小1国語科「おおきなかぶ」板書例&全時間の指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、小1国語科「おおきなかぶ」(光村図書)の各時の板書例、発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/相模女子大学学芸学部 子ども教育学科専任講師・成家雅史
執筆/東京学芸大学附属大泉小学校・今村 行
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、1年生の児童が、自分で考えたり学級の仲間と考え合ったりすることが「楽しい」と実感しつつ、知識・技能として音読の工夫を身に付けていくことや、「読むこと」の指導事項として登場人物の行動を具体的に想像する力を伸ばしていくことを目指していきます。
本教材は、「おじいさん」がかぶの種を蒔き、それが「あまいあまい、おおきなおおきな」かぶになり、1人では抜くことができず、2人でも抜けず、3人、さらに1匹…と力が合わさっていってようやく抜ける、という繰り返しを用いた構成になっています。文章に愉快な繰り返しのリズム感もあり、児童が音読することにも適していると言えます。
また、冒頭のおじいさんの台詞と、繰り返される「うんとこしょ、どっこいしょ。」以外は台詞がなく、登場人物の表情や様子などを説明した描写もないので、児童が想像を膨らませる余白が多く残された文章であると言えます。そのような教材の特徴を生かしながら、児童それぞれが登場人物の行動について考えを持ったり、音読の表現を工夫したりする活動を通して、仲間との表現の違いに気づき、クラスで学ぶことが楽しいと実感できる単元となることを目指します。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元では、1でも述べたように、言語活動として工夫して音読する活動と、登場人物の行動について考えて自分なりに台詞を書き足す活動を設定します。これら二つの活動は、別々のものではなく、結び付いたものとして扱っていけるといいでしょう。
音読の活動は、あくまで手段であり、そこで何を目指すかを考えなければなりません。
本単元では、本文を読んで登場人物の行動を具体的に想像し、想像したことを音読に生かす、ということになります。
例えば、はじめのおじいさんの「うんとこしょ、どっこいしょ。」はどのように読むのがいいでしょうか。小さな声で読むのがいいでしょうか。大きな声で読むのがいいでしょうか。速く読むのがいいでしょうか。遅く読むのがいいでしょうか。「こう読むのが正解」だと教師が押し付けるのではなく、児童が自分で考えてみることを通して、読み方によってそこから伝わる登場人物の様子も変わってくることに気付けるようにする工夫が求められます。
また、1でも述べたように、本教材は台詞が少なく、登場人物の表情、様子などを表す描写もほとんどないため、児童が自分で想像を膨らませることができます。
おじいさんが一人でかぶを引っ張っても抜けなかった後、どんな表情だったのでしょう。また、どんな様子でおばあさんを呼びにいったのでしょう。おばあさんにどのように声をかけたのでしょう。
それらを想像する際には、学習指導要領国語科のC読むこと(1)オの考えの形成「文章の内容と自分の経験とを結び付けて、感想をもつこと」を意識し、自分の経験を想起させていくとよいでしょう。そこで想像したことをもとに、本文に登場人物の台詞を書き足したり、表情や様子を表す言葉を書き足したりする活動を行います。
音読をしていく中で登場人物の様子を想像し、台詞や言葉を書き足す。その言葉をどのように音読したらよいかを考える。このように二つの活動はつながり合い深まっていきます。
単元の進行も、そうして、つながり合いを意識し、柔軟に考えていくとよいでしょう。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 活動を自分自身で担い、楽しむ
主体的な学びを考えていく上で、時には「今日はどんなことをやるのだろう?」という興味や関心が児童の中に自然と湧き上がるような単元を作っていくことも必要です。そのためには、児童が自分の興味を追究することができたり、問いに対して自分なりの理解が深まることを実感できたりする学びである単元を構成することが大切だと考えます。
本単元の中では、音読と、台詞や言葉の書き足しの活動を行いますが、一つの場面でそれらの活動を学級全体で行なった後に、グループを組み、その中で担当する場面を個人に割り当てたいと考えました。そのことによって、「チームの中で自分がこの場面を任されている」という意識を持たせたいと考えました。活動自体を楽しむことに加えて、前向きに「自分がやらなければ」という意識を抱かせることで、主体的な学びが促進されるようデザインしました。自分自身で工夫して音読を考えたり言葉の書き足しをしたりすることで、「自分自身でやった」という気持ちも芽生えるでしょうし、それが周りの児童や教師から称賛されることによって、学びの充実感を得ることができるでしょう。学級の実態によっては、場面を一人ではなく二人で担当するなどしてもよいでしょう。
〈対話的な学び〉 お互いの音読を聴き、褒め合い、尋ね合う
主体的な学びで説明したように、本単元ではグループを組み、その中で担当する場面を個人に割り当てたいと考えています。そして、自分自身で考えた音読の工夫、台詞や言葉の書き足しを、チームで共有する場面を設定します。そこで、お互いの音読を聴き合うことで、自分が考えたことが認められる喜びを得たり、もっといいアイデアが浮かんだりすることでしょう。
