学級トラブル解決の鍵は…【4年3組学級経営物語15】
10月②「心の向き合い」にレッツ・トライだ!
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
4年3組担任の新任教師・渡来勉先生……通称「トライだ先生」の学級経営ストーリー。ゆめ先生が担当する4年2組では、魔の10月からか、「靴隠し」や「反抗的な生徒」など、様々な問題を抱えていた。去年のクラスと同じ状態を作ってしまい、落胆するゆめ先生。はたして、ゆめ先生はこの問題を解決することができるのでしょうか。
目次
<登場人物>
「担任の仕事」を全うするには…
放課後、2組の教室に緊急集合した4年の先生たち。
憔悴(しょうすい)した葵先生を囲み、話し合っています。
「思い出したんです。去年のこと…。規律の乱れ、反発する子や問題行動…。今年こそと4月に誓ったのに…」
顔を覆う葵先生。
主任が厳しい顔で続けます。
「昨年は、生徒指導部として支援をしたが…、問題対応の基本は何だった?」
「なぜこうなったのか、まず分析する。そして、問題点に全力でぶつかる…」*ポイント1
気を取り直して答える葵先生に、主任は優しく微笑みました。
「そうだ、やるしかない。ただ…、ズバリ言うが、昨年のつまずきと原因は同じだ。葵先生は、学級全員を《可愛い》と思えていたかな?」
下を向く葵先生。
じっと答えを待つ主任に、暫くして小さな声で答えます。
「…いいえ。指示に従わないノリやアツシ、集団に馴染みにくいサキ…。確かに、可愛く思っていませんでした。いい授業をすることばかり気にかけて」
「どの子も本気で可愛がってるよなぁ、君は」
渡来先生の肩を叩き、話を続ける主任。
「授業力は葵先生に敵わないが、トライだ先生は全員から慕われている。学級の基盤は絆づくりだ!」
『学級の機能回復の方策』
まず、学級のうまく機能していない状況や子どもたちとの関係性の崩れに向き合い、どのパターンで崩れてきているのかを見極めます。そして機能しない状況のパターン別に、回復の手立てを挙げます。
①先生に反抗型
○教師の対応の修正をする。
◦行動を促すような指示の出し方をする。
◦ 頭ごなしでなく、子どもの言い分を聞き、今後へのアドバイスをする。
◦ 子どもの行動のよくない面だけを注意する。
○ よりよい人間関係がつくれるような活動を取り入れる。
○ 参加型で認め合いができるような授業展開を工夫する。
②先生となれ合い型
○学級内のルールを再確認する。
◦ 集団で生活するために最低限必要なルールは先生が提示する。
○ルールを守ることへの見通しをもつ。
◦ みんなで話合いをする。
◦ 先生も守り、定期的に点検する。
○ ルールを守ってする遊び等のトレーニングをする。
名探偵登場!
事件は続きました。
そして、度重なる靴隠しに、遂にサキの保護者の怒りが爆発。
事態は、保護者集会の要請にまで発展していきました。
そんなある日の休憩時間、3組のマリが渡来先生を廊下に呼びました。
「トライだ先生、約束守れる?」
怪訝(けげん)そうな先生に、小声で話します。
「私、見張ってたんだ、サキの事件。それでね…、遂に靴隠し事件の現場を目撃したんだよ!」
「エーッ!」
大声で驚く先生を、慌てて遮るマリ。
「もぉっ! 静かにしてよ。…あれは自作自演。サキの仕業だよ」
マリの話は続きます。
両親共に仕事中心で、いつも独りぼっちのサキ。
注目を集めたくて、自分で靴隠し事件を…。
「サキの気持ち、よく分かる。私もそうだったから。でも、私には優しいトライだ先生がいる」
真っ赤な顔の渡来先生に、願い事を託すマリ。
「私を信じて。サキを助けてあげてほしいの。そして、ノリやアツシも救ってあげて」
「魔の10月」を乗り越えろ!
「ここからは担任の仕事だ」
放課後の打合せで、主任の言葉に大きく頷く葵先生。
「マリの話も含め、状況証拠だけだが…。しかし、私も自作自演だと思う。サキとしっかり向き合うしかない」
「サキの心と向き合います。愛情をもって…」
気遣う渡来先生を制して、決断を下す主任。
「早速、明日実行だ。何かあれば私が助ける!」
翌日の放課後。
サキと長時間話し合った葵先生が、職員室に戻ってきました。
疲れた声で報告します。
「サキちゃん、正直に答えてくれました。でも、私は彼女の寂しさに気付けなかった…。家まで送り、ご両親と話をしてきます」*ポイント2
♢家庭との信頼関係も大切
学校から電話がかかってくると保護者は、「何かあったのかな?」という不安を抱いてしまいがちです。
話をするときは、悪い内容だけでなく、普段がんばっている姿も必ず一緒に伝えるようにしましょう。「○○さんと、けんかになって手をあげてしまったんです」とよくない行いだけ伝えるのではなく、普段のがんばりを合わせて伝えたり、その時の気持ちに寄り添い、理解を示した上で話したりしましょう。
いつもほめるポイントを見逃さずに子どもを見ることが、よりよい学級経営につながります。
次の日、教壇に立つ葵先生。
いつもと違う雰囲気にシーンとなる教室。
静かに話し出す葵先生。
「…先生は、いい授業をしたかったの。それが、みんなのためと思ってた。でも、いい授業って何だろう。先生の言うことを聞く子、活発な子ばかり相手にする授業って、ダメだよね。サキ、ゴメンね。そしてノリ、アツシ、みんな…」
子どもたちの前で、深々と頭を下げる葵先生。
「担任失格だよね…。だけどやっぱりみんなのことが本当に大好きだから、やり直したいの…」
何かが変わり始めた教室。
立ち上がるサキ。
「みんな、ゴメンなさい! 私が靴隠しを…」
その発言を、ノリが遮りました。
「もういいんだよ、サキ。…それより、先生の気持ちがハッキリ分かったよ。俺たちもやり直したい…です!」
頷くアツシ、教室に沸き起こる大きな拍手。
窓の外には、感動の涙を抑えきれぬ渡来先生。
『4年2組の再出発だ。頑張れよ…、葵先生』
主任は心の中でエールを送り、渡来先生に愛用のスポーツタオルをそっと差し出しました。
(11月①につづく)
『小四教育技術』2017年8月号増刊より