小1道徳「はしのうえのおおかみ」指導アイデア
執筆/鹿児島県公立小学校教諭・橘木克尚
監修/鹿児島県公立小学校校長・橋口俊一、文部科学省教科調査官・浅見哲也
使用教材:「はしのうえのおおかみ」(日本文教出版)
目次
授業を展開するにあたり
道徳科では「自己を見つめること」、つまり自分との関わりで考えることが大切です。それはこれまでの自分の経験や、そのときの感じ方、考え方と照らし合わせながら、さらに考えを深めることです。このような経験を繰り返していくなかで、子供たちは自らをふり返って成長を実感したり、これからの課題や目標を見付けたりすることができるようになります。
また、「自己の生き方についての考えを深めること」も大切です。それは、授業を通して形成された道徳的価値を基盤として、伸ばしたい自己を深く見つめるとともに、これからの生き方の課題を考え、それを自己の生き方として実現していこうとする思いや願いを深めることです。
しかし、一年生を担任していると、道徳科の教材研究を行ううえで戸惑うことがあります。それは、文や台詞がほとんどない教材を扱ったり、書く活動が制限されたりすることです。また、自分の考えを表現することが難しかったり、できなかった経験を自覚できていなかったりする子供もいます。
そこで、ねらいとする道徳的価値を自分事として考えたり、自分の考えを一人ひとりの学習状況に応じて表現したりすることができるように、実感を伴って理解しやすい体験的な学習を取り入れたり、ふり返りの工夫を行ったりする授業づくりに取り組んでみました。
今回の授業では、まず事前調査で得られた親切にできた具体的な行為をあげ、なぜそれをするのかというところに課題を焦点化していきました。次に、意地悪をしている場面と親切にしている場面の役割演技で感じた「気持ちいい」の違いを比較することで、親切にすることのよさについて考えさせるようにしました。
最後に、これまでの自分はどうだったか、授業で大事だと思ったことをふり返らせるために、ふり返りカードを用いて書く活動の工夫も行いました。
展開の概略
- 事前調査を基に、子供たちが思う親切な行為を提示し、なぜこれらの親切が大事なのか考える。
- 本時で考えたい課題を焦点化する。
- 教材「はしのうえのおおかみ」を読み、役割演技を通して登場人物の心情について話し合う。
- 親切にすることの意義について考える。
- ふり返りカードを基に、これまでの自分と、これから大事にしたいことについて考える。
- 教師の体験を踏まえた、親切に関するエピソードを聞く。
ふり返りの工夫
授業の導入でこれまでの経験をふり返る際、道徳的行為を達成したことはすぐに思い出せるのですが、できなかったときの経験を思い出し、道徳的行為を阻む心の弱さについて発表することはあまりありませんでした。
また、一年生の一学期は、文字を書くことについても個人差が大きいという実態があります。そこで、一年生の実態に応じたふり返らせ方や書かせ方の工夫が大切だと考えました。
ふり返る過程(展開後半)での工夫
入学当初の道徳ノートでは、できた経験の数だけ○を付けたり、色を塗ったりする活動が主となっています。そのため、ふり返りのしかたがなかなか身に付かず、見とることが難しいと感じていました。
7月頃から、少しずつ書くことに慣れてきたので、ふり返りにおいて自分の考えを簡単な文や言葉で書かせるようにしました。これまでの自分と、これからの生き方について考えさせることで、道徳科の授業の中での変容を自覚し、これからの生活に対して意欲を高めることができると考えました。
▼ふり返りカード
実際の授業展開
主題名
しんせつは いいきもち
教材名
はしのうえのおおかみ
ねらい
意地悪をしたときよりも、親切にしたときのほうがずっと気持ちがいいことに気付き、身近にいる人に親切にしようとする心情を育てる。
内容項目
B 親切、思いやり
準備するもの
・場面絵
・ふり返りカード
ふり返りカードのPDFはこちらよりダウンロードできます
道徳科ヒントとアイディア小一「はしのうえのおおかみ」
指導の概略(板書計画例)
導入1
①親切なこととはどんなことでしょう。
- どのような行為が親切に当たるのか共有しやすくするため、事前調査で得られた具体的な場面を提示する。
導入2
②親切は大切ですか。親切は、なぜ大切なのでしょうか。
- 親切は大切だと思いながらも親切の意義を分からずに行っている実態を基に、めあてを立てる。
展開1
③意地悪をするおおかみは、どんな気持ちなのでしょう。
- 役割演技では、「えへん、へん」とおおかみになりきって言うことで、意地悪をするときのおおかみの心情に共感させる。
