹介します♡
指導:大阪府公立小学校教諭/松下隼司
目次
わがままで、怒りっぽいA子
トラブルメーカーのA子は、家では父親から溺愛され、学校ではお姫様のようにふるまって……。そんなA子の状況は下記の通りです。
A子の状況
- A子は、6人兄妹の唯一の女の子なので、父親から特にかわいがられている。しかし、兄妹げんかは絶えない。
- いわゆる“お姫様キャラ”のA子は、学校でも「やりたくなーい」「無理」など、わがままな発言が多い。グループ活動では「〇〇やっておいて」と友達に命令して、トラブルになってしまう。
- 教師が事情を聞いても、A子には全く反省の態度が見られない。素直に謝る気は全く無く、むしろ相手のせいで自分がそういう態度になってしまったと、相手の責任にする。
A子の素直な気持ちを引き出す
わがままで自己中心的なA子に、教師はどのような対応をするのがいいのでしょうか。A子が本来もっている素直な心を引き出せる、とっておきの方法を伝授します!
- トラブルに関わる子どもを呼んで話を聞きます。おおよそ、A子が原因で起きたトラブルなのに、A子はふてくされているどころか、相手が悪いと因縁をつけ始めます。
- 教師はそこで、「B君、ちょっと来て~」と、A子の好きなB君を呼びます。B君は、なぜ呼ばれたのか分からないながらも、その場に来ます。A子は意表を突かれ、驚いた表情に。動揺を隠せないA子のことが、かわいらしく思えてくるでしょう。
- 教師は目線で「B君が見てるよ~♡」とA子に合図を送ります。それまでふてくされていたA子は、大好きなB君が自分を見ていることを意識して、急に態度が良くなります。素直でかわいらしい女の子に変身するのです。
- 落ち着いているA子の態度を、教師は褒めまくります。
- 教師はB男に「嫌なことがあったのに、こんなに落ち着いて事情を説明したり、相手の話も素直に聞けたりするA子って、かわいいよね~?」と聞きます。やさしいB男は頷いてくれます。(頷かないときは、頷くように合図を送るなどしてみましょう)。
さらに、「B男も、かわいいって言ってくれてるよ」と笑顔で言い、A子に追い打ちをかけます。
A子は最高の笑顔になります。 - A子に「素直でめちゃくちゃかわいいA子さん、相手に謝れますか?」と聞く。ここまで持ち上げられて、しかも大好きなB君の前で聞かれたら、謝れないとは言えません。A子はお手本のような素敵な謝り方をします。
- B男に「A子の謝り方って、いいよね♡?」と尋ねます。B男は教師の意をくんで頷いてくれます。
- A子に「よかったね」と言います。A子は「はい」と笑顔で席に戻ります。B男は最後まで、どうして自分が呼ばれたのかは分からないまま。
周りの勘がいい子どもは、理由を知っているので、楽しそうに見ています。
もし、その子の好きな子を知らなければ、好きな芸能人の写真を見せることも有効です。
一人ひとりの子どもの「好きな人」を教師が把握しておくと、学級経営に役立つことは多くありますよ。誰かを好きになることは、心に最高のプラスのエネルギーを与えてくれますね。
好きな子の前では無意識に行いを正す、ということは、自分は好きな人に良く見られたい、ということです。そして、よく見られたい……ということは、ふだんの自分の振る舞いは悪いこと、間違っていることだと、実はA子も心の底では十分理解している、ということですよね。「好き」という感情で、自分の中に眠っている本当の良い自分に気づいてほしいなぁ、と思います。
怒鳴ったり、ネチネチと対応したりするよりも、楽しく対応しましょう! その方が、A子にとっても、教師にとっても、迷惑を受けた子どもにとっても幸せです。
松下隼士の笑って!!エヴリディは、木曜更新です
イラスト/したらみ
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。