公教育とオルタナティブスクールとの関係性を考える【あたらしい学校を創造する #33】

連載
あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。

今回は、公教育とオルタナティブスクールの関係性について考えます。

連載【あたらしい学校を創造する ~元公立小学校教員の挑戦~】
蓑手章吾(HILLOCK諸島部スクールディレクター)

スクールごとにみんな違ってみんないい

前回お話ししたように、僕らはオルタナティブスクールやプレーパークの見学から多くのヒントをもらい、さまざまなことが脳裏に浮かんできました。僕らは教員だったこともあって、公立校など従来の学校との異同について考えさせられたのです。

神戸のラーンネット・グローバルスクールを訪れたとき、たまたま保護者の方と話す機会がありました。関西圏でオルタナティブスクールというと、「ラーンネット・グローバルスクール」「箕面こどもの森学園」「きのくに子どもの村学園」の3つが有名で、「ラーンネット・グローバルスクール」の印象はアクティブ、「箕面こどもの森学園」はしっとりとした感じ、「きのくに子どもの村学園」は全寮制が特徴で、そこに抵抗がある人は選ばない、とのことでした。同じタイミングで箕面こどもの森学園も訪問しましたが、僕もその保護者と同じような印象を受けました。ひと口にオルタナティブスクールといっても、おのずとカラーが出てくるんですね。

ラーンネット・グローバルスクール

学校のカラーの違いというのは、そのスクールの教育理念やカリキュラムから生まれてくるのでしょう。創設者や学校を支える教員的立場の人間が、何のために教育をするのか、そのスクールでどのような子供を育てようとしているのかによって、学校の特色が変わってくる。よく99%の公立校に対して1%の公立以外の小学校があるというように、「オルタナティブスクール」としてひとくくりにされますが、オルタナティブスクール同士も本来オルタナティブであるはずなんです。つまり、二項対立ではなく、99%の公立校に対して0.1%対0.1対0.1対……の私立やオルタナティブスクールがある、というのが本当の姿です。

実は今回の視察で、追手門学院中学校という私立校の探究の授業も見学しました。そこで僕が目の当たりにしたのは、私立校の授業とオルタナティブスクールの授業の境目はほとんどないということでした。私立校も従来型の授業から脱却して、オルタナティブ化した授業を行っていたのです。素晴らしい探究の授業を見たとき、もはやオルタナティブスクールだけがオルタナティブなのではないと実感しました。教育の世界がこれほどカラフルになってきているのに、果たして公立校がそのままでいられるでしょうか。公立校も個性的な学校へと変身してオルタナティブ化し、多様化していけばいいのにな、と妄想は広がります。

公教育とオルタナティブのウィンウィンな関係へ

フリースクールやオルタナティブスクールは、どちらかというと公教育に否定的な方によって創設される印象があります。それに対して僕らは、公立校を否定する気持ちはありません。公立校も私立校もオルタナティブスクールも、それぞれのよさがあり、それぞれから学べることがあります。ただ、一方的にもらってばかりでは悪いから、それをちゃんとお返ししたりつなげたりすることを行っていくつもりです。従来の学校のよさとオルタナティブスクールのよさをいい形で融合させつつ、ウィンウィンの関係でありたいと思っています。

ヒロック初等部に興味を持ったある先生から、「公立校の教員になったことを後悔している」という相談を受けたことがありました。それに対して僕は「ぜんぜん無意味じゃない」とその先生に言ったんです。大事なのは公立校の何がよくて何が悪いのか、変えるべきところは何なのかを考えることです。正解はないし難しいこともあるけれど、そういう視座さえ持っていれば、公立校にずっと勤務しようが、そこからどんなキャリアを積もうが、やりようはいくらでもあるというのが僕の考えです。キャリアを無駄にするかどうかは自分次第であり、どこに属していても関係ないと思っています。

とはいえ同じ環境に長くいると、自分の見方や考え方を相対化しにくくなってしまうかもしれません。教員としての経験やキャリアをより活かしていくためにも、公立私立問わず、オルタナティブの教師も含め、もっと多様な学校の先生同士の交流が起こるといいと思っています。僕らがやろうとしている「学びの研究所」も、そのための場として機能していくことを意図しています。

次回は、その「学びの研究所」と開校に向けた準備について話します。

〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック

第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」
第7回「教師と子供をどう呼ぶべきか」
第8回「模擬クラスで一日の流れを試す」
第9回「学年の区切りを取り払う」
第10回「学習のロードマップをつくる」
第11回「教科の壁を取り払う」
第12回「技能の免許制を導入する」
第13回「カリキュラムの全体像を設計する」
第14回「育むべき『学力』について考える」
第15回「自由進度学習をフル活用する」
第16回「保護者の意識と学校の理念を一致させる」
第17回「クラウドファンディングでお金と仲間を集める」
第18回「クラウドファンディングでモノと人を募る」
第19回「体育の授業目的と方法を再定義する」
第20回「道徳教育の目的と手法を再定義する」
第21回「入学希望者の選考を行う」
第22回「入学予定者の顔合わせを行う」
第23回「大人たちをつなぐ場所をつくる」
第24回「公教育とオルタナティブ教育の間をつなぐ」
第25回「入学希望者のニーズについて考察する」
第26回「集団登下校や送り迎えの便をはかる」
第27回「知識と学びのタイプを対応づける①」
第28回「知識と学びのタイプを対応づける②」
第29回「授業研究を通してコンセプトの理解を深める」
第30回「コンピテンシーとは何か?」
第31回「長期的な視野の必要性について」
第32回「他のオルタナティブスクールを見に行く」

※蓑手章吾先生へのメッセージを募集しております。 学校づくりについて蓑手先生に聞いてみたいこと、テーマとして取り上げてほしいこと等ありましたら下記フォームよりお寄せください。
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取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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