資質・能力を育むための「単元や授業」は何を大事にすればよい?【田村学流 単元づくり・授業づくり#4】
この企画では、元文部科学省視学官であり、現行学習指導要領の策定にも尽力された、國學院大學・田村学教授に、「単元づくり・授業づくり」をテーマとした連載をしていただきます。
目次
一連の問題解決のプロセスである単元の充実なくして、資質・能力の育成はない
前回は、資質・能力とは何かについて説明してきましたが、今回は、その資質・能力を育むための方法について説明していきましょう。
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前回、説明したような、構造化された知識(資質・能力)は、先生が一方的に教え込んでいくことでは、身に付けることができません。やはり、子供自身が「主体的・対話的で深い学び」を通して、身に付けていくことが必要なのです。
では、具体的にどうやって身に付けていくのかということですが、先生から教わったときには、一個一個の知識は個別バラバラなものです。それを子供たち自身が活用・発揮していくことで、個別の知識が結び付いて構造化されていくのです。この活用・発揮とは具体的にどういうことかというと、授業レベルでごく乱暴に言ってしまえば、アウトプットするということです。さらに、アウトプットを乱暴に言ってしまえば話す(音声言語)、書く(文字言語)ということになります。
当然、そのような活用・発揮をさせ、資質・能力を育むことは、授業や単元の学習の最後に「今度、テストに出るから覚えておくように」などと言うだけではできません。学習のプロセスを大事にしてこそ、活用・発揮の機会も増えていくのです。
それは授業で言えば、45分なり50分のプロセスということになりますし、もっと大きく言えば、単元ということになります。一連の問題解決のプロセスである、単元をどう構成するかということが重要になるのです。このようなプロセスの充実なくして、資質・能力の育成はないと考えるのが妥当だと思います。
例えば「論理的に考える」とか、「相手に分かりやすくプレゼンテーションする」という力を育成するとしたときに、単元や授業の最後に「こうしたら論理的に考えられるよ」とか、「相手に分かりやすくプレゼンテーションするためには、こことここがポイントだよ」と教えられただけで、論理的に考えられるようになったり、分かりやすくプレゼンテーションができるようになったりするかというと、それは難しいでしょう。
そうではなく、学習のプロセスの中で、学習したポイントを意識しながら繰り返し論理的に考えたり、繰り返しプレゼンテーションを行ったりすることで、そのような力が身に付いていくのだと思います。そう考えてみると、プロセスの充実こそが資質・能力の育成につながるということがお分かりいただけるでしょう。
子どもたちが前に学んだ知識を、いかに使っていくかということが大事
例えば算数・数学なら、帰納的な思考や演繹的な思考、類推的な思考が大切だと言われます。帰納はいくつかの事実から規則や法則を見出そうとするもので、演繹は普遍的な前提からある結果を導き出すもので、最初にある実際の場面においては、類推はある事実から類似点に着目し他の事実へとイメージを広げていくようなものです。こうした帰納、演繹、類推は、学習の場面場面で実際に帰納的に思考したり、演繹的に思考したり、類推的に思考したりしているわけです。
ただし、一個一個の帰納や演繹、類推は非常に限定的な場面で行われているため、他の場面では活用が難しいのです。そこで、単元のような内容のまとまりや、あるいは単元を超えて繰り返し帰納的に思考したり、演繹的に思考したり、類推的に思考したりしていくなかで、頭の中が整理され、もっと抽象度が高まってくると、汎用的なものとなり、他の場面でも活用できるようになっていくのです。
算数・数学は体系化された学問なので、前に学んだことを使うということが、とても整理され、構造化されています。例えば、かけ算九九なら、最初に5の段を学習し、その後に2の段を学習してから、3の段を…となっていたり、図形でも同様に前に学習したことを使って学習できるように整理がされていたりします。そのように、前に学んだ知識をいかに使っていくかということが大事なのだと思いますし、子供たちにとってもそのほうが楽しいし、考えやすいのではないかと思います。
そのような活用・発揮の場面では、友達や先生などとの対話が活発に出てくるわけです。また、やらされていたのでは自分のものになりません。主体的に学んだほうがよいわけです。自分のものとして自覚されるためにはそれを見つめ直していく場面が必要になるわけです。ですから、「主体的・対話的で深い学び」を通して、資質・能力を身に付けていくことが求められているのです。
そのように、子供たちが身に付けた力を繰り返し活用・発揮し、知識を関連付けていけるようにするためには、いかに単元(一連の内容のまとまり)を、子供たちにとって意味や価値があり、充実したものとしてデザインできるかが重要です。
学習指導要領は、総則を各教科等の内容に落とし込んだ形で整理されている
こうしたことが明確に記されているのが、学習指導要領の総則「第3 教育課程の実施と学習評価」の1「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」です。この⑴には、「単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら」授業改善を図ることや、「身に付けた知識及び技能を活用したり…思考力(中略)等を発揮させたりして…過程を重視した学習の充実を図ること」と示されています。この記述の後半には、「知識を相互に関連付けてより深く理解したり…思いや考えを基に想像したり」と、「たり〜たり」で、4つの例が示されていますが、それは深い学びにつながるところでもあります。
実はこうした記述は各教科等ともリンクしており、学習指導要領の各教科等の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」で、各教科等の具体的な内容に落とし込んだ形で整理がなされています。そのような学習指導要領の構造を理解したうえで読んでいくと、その意図するところがいっそうよく分かってくると思いますので、この機会にぜひ読み直してみてください。
このように育成をめざす資質・能力を育むために単元や授業をデザインしていくことは、先生がもっている知識を一方的に教え授けることよりも、もっと楽しいことだろうと思います。おそらく一方的に子供たちに知識を与え、習熟を図るような学習は近い将来、AIが担うようになるのではないでしょうか。AIであれば、人間のように疲れたり、感情を乱したりすることなく、繰り返し教えることが可能でしょうから、教えて習熟を図るには適任かもしれません。そうではなく、もっと創造的に授業をデザインする役を担うというのは、教師をめざし、実際に現場の先生となった人にとっては、きっと楽しいものだろうと思います。
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さて、知識が構造化された三つの資質・能力とはどのようなものなのでしょうか。それについては、また改めて詳しく説明をしていきたいと思います。
「資質・能力の育成を図る」単元・授業づくりとは?【田村学流 単元づくり・授業づくり#5】はこちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之