#9 どうして靴を揃えるの?【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

今回は、道徳の授業のお話です。1つ1つの小さな生活習慣がすべてにつながっている・・・靴揃えを例として、日頃の生活習慣の大切さを学びます。

第9話 靴揃え

黒板『すべてはつながっている!』

各教科の授業とともに大切にしたいのが道徳の授業である。

今教育界では子どもたちのいじめや不登校、そして学力の向上など課題が山積している。その基盤となるのが心の教育であり、道徳教育も重要であると考えている。

特に、道徳の授業は他の教科と違って教師が子どもたちに一つの答えを教えることとは異なり、教師が子どもたちと共によりよい生き方を求めて考え合うものだ。その中で教師は、子どもたちの人生の先輩として何かアドバイスができればよいと思っている。

「これから、5時間目の授業を始めます。気をつけ、礼!」

「やり直し!」

子どもたちの挨拶がいい加減な時には、必ずその場でやり直す。

「さて、今皆さんの靴箱を見て来ました。昼休みに外に出て遊んで来た人もたくさんいたと思いますが、自分の靴をちゃんと揃えてきたという自信がある人は手を挙げてみてください」

意識して靴を揃えている子はクラスの3分の1程度である。しかし、実際の靴箱の様子を見ると9割の子の靴が揃えられていた。

「では、家の玄関で靴を脱いだ時に意識して揃えている人は手を挙げてください」

家でとなると急に減り、手を挙げた子がわずか5人だった。

「ところで、なんのために靴を揃えると思いますか?」

「揃っていると気持ちがいいから」

「出かける時に履きやすいから」

「なるほど。確かにそうだね。雅也くんは、さっき家でも揃えているって手を挙げたけれど、どうして揃えているのかな?」

「お母さんによく言われるから」

「真希ちゃんは?」

「家族みんなが揃えているから」

「そうなんだ」

「では、今日の道徳の授業では、どうして靴を揃えるのかを考えていきたいと思います」

私は、このように課題を提示して授業を始めた。

授業に使った読み物教材のあらすじは次の通りである。

なかなか靴が揃えられない主人公の誠也は、いつも父親に注意されている。そればかりか、忘れ物をしたり、廊下を走って一年生とぶつかってしまったり、失敗を繰り返す生活を送っている。なんだか最近ついていないと思う誠也は、ふと、自分の脱いだ靴を見て自分の生活を見つめ直す。

道徳の授業には、このお話の主人公の気持ちを追って考えさせ、そこに子どもたち自身の気持ちや考えを重ね合わせて話し合う。

「何度も靴を揃えるように注意された誠也は、どんな気持ちでいると思いますか?」

ここで、三組の中でも教材の主人公と同じようなタイプの亮太を意図的に指名する。

「いちいち細かいところまで注意されて、うるさい」

予想通りの反応が返ってきた。

「亮太くんと同じような気持ちだと感じた人は、他にいますか?」

意外とたくさんの子どもたちが亮太と同じように感じていることを改めて知ることができた。

「靴揃えくらいなら、そんなに注意しなくてもいいと思います。大人になると頑固になってきて、こだわりが強すぎると思います」

クラスの子どもたちから笑いが起きた。というのもその発言をしたのが一見真面目そうに見える加藤さんだったからである。きっと加藤さんも家ではお父さんに期待をかけられ、細かいところを注意されて少し嫌気がさしているのかもしれない。

「さて、何度も失敗を繰り返している誠也は、『最近、なんだかついていないなあ』と言っているけれど、誠也と同じように最近、運がついていないと思う人はいますか?」

「はい」

今度は亮太が自ら元気よく手を挙げた。

「昨日自転車に乗っていたら、道路脇の溝にタイヤがはまって転んで田んぼに落ちてしまいました」

また、クラスから大きな笑いが起こる。

「あ、俺それ見てたけど、亮太がしゃべりながらよそ見をして運転していたから落ちたんだよ」

亮太は恥ずかしそうに頭をかいていた。

「それじゃ運が悪いとは言えないよ。ところで、この中に初詣とかでおみくじを引いて『凶』が出た人はいますか?」

中村くんが手を挙げた。

「うわぁ~かわいそう。その後何かついていないことが起こりましたか?」

「今のところ、学級委員に落選したくらいで、特に変なことは起きていません」

「それは…(それ以上何も言えなくなった)では、今日のお話に出てきた誠也は本当に運がついていないのでしょうか。グループになって話し合ってみてください」

三、四人で話し合うとこれは運が悪いということではなく、日頃の誠也の生活習慣に問題があるのではないかということに気づき始める。

「それでは、誠也は自分の脱ぎ捨てた靴を見つめながら、何を思ったのでしょうか?」

すると、一つ一つのことを面倒臭がっていい加減にしてしまうことが様々な失敗の原因につながっているのではないか、という考えが子どもたちから出てきた。ここでもう一度子どもたちに問う。

