どんな子も前向きに取り組める「マンガ感想文」のススメ

関連タグ

国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭

沼田晶弘

夏休み、「マンガ感想文コンクール2022」にクラスで応募してみませんか? 小学生の夏休みの宿題といえば読書感想文が定番ですが、文芸や児童書を読むことが大変な子供たちでも、マンガの読書感想文であれば前向きに取り組むかもしれません。
みんなの教育技術でもお馴染みの沼田晶弘先生に、マンガと感想文について伺いました。

マンガ感想文コンテストトップ沼田先生写真
沼田晶弘先生

マンガは親の都合で悪になったり善になったりするもの

ボクの家は割と厳しい家庭だったので、子供の頃は「マンガはダメ」と言ってマンガを読ませてもらえませんでした。でもある時、友達が持っていたマンガ雑誌を読んだのがマンガとの出合い。読んでみるととても面白く、続きを読みたくなって当分続きましたね。

マンガが親たちに嫌がられるのは、勉強や宿題をしていないといけない時間にマンガを読んでいて、勉強や宿題がおろそかになったりする場合だと思います。「マンガばっかり読んで、勉強をしないんだから!」という理由で、マンガは親たちにとっての悪になります。

しかし、例えば、子供を連れて、親が居酒屋さんに行ったとします。子供にマンガを読ませておくとおとなしくしてじっとしているので、このときにはマンガは善になるのです。だから、子供は居酒屋さんへ行くのが大好きなのです。自由にマンガを読ませてもらえますからね(笑)。

このように、マンガは親たちの都合によって、悪になったり善になったりするものだと思います。

マンガは世相を表している

マンガは誰にでもやさしく物事を伝えやすいコンテンツ。時代が求めているものだと思います。難しい言葉をマンガのキャラクターが言うととてもやさしい言葉に聞こえます。例えば、難しい言葉でもドラえもんが言うと簡単に聞こえますよね。

「覚醒」や「降臨」も難しい言葉だけど、小学生は普通に使っています。これはマンガの影響も大きいと思います。

マンガはその時代の世相をよく表しています。『キャプテン翼』が流行った時代は、オールマイティのヒーローが求められていて、『ONE PIECE』(ワンピース)の時代は、みんなの個性の力を合わせる時代。じゃあ『鬼滅の刃』は? そう考えると、興味深いですよね。

授業風景沼田先生写真
「ビジネスラボ(コンクールビジネスを考える)」の授業を行う沼田先生。子供から出た意見を「全て」黒板に書いていく。

自分の意見を言える雰囲気づくりが大切

マンガの感想文の指導で一番大事なことは、「感想文なので自分の感想を書こう!」ということです。もちろん当たり前のことですが、これがなかなか難しい。感想文と言いながら、話のあらすじが8割という感想文もあります。「あなたの意見を書けばいいよ」と言うのは簡単ですが、普段の環境が自分の意見を何でも言える、何を言っても受け入れてもらえるという学級でなければ、それは難しくなります。「悪いことを言っちゃいけないのかな」「こんなことを言うと笑われるかな」と思う学級なら、子供といえども忖度が働きます。

例えば、これは親の「あるある」ですが、「今度の休み、どこに行きたい?」と聞いておいて、本当に行きたいところを子供が言うと、「そこは遠いからダメ」。「今日何食べたい?」と聞いておいて、子供が本当に食べたいものを言うと「〇〇だからそれはダメ!」。そんなことを繰り返すと、自分の意見や感想を言えなくなってしまいますよね。

同じように、教師のリアクション一つでも変わります。例えば、子供の意見を一つ一つ全部板書するようにすると、子供は「何でも言っていいのね」「自分の意見を取り上げてもらえる」と思って、自分の意見を正直に言うようになります。

普段からそのような環境づくり、雰囲気づくりをしておくと、感想文を書くときも自分の意見をどんどん書くようになります。

読みたいマンガは表紙で選んでもOK

ボクが、子供たちから「先生、感想文のマンガはどのように選んだらよいですか?」と聞かれたら、「表紙で選んでもいいんじゃない?」と答えると思います。表紙を見て、気になるものや気に入ったものがあったらそれで選んでもよいし、スポーツが好きならスポーツ系のマンガを選んでもよいし、人が「面白かったよ」と言ったものを選んでもよいですよね。実際、そうやって選びませんか?

文字を読むという意味では、マンガでも文芸でも感想文としては大きく変わらないと思います。子供にマンガ感想文を指導するときには、読書感想文と同じような指導でよいのではないでしょうか。

今どきの小学生のリアルな声

沼田先生の授業の子供たちの写真
「ビジネスラボ(コンクールビジネスを考える)」の授業でも、終始「活発に発言を行う子供たちの姿が見られました。

ちなみに、沼田先生が担当する「ビジネスラボ」(小学4〜6年生で構成される大学のゼミのようなもの)の授業を取材した際に、『コロコロコミック』(小学館)を読んでいる子供のイメージについて、聞いてみたところ、

・オタクな人のイメージ
・マニアな人
・野球少年
・きれいな格好をしているけれど、ランドセルが汚い
・ポジションは隅っこ
・まじめ

……という印象とのこと(!)
「児童館に行ったときに集中的に読む」という子、「コロコロとジュースというシチュエーションにあこがれる。一度、ジュースを飲みながらコロコロを読んでみたかった」という子もいました。
まずは単行本を一冊読む前に、雑誌を読んで、自分はどの作品がどのように好きかというところから始めるのも良いかもしれません。

「マンガ感想文コンクールではこのようなことはできないかもしれませんが、『コロコロコミック』を1冊読んで、様々な物語の感想文をつなぎ合わせて書いてみるのも面白そうな気がしました」と沼田先生ならではのアイデアも聞かれました。

取材・文・構成・撮影/浅原孝子

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
関連タグ

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました