「フリートーク」でコミュニケーション能力を磨く-学習の基盤となる国語力を伸ばす【筑波大学附属小学校】第3回
「教科担任制」を導入する筑波大学附属小学校の国語科教諭・桂聖先生と白坂洋一先生に、すべての教科のベースとなる 「国語力」の重要性についてお話しいただく連載企画。第3回目は、「フリートーク」を実践し、コミュニケーション能力を高める方法について、桂先生に詳しくお聞きします。
目次
自由に、安心して、話したり聞いたりできることが大切
――『これからの時代に求められる国語力について(文部科学省)』には、「国語力の中核を成す領域は、『考える力』『感じる力』『想像する力』『表す力』の四つの力によって構成されている」とあります。 この四つの力が、具体的な言語活動として現れたものが、「書く」「読む」「話す」「聞く」と考えてよいでしょうか?
桂先生 そうですね。国語力を身に付けるには、「書く」「読む」「話す」「聞く」の4技能をバランスよく磨くことが大切です。特に、「話す力」「聞く力」を磨くことは、「伝え合う力」つまり、コミュニケーション能力を高めることにもつながるので、これからの時代を生き抜く子供たちにとって、欠かせない力といえます。
「話す力」「聞く力」を磨くために、私のクラスでは、フリートークを取り入れています。国語の時間に、話合い活動やディベートなどを取り入れる場合もありますが、「正しいか? 正しくないか?」という観点になってしまいがちです。すると、「間違っていたらどうしよう」「考えがまとまらないから話したくない」など、のびのびと発言できない子も出てきてしまいます。
そうではなく、「話す力」「聞く力」を磨くためには、クラスみんなが、自由に、安心して、話したり聞いたりできるような環境を作ることが大切です。また、朝の会などに、10分程度でよいので、楽しみながら習慣化していくことも重要ですね。繰り返して行うことで、話す・聞くに、自然に慣れていくようにしましょう。
「好きなもの」について、話したり聞いたりすることから
――「書く」「読む」は、子供たち一人ひとりが、比較的自分のペースで磨くことができますが、「話す」「聞く」は、協働活動となるので、苦手な子へのアプローチが難しいのではないでしょうか?
桂先生 いきなりクラスみんなで、対話形式の話合いをするのは難しい場合もあります。まずは、先生が中心となり、簡単なテーマについて、話したり聞いたりすることから始めるのがいいでしょう。
例えば、「好きな食べ物」「好きな色」など、自分の「好きなもの」について答えてもらう活動を繰り返し、慣れてきたら、「なぜ好きなのか」という理由を話してもらう活動へ広げていくのがおすすめです。これなら、低学年でもできますね。「カレーライス」と一言だけ言う子や、「お父さんが作ったラザニアが好きです。なぜなら……」と詳しく話す子など、答えはさまざまですが、上手に話すというよりも、話す・聞くに慣れることを目指します。
―― 「好きなもの」についてなら話しやすいし、友達の発言を聞くうちに「真似してみよう!」という意欲もわいてきそうですね。 ただ、たくさんの人の前で話すのが苦手な子は、どうしたらいいでしょうか? 人前で発言する力は、大人になっても問われる大切な力だと思うのですが……。
桂先生 第一回目で紹介した語彙力バトル「 コトバト※」を 、班で実践するのがいいですね。4〜5人での活動なので、引っ込み思案の子でも発言しやすいのではないでしょうか。また、お題に沿って、辞書から言葉を探したり選んだりするので、「答えが思い付かない」「考えがまとまらない」という子にも取り組みやすいですね。ゲーム感覚で辞書をパラパラめくるうちに、いつのまにか答えが見つかったり考えがまとまったりするかもしれません。コトバトは、短時間でできるので、習慣化することで、自然に、楽しく、話す・聞くを磨くことができます。
※コトバト……辞書を使った語彙力バトルゲーム。桂先生と白坂先生がゲーム考案のアドバイザーを務めました。用意するものは、紙と鉛筆と国語辞典。4〜5人の班になって、「お題」にぴったりな言葉を、国語辞典から探し出します。
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子供たちの実態に合わせて、トークテーマを選ぶ
―― 「好きなもの」について答えてもらい、その理由を話してもらう活動に慣れてきたら、次にどんな活動が有効でしょうか?