「どうして靴をそろえるのでしょうか?」

授業の最初に子どもたちに同じことを聞いたが、子どもたちの考えは変わっていた。

「靴揃えのように簡単にできることを面倒臭がってやらないと、他のこともやらなくなってしまって何か大きな失敗につながってしまうので、そうならないようにするためにも靴をきちんと揃えるんだと思います」

「靴を揃えるのは、落ち着いて生活するための『心のブレーキ』のようなものだと思います」

今日のこの授業で私が子どもたちに気づいてもらいたいことがズバリ出ると、とても気持ちがいい。それに子どもは、こちらが想像もしないようなすばらしい言葉を残してくれることもある。思わず鳥肌が立つ。

「『心のブレーキ』なんていい言葉だね」

「どうやら靴を揃えるのは、単にきれいとか、出かけるときに履きやすいとか、そういうことだけではなさそうですね」

授業のしめくくりとして、私は、「ハインリッヒの法則」の話をした。

「『ハインリッヒ』とは人の名前です。

20世紀の中頃、アメリカの損害保険会社に勤めていたハインリッヒは、災害の事例の統計を分析して、「1対29対300」の法則を導き出しました(黒板に書く)。

この数字の意味は、一つの死亡につながるような大きな災害が発生する背景には、29件の軽傷事故があり、さらにその背景には300件のハッとすること、ヒヤリとすることなどがあるというものなのです。

このようにすべてがつながって大きな事故が起きているのかもしれないという研究を発表したんです。これがもし本当だとしたら、靴を揃えるだけでなく、机の中を整理するとか、連絡帳を丁寧に書くとか、一つ一つしっかりやらないと、あっという間に失敗が300を超えて…、最近自転車で転んだ人がもしいたとしたら(いるのを知ってて言っているのだが…)、キャー(恐ろしいふりをして…)、あっ、上履きの靴のかかとを踏んでいる子がいる!(やっばい!)

明日、(急に声のトーンを落として)無事に学校に来られるといいけど…」

ここまでくると、はっきり言って脅しである。

そして最後に、私は黒板に大きく「すべてはつながっている」と書いて授業を終わりにした。

学級新聞BOYS&GIRLS No.5

ノート占い

宿題のルールも定着した中で、オリジナルメニューとして、自主的に勉強をしては、毎日ノートを提出してくる子が男女それぞれ数名いる。

ジョギングが好きな人は、毎日走らずにはいられなくて、雨の日も風の日も走るのと同じように、彼ら彼女らを見ていると、それが毎日の習慣になっていることがよくわかる。

勉強でも運動でも、毎日真面目にコツコツと取り組む姿は本当にすばらしい。私は、そんな子どもたちの努力に、せめてもの気持ちを込めて、必ずコメントを返す。

「これだけやるのにどれくらいの時間をかけているの? きっと他の子はゲームをしたり、テレビを観たりしているのに、こうして努力できることは本当にすばらしい!」

「この前のテストでは惜しくも95点だったけれど、点数以上に、こうした毎日の努力は価値のあることだと思うよ」

子どもたちが提出する宿題へのコメントは、学習に対する努力を称賛したり、学習内容への理解を深めるために助言したりすることが多くなるが、このコメントは、その子とだけの交換日記のようなものなので、勉強以外に気づいたことも書くようにしている。

「いつも掃除をよくやっているね。あの膝をついて黙々と雑巾がけをする姿は、ただ者ではない。きっと将来大金持ちになるぞ。『雑巾を当て字で書けば「蔵」と「金」、あちら福々、こちら福々』なんてね!」

「この前、登校してくる時に、一年生の荷物を持ってあげたんだって? その噂は風に乗って先生のところまで届いたよ。いやあ、気持ちがいい爽やかな風だった…」

「日曜日のサッカーの試合では、相手が攻撃しようとするところでボールを奪い、前線にパスを出していたね。あれをやられると敵は本当に困るんだよね。味方でよかった」

そして、花崎さんのノートにも、こんなコメントを残した。

「この前の帰りの会では、長縄跳びの練習をしようと言ってくれてありがとう。花崎さんが言ってくれなかったら、今、こうして、みんなが一つになって練習することはできなかったと思う。クラスがまとまりつつあるのも花崎さんのおかげです。さすがです」

面と向かっては言いづらいことでもコメントだと伝えられる。ましてや、私がノートに目を通すのはどうしても夜になってしまうので、どうも夜になると気持ちが高まり、ちょっとキザなことでも平気で書けてしまう。まるで、ラブレターのように…。

子どもたちから提出されるノートや、授業中に教師が黒板に書いた内容を書き取ったノートを見ていると、その子の性格や今の学習状況が見えてくるような気がしてならない。ノートの取り方は学力を身につけさせる上でも、しっかりと指導していきたい。

