リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #2 モノに宿る家族の「幸せ」|森岡健太先生(京都府公立小学校)

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リレー連載 明日の授業に生きる!「一枚画像道徳」のススメ
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子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促していく……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載です。第2回は、「白黒先生」こと森岡健太先生のご執筆でお届けします。

執筆/京都府京都市立桂坂小学校教諭・森岡健太
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

この度、「一枚画像道徳」のリレー連載というワクワクするお話を頂きました。
私は道徳の授業が大好きです。教材から心を揺さぶられたところを子供たちと一緒に語り合うひと時は、至福の時間だと感じております。

今回は、一枚の写真から「子供たちの心にどれだけ響くか」ということをテーマとしました。たった一枚の最高の写真を選ぶ。来る日も来る日も悩みました。写真フォルダを探していると、ようやく見つけました。私にとっては忘れられない一枚の写真が出てきました。

「家族には家族の数だけ幸せの形がある」このような言葉を聞いた事がありませんか。ある家族は、一緒に過ごすことに幸せを感じ、別の家族はお出かけすることに幸せを感じる。まさに、家族の幸せの形はそれぞれ違うのです。

家族で使っているモノにも、家族の幸せが詰まっているという気がしています。今回は一枚の写真から「家族の幸せ」について考えていけたらと思います。

2 「一枚画像道徳」の実践例

対象:小学4年
主題名:モノに宿る家族の「幸せ」
内容項目:C-14 家族愛、家庭生活の充実

以下の写真を提示します。

四つの箸置き

「これは何だと思いますか」と聞いて、「じつは先生のお母さんが家族のために作ってきた箸置きなんだよ」という説明から入りました。その上で、以下の二つの発問をしました。

発問1 左下の箸置きが他の三つの箸置きと違う所はどこでしょうか?

形が少し違う
大きい
色が他のと違う

このような答えが返ってきました。

そこから、左下の箸置きには実は秘密が隠されていることを説明しました。
それは、父の名前の「雄二」の「ゆう」が刻まれていること。
そして、わざと右のほうを高くしていること。
こうすることによって「ゆう」の方を手前にして置くと
箸の持ち手の所が高い方へと傾き、手に取りやすいのです。

これらの説明の後に、二つ目の発問をしました。

発問2 作り手である母は、家族へどんな想いを込めて作ったと思いますか?

大切に使ってほしい
使いやすさを考えて作ろう
箸を使う文化を大切にしたい

大切に使ってほしいという意見が出てくるのは予想の範囲内でしたが、箸を使う文化を大切にしてほしいという意見には驚かされました。子供はいろいろな視点で考えているものです。この後は、「母の箸置き」が生まれた経緯を話しました。

説明

私の父は面倒くさがりです。
机に置いてある箸を手に取るのですら面倒くさかった父は
「あぁ。こんな感じの箸置きがあればなぁ」
と身振り手振りを交えながら、理想の箸置きについて母と会話していました。
その時は何気ない会話として終わっていました。

それから月日が流れ、母が友達と旅行に行くことになりました。

たまたま、旅先で陶芸体験ができる所があったそうです。
父との会話を覚えていた母がこのオーダーメイド箸置き(左下のもの)を完成させました。

家に返ってきた母から完成品を見せられた父は「思っていた通りの箸置きができた」と大喜びでした。

後日談──

箸置きを見た息子(筆者)と妹は
「ずるい」と駄々をこねました。
その様子を見て母は胸にある思いを持ちました。
「次は家族全員の分を作ってこよう」

こうして生まれたのが、「母の箸置き」です。

母は2019年に他界しました。
私たち家族は今でも、この箸置きを使う度に
母の温もりや愛を感じて心が温かくなります。

そして、この箸置きは今私の家にあります。
父が私の家にご飯を食べに来る時だけ、大切に使うことにしています。

子供たちはしっとりと話を聞いてくれていました。
きっと、各々に家族のことを思い浮かべながら話を聞いてくれていたことでしょう。

3 他教科とのつながり

今回、「一枚画像道徳」として授業をする時に、この画像を紹介して10分くらいで話合いを終えてしまうのも何だかもったいない気がしました。

そこで、「モノにこめられた思い」というつながりで4年生の国語「ランドセルは海を越えて」(光村図書)の話につなげることにしました。
「ランドセルは海を越えて」はノンフィクションの話です。どのような話かといいますと、日本の子供たちが使い終わったランドセルをアフガニスタンに送り、現地の子たちはそのランドセルを大切に使い、学校に通っているという話です。
現地の貧しい子供たちは学校に通うことすら厳しいことがあります。そのような状況の中で、日本からはるばる送られてきたランドセル。そこにこめられた思い。満面の笑みで喜ぶ現地の子供たち。事実であるこの話を聞いてどのように感じたのかを交流する学習です。

国語の教科書を読む前に、この「一枚画像道徳」の学習から入りました。
子供たちはいきなり提示された写真に興味津々です。モノを通した「家族愛」を考える所から学習が始まりました。やりとりの様子は前述した通りでしたが、教室が暖かい空気につつまれたような感じがしました。そして、「モノには人の思いが詰まっている」ということを考えた上で教科書教材の「ランドセルは海を越えて」の話を読み始めました。

今回、「ランドセルは海を越えて」は「家族愛」の内容項目とは直接の関係が薄いかもしれません。
とはいえ、子供たちの人間性を育むという視点で考えると、「母の箸置き」と「ランドセルは海を越えて」の教材は「モノを大切にする」「モノには贈った人の思いが宿っている」「モノを大切にすることはその人を大切にする事につながる」という点が共通項だと考えました。内容項目という枠組を越えて、幅広い意味での道徳教育につながったのではないかと思います。

4 おわりに

「家族愛」の内容項目は、学習指導要領解説を見ていると「家族の役に立つ」「協力する」などがキーワードとして取り上げられています。
ここから、家族を大切にする「行為」やその「行為」の裏にある「思い」に着目して授業を組み立てることが多いのではないでしょうか。

でも、時には、その家族を繋ぐ「モノ」に着目させてみてはどうでしょう。
家族のモノにはその家族だけのエピソードが詰まっています。

皆さんのところにも「家族の幸せ」が詰まっているようなモノはあるでしょうか。
こうやって写真から思い返すのも幸せの時間になりますね。

今回の学習では、道徳と国語を行き来することができて、私自身新鮮な気持ちで学習することができました。このように他教科とのつながりを考えるのも楽しいものです。

さて、次回はどんな「一枚画像」が見られるでしょうか。
皆様と一緒に「一枚画像」の魅力を楽しみたいと思います。

【参考文献】 
内堀タケシ「ランドセルは海を越えて」光村図書 4年生国語教科書

今後の連載予定
第3回 中村優輝(奈良県・大和郡山市立平和小学校)
第4回 戸来友美(北海道・千歳市立桜木小学校)
第5回 山崎太輔(北海道・千歳市立泉沢小学校)
第6回 岩田慶子(兵庫県・神戸市立星陵台中学校)
第7回 瀬戸山千穂(群馬県・前橋市立大胡中学校)
第8回 郡司竜平(北海道・名寄市立大学保健福祉学部社会保育学科)
第9回 葛西もえ(岩手県・奥州市立佐倉河小学校)
第10回 小林雅哉(北海道・室蘭市立地球岬小学校)
以下、続々と執筆進行中です!

※この連載は、毎週木曜日に公開します。

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