展開2
④親切にしてもらったおおかみはどんな気持ちになったのでしょう。
- 子供がおおかみのお面を付け、熊役の教師に橋を渡してもらう場面を演じることで、おおかみの心情を捉えられるようにする。
展開3
⑤うさぎを抱き上げて道を通した後のおおかみはどんな気持ちなのでしょう。
- 役割演技を通して感じたことや考えをペアやグループで伝え合うことで、自分に自信をもったり、友達の考えのよさを感じたりすることができるようにする。
展開4
⑥親切にすると、どんなよいことがあるでしょう。
- 意地悪をしたときの「気持ちがいい」と親切にしたときの「気持ちがいい」の違いを考えさせ、親切にすることのよさについて話し合う。
- 導入で挙げた親切な具体的行為についても、相手や自分がどう思うか考えられるようにする。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
導入では、事前アンケートで得られた親切についての具体的な行為を提示し、その行為をするとどんなよさがあるのか考えさせました。「ほめられるから」という意見が出たので、「ではほめられないと親切はしないのか」と切り返すことで、「親切にすることのよさとはなんなのか」という学習課題につなげました。
展開では、役割演技を通して意地悪をしているときのおおかみの気持ちと、親切にしているときのおおかみの気持ちについて考えさせました。代表の子供に教室の前に設定した橋の上で役割演技をさせ、他の子供たちにはそれを見て考えさせました。
親切にしたときのおおかみの気持ちを、役割演技を通して考えさせることで、「気持ちがいい」だけでなく、「うさぎさん、さっきは嫌だったのかな」「みんなもうれしい」「これからも続けたいな」など、自分事として考える姿が見られました。
展開後半では、より深い学びにつなげるために、「意地悪をしたときの『気持ちがいい』と、親切にしたときの『気持ちがいい』の違いはなんだろう」と尋ねました。
すると子供たちは、ふっと静かになってさらに自分の考えを深めようとしていました。意地悪はおおかみだけが気持ちがいいけど、親切はおおかみもうさぎも気持ちがいいことに気付かせるために、それらを比較できるような板書の構造にしました。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
ふり返りカードに書く時間を確保するために、事前にねらいとする道徳的価値についての事前調査をして、学級の実態を紹介するなど、導入を短くしています。また、ふり返りカードに書く内容を精選し、視点を与えることが大切です。
ふり返りの視点としては、本校の道徳科の評価の視点を活用しました。次の四つがその視点です。
・道徳的価値についての理解
・自己を見つめること
・物事を多面的・多角的に考えること
・自己の生き方についての考えを深めること
一年生においては、5月までは文字指導が十分でないため、教師と子供との会話におけるやり取りの中でふり返れるようにしました。6月頃から、これまでの自分や授業で大切だと思うことをふり返りながら書けるようにしました。
今後さらに慣れてきたら、これから役に立つ場面についても書けるようにしたいと考えています。そうすることで、授業で学んだことを学校生活で生かそうとする意欲が高まるのではないかと考えています。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科の授業の目標は道徳性を養うことであり、道徳性の様相である道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てることとしています。しかし、1単位の時間ですべての様相を育てるというよりは、いずれかの様相に焦点を当てて指導することのほうが一般的になっています。
橘木先生は今回、道徳的心情を育てることをねらいとしていますが、ただ登場人物の気持ちを問うのではなく、導入では実際の写真や動画を提示したり、展開では指導方法の工夫として役割演技を取り入れたりして、行為に伴うそのときの自分の気持ちを感じ取れるようにしています。
また、意地悪をしているときと親切にしているときの気持ちを比べたり、自分の感じ方と友達の感じ方を比べたりしながら、親切にすることのよさを実感できるようにしています。授業のふり返りなどで自分の考えを書くという活動は、すべての教科などで大切な学習となります。道徳科でしっかりと身に付けていくことは、学力の向上にもつながると言えるでしょう。
『教育技術 小一小二』2021年2月号より