そこで、今回の学級新聞「BOYS&GIRLS」に、「ノート占い」と題してノートと性格のつながりを、あくまでも私見で掲載してみた。しかし、これが結構当たっていると自負している。

「毎日の授業の様子を振り返ることができる教科のノート。そのノートをペラペラとめくると、案外、その子の学習に対する取り組み方だけでなく、生活の様子までが占えてしまうのです。それでは早速、皆さんのノートから占い師ロベルト朝見があなたの将来を占ってあげましょう! まず、自分の学習ノートは次のAからEのどれにあてはまるか、一番近いものを選んでみてください」

  • Aタイプ…隙間なくノートが使われていて、文字が丁寧である。
  • Bタイプ…隙間なくノートが使われているが、文字が乱暴である。
  • Cタイプ…ノートのあちこちに無駄な空白が見られるが、文字が丁寧である。
  • Dタイプ…ノートのあちこちに無駄な空白が見られ、文字が乱暴である。
  • Eタイプ…すべての教科を1冊のノートに書いてしまう。

「それでは、占いを始めます」

★Aのあなた…
「毎日の授業を落ち着いて取り組んでいます。黒板に書かれている文字だけでなく、その時の自分の考えもメモ程度に書いておくとさらに学習が深まるでしょう。もしかして、ノートをきれいに書くことだけに夢中になっていて大事なことを覚えていないかもしれません。性格的に真面目なあなたは、これからも友達に優しく、人から頼られる存在です。これからもがんばってください」

★Bのあなた…
「授業中、疑問や自分の考えが積極的にもててよいと思います。やや思いつきの考えが多いので、ノートをていねいにとりながら自分の考えに理由がもてるとよいでしょう。わかっていてもちょっとしたミスをしがちなあなたは、よく考えて行動することに心がけ、部分よりも全体を見渡せる目がもてると、何事もうまくいくようになるでしょう」

★Cのあなた…
「このタイプの人は、一つのことに集中できるというよい面をもっています。しかし、それは、好き嫌いが激しかったり、他人の考えを受け入れないという面ももっています。まずは友達の話に耳を傾ける努力をしてみましょう。また、時間を気にして行動することにも心がけてみてください。きっとこれまで以上にあなたのアイデアが人に認められるようになるでしょう」

★Dのあなた…
「ちょっと心配です。授業中に学習したことが頭に残っていないかもしれません。自分のペースですべてを考え行動しがちなあなたは、知らず知らずのうちに人に迷惑をかけているかもしれません。また、交通事故にあったり、大きなけがをする危険性もあります。ノートのどこに書いたら無駄なく使えるのかを考える計画性や注意力こそが、これからのあなたの生活に大いに役立ちます」

★Eのあなた…
「とにかく面倒臭がりやのあなたは、今やるべきことを後回しにして、好きなこと、楽なことばかりをやろうとしています。今はそれで楽しく過ごせているかもしれませんが、近い将来、友達にも置いて行かれてしまい、ひとりぼっちになってしまうかもしれません。早く自分の心を入れかえて、一つ一つのことをきちんとできるようにしましょう。まずは靴そろえから…。 」

「 なぜ、このように占えるかというと、「すべてはつながっている」からです。さあ、今から授業ノートを通して、自分の人生に幸運を呼び込もう!」

意外とこの「ノート占い」は、子どもたちにも面白かったらしく、意識して丁寧にノートを使おうとする様子が見られた。

その後、模範的なノートがあれば、本人の許可を得てコピーを取り、教室内にコーナーを作って掲示し、誰でも参考にできるようにした。

しかし、こうした中で、何度注意しても丁寧にノートがとれない子がいた。それは、あの洋だった。本来ならば、各教科ごとに専用のノートを作り、使っていくのだが、洋は書くこと自体を面倒臭がったり、1冊のノートをすべての教科のノートにしてしまっている。まさにEタイプである。

しかも、最初のページから使うのではなく、とにかく開いたページに書けばいいという感じなので、不規則に空白のページができる。文字も大きさが揃わず、いやいや書いているのがよくわかる。そんな洋だが、授業では比較的よく発表し、テストの点もそれほど悪くはなかった。

教師は、六年生にもなるのだからと当たり前のように誰にでもちゃんとノートがとれるものだと考えてしまう。できない方がどうかしていると。私もその一人だった。

しかし、洋は何度言ってもできるようにならない。かえってしつこく指導することで、洋にストレスがたまる。このままだと勉強自体が嫌いになってしまう。洋は勉強はそれほど嫌いではない。

よくよく考えてみると、その子なりの勉強の仕方があってもいい。ノートをとることは目的ではなく、学力を高めるための一つの手段である。

後から専門家に聞いたことだが、発達障害の一つに、物を整理することが苦手で、このような傾向がある子もいることがわかった。無理に押しつけなくて本当によかった。

学級新聞BOYS&GIRLS No.9

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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