【教科調査官に聞く】社会科の新学習指導要領-改訂ポイントと授業改善の視点

学習指導要領の改訂に当たり、社会科のポイントや授業改善の視点について、文部科学省の小倉勝登調査官に、東京都新宿区立四谷小学校の石井正広校長がお話をうかがいました。

小倉勝登(おぐらかつのり)さん(写真左)
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官
東京都公立小学校教諭、東京学芸大学附属小金井小学校教諭・東京学芸大学非常勤講師(兼務)を経て、平成30年度より現職。中央教育審議会社会・地理歴史・公民W・G委員、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説社会編作成協力者。「見方・考え方 社会科編」(東洋館出版社)執筆。

石井正広(いしいまさひろ)さん(写真右)
京都新宿区立四谷小学校校長
東京学芸大学附属大泉小学校教諭・東京都多摩市教育委員会統括指導主事を経て、平成30年度年より現職。小学校学習指導要領(平成29年告示)解説社会編作成協力者。「小学校新社会科の単元&授業モデル」(明治図書)執筆。

これからの社会科の授業における学習過程

石井 「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱を育成する社会科の学びのプロセスについて、どのように考えられていますか。

小倉 小学校社会科の学習においては、問題解決的な学習過程の充実が求められると思います。①子供たちが見通しをもって学習に臨めること、②友達と関わり合う中で自分の学びが充実すること、③自分の学びや成長を振り返ることの3つが大切なポイントになるでしょう。

石井 社会科の「深い学び」とは、何でしょうか。

小倉 「深い学びの鍵として『見方・考え方』を働かせることが重要になる」という記述が見られるように、社会科の見方・考え方を働かせながら、子供たちが獲得した知識が関連付けられたり統合したりして、最終的には目標に描かれた資質・能力の育成が実現していくことだと考えています。

石井 社会的事象の見方・考え方を働かせたよい授業とは、どのようなものでしょうか。

小倉 45分間の授業の中で、例えば、①子供たちが追究する問いが明確で、②吟味された資料が活用されていて、③その資料を読み取る中で話し合いなどの活動が活発に行われるような授業がそれに当たると考えています。

逆にいうと、地図帳を見せたら、子供たちは位置や空間的な広がりに着目するだろうとか、年表を見せるだけで時期や時間の経過を理解するだろうと安易に考えるのはよくないということです。資料を提示するだけではなく、どう問いを発するか、どのような活動を組むかが重要になります。

六年生の歴史の例でいうと、明治維新の導入として江戸時代の日本橋と明治時代の日本橋を比べるというような授業があります。ここでは、比較という方法を使うことで、子供たちの中に「なぜこんなに様子が変わったのだろう」という問いが自然に生まれ、時間の経過という視点をつかむことができます。

石井 このような授業は今までも行われてきたものですが、社会的事象の見方・考え方を意識すれば、社会科の授業が苦手な先生もそれができるようになるのではないかと思います。

小倉 新学習指導要領の内容をよく読むと、学びのプロセスが描かれています。「〜に着目して」「〜を調べ」「〜を考え」「表現することを通して」「〜を理解できるようにする」という記述がなされており、単元の学習の大まかな流れが理解できるようになっています。これも見方・考え方を働かせた授業づくりのヒントになると思います。

新たな事項として加わった「選択・判断」などについて

石井 各学年の単元には、「発展を考える」「選択・判断する」「多角的に考える」などの事項が新たに加わっています。その意図は何でしょうか。

小倉 中教審の論点整理を踏まえて、小学校社会科でも、社会的事象の特色や意味などを理解することにとどまらず、主権者として求められる資質・能力を育成する観点から、社会に見られる課題を把握して、その解決に向けて、自分たちの行動や生活の仕方や、これからの社会の発展などよりよい社会の在り方などについて選択・判断したり、多角的に考えることも大切であると整理されました。そのことから、それを取り入れたということです。

石井 例えば、選択・判断する場面を設定するときのポイントは何でしょうか。

小倉 社会的事象の仕組みや働きを学んだ上で、学習したことを基に、自分たちに協力できることなどを選択し、自分の意見として決めるなどして判断することが大切です。つまり、あくまでも、社会への関わり方を選択・判断する、ということです。子供たちは、学んだことを基に、社会への関わり方を選択・判断する場面であるということです。

移行期間中の学習指導のポイント

石井 移行期間中の学習指導のポイントは、何でしょうか。

小倉 五年生の内容(1)アの(ア)に規定された内容(我が国の国土など)については先行実施していると思いますが、2019年度において注意すべきは、三年生の学習です。まずは「地域の安全を守る働き」では火災や事故を取り上げて、完全実施される2020年度の四年生で自然災害を学習するように年間指導計画を立てるようにしましょう。次に、「古くから残る暮らしにかかわる道具とそれらを使っていたころの暮らしの様子」は学習しますが、四年生で学習する「文化財や年中行事」については扱わないようにしましょう。

他には、目標と内容に合わせた単元配列や教材の見直しも急務だと思います。

取材・文・撮影/高瀬康志

『教育技術 小五小六』2019年6月号より

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