桂先生 コミュニケーション能力を高めるためにも、対話的な活動を取り入れていくのがいいですね。対話的な活動には、次のようなものがあります。子供たちの実態やクラスの親密度に合わせて、トークテーマを選びましょう。子供たち自身に、基調提案してもらうといいでしょう。
- 情報提供型の活動……「おすすめの本はなんですか?」など、自分の考えや経験をみんなに伝えたり、みんなの意見を聞いたりする活動。はじめての対話型活動におすすめ。
- 悩み型の活動……「朝なかなか起きられないけれど、どうしたらいいか?」など、話題提供者の悩みをみんなで話し合う活動。同じような悩みを抱える子が多いので、共感しやすく、温かい雰囲気の活動になる。
- 想像型の活動……「もし100万円あったら、何に使う?」など、経験に加え、想像力を膨らませて、自分なりの意見を伝え合う活動。想像力を自由に膨らませることがポイント。
- 対立型の活動……「スマホをもつのは、賛成か反対か」など、対立する課題に対し、自分なりの意見を決めて話し合う活動。自分と同じ考え、または相反する考えに対して、相手の考えを意識して話したり聞いたりしなければならないので、論理的な思考力が求められる。
「伝え合う」には、構成力や共感力も大切
――自分では伝えたと思っていても、相手に全然伝わっていないということがときどきありますよね……。
桂先生 それは、相手を見ずに、一方的に話してしまっているからです。トークタイムを習慣化し、話す・聞くに慣れてきたら、つぎに「相手に伝わる話し方」を意識したいですね。「伝わる話し方」を磨くことで、話を聞く際も、相手が伝えたいことは何か、考えながら聞くことができるようになります。「伝え合う力」、つまりコミュニケーション能力を高めることができるようになります。
相手に「伝わる話し方」とは、「相手がきちんと理解できているかどうかまで意識して話す」ということです。相手に理解してもらうためには、構成力が大切ですね。起こったことや、言いたいことをだらだらと話すのではなく、主張(結論)・理由(なぜなら)・根拠(裏付け)に基づき、話すように指導しましょう。この3つを意識することで、話の道筋が見え、論理的な文章となり、相手に伝わりやすくなります。
また、理由を伝える際に、自分の経験と関連付けて話すことで、聞く人からの共感を得ることができます。共感力は、聞き手が、話し手の話を理解しやすくなるポイントでもあります。
――主張・理由・根拠に基づき話すのは、難しそうですね。
桂先生 語彙力バトル「 コトバト※」 は、この3つの要素を、自然に磨くことができます。
●コトバトの遊び方
- お題を選びます。例えば「かわいいものの言葉」など。
- 言葉を探す範囲を、以下の3つの中から決めます。①「『あ』など、頭文字を決めて言葉を探す」。②「『さ行』など、行を決めて言葉を探す」。③「辞書全部から言葉を探す」。
- 制限時間の3分以内に、言葉を探します。
- 選んだ言葉を、順番に発表していきます。辞書にある言葉の意味と、選んだ理由を発表します。
- 投票タイムです。自分以外の誰の言葉が、一番お題にあっているか、その理由もあわせて発表します。もっとも多く票を獲得した子が勝利となります。
- 主張……お題に沿って辞書で選んだ言葉を発表する
- 理由……選んだ理由を伝える
- 根拠……辞書に載っている意味を述べる
自分がなぜその言葉を選んだのか、理由を発表するときに、 「お題に沿って辞書で選んだ言葉を発表する」(主張)→ 「選んだ理由を伝える」(理由) →「辞書の意味を述べる」(根拠) の順番に発言することを繰り返すうちに、「伝わる話し方」が身に付きます。
また、コトバトには、最後に「投票タイム」があるので、トーナメント制を取り入れるなどすると、「伝え合う力」を磨くトレーニングも、飽きずに習慣化できそうですね。班で一番票を集めた者同士が集まり、コトバトを実践。クラスの一番を決め、さらに学年でクラスの一番同士が集まり……と、どんどん実践の場も広がりそうです。こんなふうに、みんなで楽しみながら、自分の考えを論理的に伝える力を、小学生から身に付けてほしいです。
「読む」「書く」とともに、「話す」「聞く」を磨くことは、これからを生きる子供たちにとって、何よりも大切な力です。語彙を豊かにしながら、論理的に伝え合うことを習慣化すれば、コミュニケーション能力も確実に高まりますね。
【筑波大学附属小学校 学習の基盤となる国語力を伸ばす!】シリーズのほかの記事もチェック!
(第1回)語彙力ゲームで国語辞典フル活用!
(第2回)言葉遊び、読書で語彙を豊かに
●桂先生と白坂先生が編集委員を務める『例解学習国語辞典[第十一版]』『例解学習漢字辞典[第九版]』(共に小学館)
例解学習国語辞典[第十一版]
金田一京助/編
深谷圭助、飯田朝子、石黒圭、桂聖/編集委員
例解学習漢字辞典〔第九版〕
藤堂明保/偏
深谷圭助、 白坂洋一、 山本真吾/編集委員
取材・文・構成/青木真理 撮影/藤岡雅樹 (小学館)
2021年4月取材