なぜオルタナティブスクールなのか【あたらしい学校を創造する #3】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載第3回です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、オルタナティブスクールの良さについて取り上げます。

あたらしい学校を創造する

なぜオルタナティブスクールなのか

今回は、オルタナティブスクールのよさについて話します。それは、公立の小学校の限界を話すことでもあります。

初任のころから僕は、公立の小学校には限界があると感じていました。国立や私立の小学校の実践や海外の学校の取り組みを真似て、その優れた指導法を取り入れようと頑張ったこともありましたが、それがなかなかできないもどかしさを感じることも多くありました。

公立の小学校には、当然のことながら、1学級何人という学級編成の基準、やらなければいけない授業時数、決められた年間指導計画などがあり、ほかにも、学年間で横並びの指導をしなければいけないといった制約があるからです。

2校目に勤務した特別支援学校では、その子に合った学びを追求する教育の素晴らしさを知りました。マンツーマンの教育が教育の本来のあり方だと思いました。35人学級でも、それを実践してみようと思い、自由進度学習に取り組みました。

ところが、そういう自分がやりたい教育をすると「困る人」がいるんです。保護者の誰かだったり、一緒に学校で頑張っている先生だったり、ときには、よその学校の校長先生とか、教育委員会とか……。自分と子供の同意だけでは動かせない状況というのがありました。

ヒロック初等部の形をどうするかという話合いを持ったとき、「一条校」という形で私立の小学校として出発するということも検討しました。「一条校」というのは、学校教育法第一条に掲げられている一般的な教育機関としての学校のことです。でも、堺谷さんや五木田さんの考えも、僕の思いも、「それは違う」というものでした。

「一条校」になるということは、文部科学省の傘下に入るということになり、金銭的な補助をもらう代わりに、学習指導要領に従わなければならないなど、果たすべき義務などの規定と摺りあわせなければいけなくなります。それでは僕らがやりたい教育と衝突したときに文句が言えないというか、お金だけもらって好き勝手やるのは虫がいい話だね、という話になりました。そういうことで、オルタナティブスクールという形を選択したわけです。

たしかに学習指導要領は、教育学の専門の方々が練り上げて編纂されたものだけに素晴らしいものです。しかし、新しい時代を見据えたとき、さまざまな疑問が出てくるのを拭えません。

本当にその学習は役に立つのだろうか。子供たちの発達はかなり個体差があるのに、1年くらい生まれが違う子がいるのに、それを十把一絡げに同じ学年にして、「この学習を何年生で行う」と決めていいのだろうか。そもそも教科に分ける必要はあるのだろうか……。

時代の流れ、子供の発達、学びの内容といったものが、今のシステムでベストマッチすることはないだろうと感じました。

なぜオルタナティブスクールなのか

学校で探究学習がやりにくい理由

もちろんヒロック初等部では、教科書を含めて、学習指導要領を系統的な学習の目印として使っていくと思います。ただ、そこに僕らは縛られる義務がない。そこが最大の利点かなと思います。「一条校」として先進的な取り組みをしている学校も、どうやって学習指導要領をクリアしていくかということで頭を悩ませています。

また一般的な学校では探究学習がやりにくいというのも、オルタナティブスクールにした理由です。多くの場合、探究学習は「総合的な学習の時間」に行われますが、4年生では福祉、5年生では環境、6年生では世界というように、ほとんど学習の枠が決まっていました。探究学習といいながら、調べるものが決められているので、探究的な要素が少ない学習になっているのです。

ほかにも、時間割があるので時間の融通がきかないとか、隣のクラスと学習進度をそろえなければならないとか、お金が使いにくかったり、外部の人を授業に呼びにくかったり。そういった子供の探究心をそぐような構造が、一般的な小学校にはあるように思います。

次回は、ぼくがヒロックでやろうとしていることについて語ります。〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック⇒
第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い

取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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