道徳の授業をするうえでの課題は何?【わかる!教育ニュース#6】

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道徳の授業をするうえでの課題は何?【わかる!教育ニュース#6】

先生だったら知っておきたい、さまざまな教育ニュースについて解説します。連載第6回目のテーマは「道徳の教科化」です。

評価に不安を抱える教員が増

「考え、議論する道徳」への転換。2018年度に正式な教科になった道徳には、そんな謳い文句があります。めざす道徳教育の姿を言い表したのですが、現場はどう考えているのでしょうか。

道徳の授業をするうえでの課題は。その問いに、6割の学校が「話合いや議論などを通じて、考えを深めるための指導」を挙げたことが、文部科学省の抽出調査で分かりました(参照データ)。2021年10~12月、公立小中学校2218校が回答した結果です。複数回答で尋ねたところ、小中学校いずれも最も多く、小学校は63.8%に上りました。

小学校では次に「道徳的価値の理解を自分との関わりで深めるための指導」(56.9%)、「物事を多面的・多角的に考えるための指導」(55.8%)が挙がりました。問題を自分に重ねてとらえ、議論を通じていろんな意見に触れ、複眼で物事を考えるという、謳い文句でめざした道徳の実現は、簡単ではないと感じる声が多いのです。

現場にとって、評価も大きな関心事。課題を尋ねると「評価の妥当性や信頼性の担保」(67.5%)、「児童生徒の学習状況及び道徳性に係る成長の様子の把握」(55.2%)、「指導と評価の一体化」(46.0%)が上位です。教科化に伴う変化を尋ねた自由記述では「児童生徒の成長の様子を把握するのは容易ではなく、評価に不安を抱える教員が増えた」という声も。授業を重ねるごとに、一人ひとりの内面がどう変化したかを見定めなくてはならず、評価する側の幅広い視野が問われます。それだけに、迷いも大きいようです。

「答えのないものを評価するのは無理がある」などの批判

道徳が「特別の教科」となったのは、政治の意向が絡んでいます。第1次安倍晋三政権下の06年、愛国心を盛り込んだ改正教育基本法が成立し、翌年に教育再生会議が道徳を「徳育」として教科にするよう提言。このときは中央教育審議会の抵抗や、安倍氏の退陣で見送りになりました。

12年末、安倍氏が政権の座に返り咲くと、大津市の中2男子自殺で問題になったいじめの対応として、教育再生実行会議や文科省の有識者会議で道徳の教科化を提言。中教審も14年、その流れに沿う答申をしました。当時、「価値観の押し付けになる」「答えのないものを評価するのは無理がある」などと批判が絶えませんでした。教科書検定も理念と程遠い状況でした。パン屋を舞台にした物語を載せた教科書が、学習指導要領で挙げた学ぶべき内容の「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の要素が足りないと指摘され、設定を和菓子屋に変えるという、あきれた話もありました。

今、文科省は授業例の紹介サイトを設けていますが、それはあくまで参考。そのままなぞったら、それこそ決まった答えにはめ込み、「考え、議論する道徳」からかけ離れます。より多角的な視点の授業例を集めながら、学校ごとに工夫を加え、いろんな答えがあっていいんだ、と子どもたちが理解する授業につなげたいものです。

参照データ
道徳教育実施状況調査(令和3年度実施)/文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/doutoku/chousa/mext_00080.html

先生の勤務時間【わかる!教育ニュース#7】はこちらです。

執筆/東京新聞記者・中澤佳子

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