小4道徳「にぎりしめたいね」指導アイデア
使用教材:「にぎりしめたいね」(日本文教出版)
執筆/鹿児島県公立小学校教諭・下津慶一
監修/鹿児島県公立小学校校長・橋口俊一、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
小学校学習指導要領において、各教科等における学習評価の充実に向けた指導と評価の一体化の実現が求められています。これは、道徳科においても同様で、児童の道徳性は容易に評価できないため、児童の学習状況と道徳性に係る成長の様子を継続的に把握することが求められています。
これらのことから、評価を行う際に備えて、児童の期待する学習状況を意識して教師は指導を行う必要があると考えました。また、期待する学習状況を表出させるために授業中の指導をどのように行うのか検討しておく必要があるとも考えました。
そこで、まず、道徳科における児童の期待する学習状況を具体化したもの(「道徳科学びの姿モデル」)を作成しました。道徳科における評価の視点である「道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか」「一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか」から、児童の学習状況を具体化しました。
次に、期待する学習状況を表出させるために二つの指導を検討しました。その一つが、発問の工夫、話合いの工夫、書く活動の工夫などの「指導方法の工夫」です。もう一つが、期待する学習状況が表出されなかった場合に行う「学習状況に応じた指導」です。この二つの指導を意識し、指導と評価の構想を行いました。
▼道徳科学びの姿モデル
指導と評価の構想の概略
- ねらいを達成するための指導方法の工夫を行います。その際、期待する学習状況を設定します。
- 児童の学習状況と「道徳科学びの姿モデル」と照らし合わせて評価を行います。
- 期待する学習状況が表出されない場合、学習状況に応じた指導を行います。
- 再度、児童の学習状況と「道徳科学びの姿モデル」と照らし合わせて評価を行います。
▼ワークシート
実際の授業展開
主題名
相手の意見を聞く
教材名
にぎりしめたいね
ねらい
自分の村に川を通すことについて立場を明確にして話し合うことを通して、互いに話を聞くことで相手の背景にあるものや思いに気付くことを理解し、相手の話を聞こうとする態度を育てる。
内容項目
B 相互理解、寛容
指導の概略(板書計画例)
導入
①班活動や友達と遊びを決めるときに意見が合わなかったとします。この後どうなるかな。
- 事前アンケートを基にこれまでの経験を想起させ、問題意識を高める。
展開1 指導方法の工夫:投影的発問、話合いの工夫
②あなたなら、自分の村に川を通しますか、通しませんか。
- 自分の立場を明確にし、ネームプレートを黒板に貼る。
- ネームプレートを貼ったら、さまざまな立場の児童と交流する。
- 交流を通して立場が変わったら、ネームプレートを貼り変える。
展開2
③わたしは「もう少し甚兵衛さんと話をしましょうよ」と言ったけど、意見の違う人同士、話を聞く意味はあるのかな。
- わたしも甚兵衛さんも大事にしているものがあることを確かめたうえで、意見が違う人同士で話を聞く意味について考える。
展開3
④授業を通して、意見の違う相手の話を聞く意味とは、どんなことだと考えましたか。
- 教材で学んだことを、自分自身との関わりでふり返らせる。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
今回は、展開1の学習活動に関して、指導と評価の構想を行いました(図1)。四つの期待する学習状況を表出させるために、指導方法の工夫として、発問の工夫(投影的発問)、話合いの工夫(スタンディングミーティング)を行うことにしました。
四つの期待する学習状況が表出されていない場合、授業中につなぎ(異なる、もしくは同じ考えの児童同士を交流させる)、問いかけ(教師の発問を通して児童に考える視点を与える)の指導を行うことにしました。
例えば、同じ立場の児童とあまり交流していない児童Aに対して「○○さんと話をしてみてごらん」と交流を促すことで、児童Aは同じ立場でもさまざまな理由があることに気付きました。
また、甚兵衛さんの気持ちのみに注目している児童Bに対して「自分の家が流されるかもしれないけど、それでも川を通すって言えるかな」と場面を具体的にして問いかけることで、「ああ、じゃあ通さないかもな」と多面的・多角的に考えることにつながりました。
▼展開1の指導と評価の構想(図1)
テーマ学習をするうえでの注意点・ポイント解説
「道徳科学びの姿モデル」は、先行研究、学習指導要領解説を基に作成したものであり、実践を重ねながら改良していく必要があります。それぞれの項目について、各学校の児童の実態を考慮したうえで、学校全体で期待する学習状況を検討し、共有することで、さらに妥当性、信頼性の高い評価が可能となると考えています。
また、それぞれの授業での学習活動における期待する学習状況は、その授業のねらいを達成することと関連をもたせる必要があります。そのために、指導内容、児童の実態、教材などを基に、しっかりと教材研究を行ったうえで期待する学習状況を設定したいと考えています。
期待する学習状況を表出させることが最終的な目的になってはいけないと考えます。なぜなら、道徳科の評価は、児童の道徳性を養うことに関係するからです。さまざまな学習活動における一人ひとりの児童の学習状況に応じた指導を繰り返すことで、児童の道徳性を養うことにつなげていくことが大切です。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科でも、授業で児童の学習状況を見とり、評価をすることが求められていますが、その評価は、意図もなく行った授業で見とるものではありません。ねらいとする道徳的価値や道徳性の様相を考えれば、当然そこに児童にとって必要な学習内容が見えてくるものです。
また、特に重視している学習が、「自分との関わりで深める」ことや「多面的・多角的な見方をする」ことであり、下津先生は、こうした児童の学びの姿をしっかり捉えて評価の視点として授業を構想し、効果的な指導方法の工夫へとつなげて考えています。
まさにこのことが指導と評価の一体化と言われるものであり、道徳科の特質である、内容項目を手がかりとしながら道徳性を養う授業の実現を可能にすると言えるでしょう。
特に、多面的・多角的に考えられるようにするために、児童同士の交流を大切にした授業を展開していますが、もし、コロナ禍で交流しにくい状況があれば、教師が児童同士をつなぐコーディネートが求められるところです。
『教育技術 小三小四』2021年1月号より