1年生という発達段階を考えると、共有の場面でお互いの考えを練り上げるようなやりとりは簡単ではないのかもしれませんが、お互いの表現を聴き合うなかで、いいなと思ったところを褒め合ったり、どうしてそういう工夫にしたのか尋ね合ったりすることは可能だと考えます。
自分一人で一生懸命考える時間と、仲間と一緒に考え合う、対話的な学びの時間を取ることで、単元の学習に深みが増し、児童も「このクラスで学んでいくことが楽しい」と感じられるはずです。
〈深い学び〉 活動や思考を行き来し、学びをネットワーク化する
深い学びを考える際に、学んだこと同士が結び付き合ったり、関連付いたりすること、ネットワーク化することが大切な視点の一つだと考えます。本単元では、さまざまな思考を行き来することで、深い学びを実現したいと考えています。
個人で活動する際には、音読と、台詞や言葉を書き足す、という二つの活動を行き来します。
例えば、おじいさんとおばあさんがかぶを引っ張る場面を担当した児童であれば、かぶが抜けずに孫を呼ぶときの台詞を考える時に「ヘトヘトになって」という言葉を足すかもしれません。そうすると、音読の際にも「ヘトヘト」な感じを出すように工夫をするでしょう。このように二つの活動は別々のものではなく、二つの活動を通して場面や登場人物の行動の様子を深く理解していくことにつながります。
また、本単元では、個人で考える場面と、それを共有する場面を設定しています。個人で考えたことを共有し合うことで、新たな視点を得て、自分の音読や書き足しに生かしたいと思う児童がきっといるでしょう。「前の場面で〇〇さんがこんな工夫をしているから、その後の自分の場面でも…」というように、お互いに表現したことが影響を与え合い、個人の思考を深めていくことになります。
このように、学びのネットワーク化が起こる場面を教師が意図的に設定しておくことが大切なことだと考えます。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
本単元においては、タブレット端末のカメラを用いて、音読の映像を記録し、見返す活動をしたいと考えています。自分の音読しているところは、周りの人から見ることはできても、自分では見ることはできません。映像に残った自分の姿を見ることで、気付けることもたくさんあるでしょう。
まずはチーム内で、自分が考えてきた音読の工夫を発表し合う場面での活用が考えられます。そこで気付いたことを、自分の音読や書き足しに活かしていくことで、さらに深い学びが実現されると考えます。その際は、教師が撮影するのでもいいですし、チームの中で役割を分担し撮影し合うことも考えられます。
また、本単元で最終的に音読の発表をする場面を録画し、保護者に共有することで、児童の成長を知っていただくことも可能だと思います。コロナ禍の影響でなかなか授業参観などが難しい中、児童の学びを保護者と共有するために、タブレット端末は有効に働くでしょう。ただし、個人情報保護の観点から、事前にお知らせするなどの注意が必要です。
6. 単元の展開(8時間扱い)
単元名: おはなしのせかいをそうぞうしておんどくしよう
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時)
① 教師の範読を聞く。感想を発表し合う。
② 出てくる登場人物、場面の順番を全体で確認する。
・第二次(3時、4、5時、6、7時)
③ 最初のおじいさんの場面を読み、全体で音読の工夫を検討したり、台詞や言葉を書き足したりする。
④⑤ 音読チームを作り、個人で音読を練習したり、台詞や言葉を書き足したりする。
⑥⑦ チームで考えを共有し合う(タブレットで記録し見返す)。発表の練習をする。
・第三次(8時)
⑧ 音読発表会を開く(タブレットで撮影する)。
各時の板書例、教師の発問・児童の発言例
●「主体的な学び」のために
まずは第1時、物語との出会いを楽しむということを大切にしましょう。多くの児童は、この物語を幼稚園や保育園、ご家庭で読んだことがあるでしょう。しかし、改めてこの物語の面白いところはどんなところかを考えられるようにしたいものです。
教師がまず範読をしますが、その際、単元の後半を見据えて、「このとき、おじいさんはどんな表情だったのだろうね」、「おばあさんを呼ぶ時に、なんと言ったんだろうね」など、問いかけながら読むことで、児童も思考を働かせながら音読を聞くことができるでしょう。
また、まずは初読の感想を、全体で共有することが大切だと考えます。児童の素直な感想が、この後の音読や、書き足しの活動にも生かされていくでしょう。
今日は「おおきなかぶ」というお話を読みます。どれくらい大きなかぶなのでしょうね。どんな人が出てくるのでしょうか。楽しみですね。
(範読)
すんごい大きなかぶだった。
おじいさんのからだより大きい。
わたしの背より大きいかぶなんてあるのかなぁ?
「うんとこしょ どっこいしょ」っておもしろい。
何回も出てくるよね。
動物が出てくるのもびっくりした。なんで人じゃなくて動物を呼ぶの?
最後、猫がねずみを呼んできたのもおもしろかった。
一度、みんなで「うんとこしょ、どっこいしょ」のところを読んでみましょうか。
※感想を聞きつつ、児童が面白いと思った場面を音読するなど、活動を入れてもよい。
イラスト/横井智美