「公認心理師」とは?【知っておきたい教育用語】
心の健康を保持増進するために公認心理師が誕生してから3年になります。心の専門家としての初めての国家資格であり、その役割はスクールカウンセリングをはじめ学校現場でも欠かせないものになりつつあります。
執筆/立正大学准教授・奥野誠一
目次
心のケアの専門家
長い間、心のケアの重要性は指摘されていましたが、心理職はこれまで民間資格しかありませんでした。教育分野でなじみの深い臨床心理士も公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定する資格です。
そこで、国民の心の健康の保持増進に寄与するための、幅広い分野にまたがる汎用資格として公認心理師が創設されました。公認心理師は、心理学に関する専門的知識および技術を用いて支援活動等を行う心理職の国家資格です。「公認心理師法」は2017年9月15日に施行され、最初の国家試験が2018年に実施されました。
とくに、医療分野では公認心理師が提供できる支援や活動範囲が広がっています。他の分野でも、今後は心理職として働くには公認心理師資格が求められることが予想されます。
どのようにして資格を取得するか
公認心理師を取得するためには、公認心理師試験に合格する必要があります。受験資格を得るためには、原則として大学の学部段階および大学院で「公認心理師となるために必要な科目」をすべて修得する必要があります。
ただし、2017年9月15日(公認心理師法の施行日)より前の科目には特例措置があり、公認心理師法施行規則(附則)に基づいて各大学で読み替えられていますので、次の条件に該当する場合は受験資格を得られる可能性があります。
①2017年9月15日より前に大学院に入学あるいは修了している場合
②2017年9月15日より前に大学に入学あるいは卒業している場合
①の場合にはそれぞれの大学院で定めている科目を修得していることで受験資格が得られます。②の場合にはそれぞれの学部で定めている科目を修得していれば、法施行日以後に大学院で所定の科目を修得することで受験資格が得られます。
なお、2022年9月14日(公認心理師法施行日より5年)までに実施される試験までは、公認心理師の業務に相当する実務経験者には「現任者講習」受講による受験資格が認められています(経過措置)。この場合、2017年9月15日以前に実務経験があり、かつ受験申込時に5年間の実務経験があるという条件を満たすことが必要です。
このように、特例措置はあるものの、学生時に心理学を専門で学んでいない場合には、これから公認心理師を取得することは困難な制度です。
ここでは現職教員と関係する可能性のある受験資格区分の要点のみ取り上げましたが、他にも区分はあります。受験資格等の詳細は一般財団法人日本心理研修センター(文部科学大臣、厚生労働大臣指定試験機関)、関係法令等は厚生労働省のHPにまとまった情報が掲載されています。
教育分野で活躍する公認心理師
教育分野の心理職は、スクールカウンセラーや教育支援センター(教育相談センター・教育相談所)などの相談員が主です。心理職は募集する団体(自治体や学校法人など)によっても異なりますが、これまでは「臨床心理士(取得見込みも含む)」が主な資格要件とされてきました。しかし、公認心理師が誕生してからは、公認心理師のスクールカウンセラーが多く従事するようになっています。
教育現場レベルでは医療機関のような大きな変化はまだ生じてはいませんが、これからは公認心理師の資格をもつスクールカウンセラーや教師が心の問題をかかえている子どもを支援していくことが期待されています。
公認心理師法では、公認心理師の業務は次の4点と規定されています。
①心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
②心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
③心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
④心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供
①から③はそれぞれ、スクールカウンセラーの活動であるアセスメント(心理学的支援による子どもや集団の状態の理解)、カウンセリング(個別の心理相談やグループ・カウンセリング)、コンサルテーション(子どもの理解やかかわり方に関する教職員との相談)に相当します。
④は心の健康教育で、研修会や情報発信による啓発的な活動です。
このように、公認心理師の業務は従来の教育関係の心理職が行ってきた業務と大きくは変わりません。しかし、心理職は臨床心理士など複数資格を所有している人も多いのが実状ですから、これからは汎用資格である公認心理師とその他の資格を併せもつ心理職の強みが生かされるでしょう。
また、これまでにも支援のために関係者や関係機関との連携は不可欠でしたが、公認心理師には医師や教師などの関係者と連携を保つことが課されています。公認心理師の養成段階では学部・大学院で「保健医療」「福祉」「教育」「司法・犯罪」「産業・労働」の主要分野に関する内容の学習が必須で組み込まれています。教育以外の関係分野で働く公認心理師も教育分野の支援活動について最低限の知識を持つことで、スムーズな連携も期待できます。