水泳教室 無断欠席の理由とは【4年3組学級経営物語10】
8月①「個に応じた支援」にレッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
アンテナを立て、子どもたちの悩みや願いを的確にキャッチする。そして個に応じた支援に取り組む―それは教師の最も重要なこと。泳げないハジメに懸命に寄り添い、支援しながらその大切さに気づく渡来勉先生。個に応じた支援に、レッツ トライだ!
目次
<登場人物>
ハジメの悩み
真夏の日差しにキラキラ波立つプール。
飛沫を浴び、楽しそうに泳ぐ子どもたち。
ゴーグルをつけた日焼け顔が、突然水中から現れました。
「いや~、夏休み最高っ。プール当番やぶらり旅の予定…、ほんと楽しいことだらけです!」
水を滴らせプールサイドに上がってきた渡来勉先生に、手厳しい評価を下す葵ゆめ先生。
「夏休み気分で、子どもと遊んでいただけだわ」
頭を掻く渡来先生に、遅れてきた学年主任の大河内巌先生が汗を拭いながら言葉をかけます。
「申し訳ない、急に当番を代わってもらって」
「いえ、でも大変ですね。マユミとお母さんの親子ゲンカの仲裁。夏休みに家庭訪問とは・・・」
視線を外して、硬い表情で呟く主任。
「反抗期の我が子、それに悩む母…。長期休業中も何かと課題は多い。だが、それより…」
話題を打ち切り、誰かを探すようにプールに目を向ける主任。暫くして暗い声で聞きました。
「ハジメは…、欠席連絡は受けたのか?」
「無断欠席です。参加すると言っていたのに…」
眉間に皺を寄せた主任が、会話を遮ります。
「さっき、バッグを抱えて戻っていく子を見かけたんだ。…遠目だったが、多分ハジメだろう」
えっ、と驚く渡来先生に指示がとびます。
「無断欠席には、必ず理由がある。プール開放が終わり次第、直ちに家庭訪問するぞ!」
アンテナの感度をあげよう
「辛かったんだろうな。…暗い表情だったぞ」
正門を出て、急ぎ足で歩く主任と渡来先生。
「泳げるように頑張るって約束したのに。無断欠席して一人で悩むなんて。あんなに賢く、しっかりした子が…。何故相談してくれないんだ」
思いつめた表情で話す渡来先生にイヤイヤと頭を振り、冷静に情報分析した結果を伝える。
「皆に『学者』と呼ばれるハジメだ。プライドが高い。4年生で水が怖いなんて、絶対に認めたくないのさ。だが、トラウマを乗り越えなければ泳げない。一人でジレンマを抱え、悩んでいるんだよ」
一学期末、学級で夏休みに頑張ることを発表し合った時、ハジメは「今年こそ泳げるようになる!」と宣言。
その意気込みへの皆の拍手も、ハッキリ覚えています。
ハジメの悩みをキチンと受け止めなかった反省と、一刻も早く適切に支援したい気持ちが激しく交錯しました。
「…ハジメは、まだ家に戻っていないな」
主任がボソリと呟き、逆方向に歩み出します。
「アンテナの感度を少し上げてみろ。帰るのが早すぎれば母親が心配する、…そう考えるだろ」
公園に着きました。
プールバッグを抱えたハジメが、しょんぼりとベンチに座っていました。
ハジメの「悩み」を共感的に理解しよう
「ハジメが納得し、乗り越える気持ちを高める。そして、自分で考え課題を解決していく。その過程を支援するんだ。具体的な支援方法は、逐一伝授する。キチンと寄り添うんだぞ!」
主任にポンと肩を叩かれ、渡来先生はベンチに向かって一人で歩き出しました。
「トライだ先生、どうしてこんな所に…」
驚くハジメに、先生は深々と頭を下げます。
「ごめん、ハジメの悩みに寄り添えなくて…。でも夏休みは始まったばかりだ。明日から取り組めば、絶対に泳げるようになる!」
「…僕は臆病だから無理だ。プールに入ると体がカチカチになる。溺れそうで怖いんだよ」
「ハジメは慎重なんだ、石橋を叩いて渡るタイプだよ」
ハジメの肩を掴み、熱く語り出す渡来先生。
「明日から秘密練習を開始する。ハジメが納得する方法で乗り越えていこう。…一緒にな」
しばらくの間考え、ハジメはコクリと頷きました。
(8月②につづく)
『小四教育技術』2017年8月号増刊より