理科は将来役に立たない教科なのか?【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#2

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

皆さんなら、理科は、どのように将来役に立っているのか? と聞かれると、どのように答えますか? AIが問題を解決し、疑問はネットでたちどころに答えが分かる時代です。それでも「理科の知識は役に立つ」と答えますか? 今回は、「理科は、将来役に立たない教科なのか?」について考えてみましょう。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.「科学的に問題解決する方法を身につける」ことこそ、将来役に立つ

社会に出た際に求められる力はいろいろありますが、これからのコンピュータが人の代わりに働く時代であっても、私は
①何か問題があった際に解決できる「問題解決をする力」
②新しいものを創り出す「創造力」
③よりよく生きるための「人間関係をつくる力」
が必要と考えています。これらは、人それぞれが感じる「価値」にかかわる力と言えるでしょう。

なかでも、「問題解決をする力」は人の営みがある以上、社会の様々な場面で求められています。それは、人間関係のトラブルに対する問題解決や、ものが動かない、うまくいかない事などに対する原因を探るような問題解決、よくわからないことを調べていく探究的な問題解決などがあります。理科では、どちらかと言えば後者の2つの問題解決が意味としては近く、自然を対象にして自分自身で科学的に問題の原因を探ったり、探究したりします。

さて、このような「問題を解決する力」をつけるには、解決のための正しい手続きを知り、自分自身の力で解決できる方法を身につけておく必要があります。そして理科では、図1の「問題解決の過程」を通して「問題解決の方法を身につける」ことを大切にしています。さらに言うと#1でも述べたように、理科では「科学的に」という視点が必要ですから、適当に解決するのではなく、誰もが納得し、よりよく解決するといった質の高いところまで求められます。

図1 問題解決の過程
図1 問題解決の過程


「えっ! 理科は実験などの経験をさせて、自然事象に対する知識が身につけば十分なのでは?」と思っていませんか? もちろん、「学習内容(知識)を教える」ことも大切です。しかし、知識の定着だけに重点をおくのではなく、「問題解決の方法を身につける」ということも非常に大切なのです

「理科は、将来役に立つ教科か?」という様々なアンケートを見ると、役に立つと思っている人は少ない教科です。理科はあまり役に立たないと思われているようです。確かに、学習内容という観点から見ると教科書に載っている内容が日常的ではなかったり、基礎的な事象が学習内容になったりすることから、一見、将来役に立つ教科に感じないかもしれませんね。

しかし、学習内容は異なれど、それぞれを「問題を解決する力をつける」という共通の観点で見れば、社会に役立つ非常に重要な教科として位置づけられるわけです。小学校では、子どもの主体性を重視して、子どもが自分自身で自然に直接関わり、解決する教科は理科以外なかなかありません。単に知識を教える教科ではない、とても大切な教科に感じませんか?

それでは、理科が「将来に役立つこと」を少し整理しておきましょう。

2. 小学校理科が「将来に役立つ」ことは?

(1) 授業で学んだ知識が役に立つ

これはみなさんもわかりやすいのではないでしょうか。小学校の学習内容は、日常生活に直結していることが多いため、生活経験から理科の授業を通して改めて自然事象を見直すことがよくあります。例えば「磁石にはNSがあり、異極は引き合い、同極は反発する。鉄にくっつく。磁石と鉄の間に紙があってもくっつく。」といった学習内容がありますが、うちの冷蔵庫に磁石が付いていたとか、黒板に紙を貼るときには磁石で留めているなど、日常生活を振り返るようなことです。小学校の学習内容の多くは、このような「改めて詳しく見たことはなかったが、知っている、経験している」というものが多いのです。

そのため、例えば「暖房をつけるときは、暖かい空気が上に行くので、部屋の上にたまった空気をかき回せば部屋中が暖かくなる」のような、学習内容が生活にとても役に立った!ということは少なく、学習内容の”お役立ち度”が実感できることは少ないように思います。しかし、このような知識が中学校や高等学校の学習の基礎になるため、なかなか学習内容の”お役立ち度”が実感できないものの、将来の学習の基礎として役に立っています

(2) 科学的に問題解決する方法を身につけることが役に立つ

これはどのような場面でも使える「汎用的な力」と言われるものです。この能力を身につければ将来必ず役に立つのですが、この力は失敗しながらゆっくり身につけていくものであり、急にできるものではありません。そのため、将来に役立つ力ではありますが、前の”できなかった自分”と”できるようになった自分”を比べない限り、「自分自身が成長した、役に立った」と、実感をもつことが難しいものです。問題解決の方法を身につけることが将来に役に立っているのに、実感しにくい点が、「理科は、将来役に立つ教科か?」というアンケートで低い理由にもなっているように思われます。

しかし、科学的に問題解決する方法を身につけることは、先ほど述べたように、社会に出たときに求められる、原因を探るような問題解決や、探究的な問題解決において、習得した力が発揮できるという意味で役に立つといえるでしょう。

(3) 理科の「見方」で物事を捉え、科学的に考えられることが役に立つ

「見方」とは、教科や科目における特徴を捉える視点であり、理科では自然事象を「エネルギー」「粒子」「生命」「地球」という領域などで捉える視点を意味します。例えば、エネルギー領域では「量的・関係的な見方」を働かせて事象と関わります。もう少し詳しい例で言うと、5年の電磁石の単元では、コイルに乾電池1個と2個をつないだ時の、コイルにくっつくクリップの数を比べる授業があります。この時、電池の数(量)を増やせば、(それに関係して)クリップの数も増えるということを学びます。理科では自然事象を対象として、このような「見方」を働かせていますが、これは他の教科では使わない見方なのです。同じものを見たとしても物事を見る目は、教科によって異なります。理科は理科の「見方」があり、その見方を働かせることができることが、将来に役立っていると言えるでしょう。

図2 同じものを見たとしても物事を見る目は、教科によって異なる
図2 同じものを見たとしても物事を見る目は、教科によって異なる

また、ここでの「科学的」とは「実証性」(検証が可能である)、「再現性」(何度行っても同じ結果が出る)、「客観性」(誰が見ても納得する)を指します。このように、確固たる証拠をもとに判断する考え方(「科学的」に考える力)も他の教科では使わない考え方であり、特に役立つ力と言えるでしょう。

このように、”お役立ち度”がなかなか実感できないものの、理科が将来に役立つことはたくさんあります。教師自身がこのような理科の価値をどの程度意識しているのか、子どもたちにこのような理科の価値をどの程度意識させているのかによって、子どもたちの「理科は、将来役に立たない教科なのか?」という問いに対する答えは変わるのではないでしょうか


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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

イラスト/難波孝

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