「教育格差」とは?【知っておきたい教育用語】
教育格差は、乳児期から生じており、小学校入学以降の義務教育期間を通して拡大していき、大人になってからも社会生活や生涯賃金などに影響を及ぼします。子ども期の教育の不利がその後の人生の不利へつながるというこの問題は、解消しなければなりません。
執筆/立命館大学教授・柏木智子
目次
教育格差はなぜ生じるのか
教育格差は、中学卒・高校卒・大学卒・大学院卒といった最終学歴の格差をさします。その他、学力格差や、認知・非認知能力の格差としてとらえられたりしますが、子ども期からの教育を通じて最終的にたどり着いた「結果」という意味では共通しています。
教育格差の大きな問題は、それが保護者の学歴や職業、年収などの影響を受けているところにあります。経済的に豊かで、社会的な地位があり、大学を卒業している保護者に育てられた子どもは大学卒の学歴を獲得しやすいという調査結果があります。もちろん、そうでないケースもありますが、教育格差という観点からみると、どのような家庭で育つかで受けられる教育やその後の人生が決まってしまうことになります。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する──このことは日本国憲法にも教育基本法にも定められているにもかかわらず、能力が、生まれた環境の影響を大きく受けていることが問題なのです。
子どもの貧困と教育格差
教育格差は、2000年代以降に注目されるようになりました。ただし、最近の研究では、戦後すぐから今に至るまで、問題としてあり続けてきたことがわかっています。
教育格差を生じさせる主要な要因の一つは貧困です。家庭のありようの多様性を認めつつも、子どもの貧困が教育に大きな影響を与えているところに目を向ける必要があります。
「国民生活基礎調査」によると、2019年の子どもの貧困率は13.5%で、7人に1人が貧困状態にあります。特に、ひとり親世帯の子どもの貧困率は48.1%で、苦しい生活ぶりが想像できます。そのような貧困状態にある子どもの家庭での学習経験は、学習塾に通っている子ども、ピアノのレッスンを受けている子どものそれに比べると少なくなる傾向にあります。家庭で勉強する時間がない子どももいます。
このような子どもを支援するために、2019年11月、「子供の貧困対策に関する大綱~日本の将来を担う子供たちを誰一人取り残すことがない社会に向けて~」が閣議決定されました。そこでは、「子供たちの成育環境を整備するとともに、教育を受ける機会の均等を図り、生活の支援、保護者への就労支援等と併せて子供の貧困対策を総合的に推進することが重要である」とされています。
貧困による教育格差を解消しなければならない、というコンセンサスは高まりつつあるといえます。
最終学歴の岐路──家庭・地域・学校
教育格差の要因として、貧困にも関連する下記のものをあげることができます。
保護者が大学卒か否かが子どもの最終学歴に大きな影響を与えているという調査があります。それによると、保護者の最終学歴が、保護者の子どもに提供する教育内容に違いをもたらします。そして、それが子どもの学習行為や意欲と関連し、子どもの最終学歴を決定するという図式です。すなわち、家庭の生活習慣や、保護者の子どもへの応答内容や方法によって、子どもの学習のありようが変わってくるのです。
そこには、保護者の語彙数や話す内容や表現の仕方、保護者が子どもに期待する最終学歴と、そのための具体的な働きかけなどが含まれます。たとえば、子どもが自分で主体的に勉強するようになるために「なぜ」「どうして」といった問いかけを推奨しているかといったものです。これらはすべて子どもの教育経験となり、それが子どもの学習時間や「高い教育を得ることを当然視する」意識に影響を与え、最終学歴に格差が生じる結果となります。
一方、生まれ育つ地域(大都市圏・非大都市圏かなど)によって最終学歴が違ってくるという指摘もあります。つまり、大学卒の集う、教育市場サービスの多い大都市圏で育つほうが、大学卒になりやすいのです。保護者や子ども自身の教育についての意識形成に、地域の影響がみられるためとされています。
加えて、学校間の違いによっても教育格差が生じます。どのような児童生徒がその学校に通うのかによって、教育内容や方法の違いが出てくるためです。それぞれの学校は学習指導要領に従って教育がなされていても、協働的で創造的な学びが展開されているか、それとも学習規律を徹底する指導が多いかなどによって、子どもの教育機会が大きく異なり、それが学歴達成に影響を与えます。
教育格差の解消に向けて
子どもの貧困に対する国の方針については上で述べたとおりです。加えて、教育格差を解消するためには、学校や学校外組織が協力しながら、不利な子どもの教育経験をより豊かにすることが必要です。
その際に重要なのは、第1に、全国の学校で同じ教育活動を同じように提供すれば教育機会が保障されるという考え方を変えることです。つまり、家庭によって異なる資源配分とそれによる教育機会の違いに着目し、不利な子どもに対しては追加的資源配分を行うことによって、より豊かな教育経験を提供する必要があります。追加的資源配分とは、お金だけではなく、モノや経験、そしてあたたかなかかわり(子どもがありのままを認められているという受容感を感じるかかわり)を含むものとなります。
第2に、そのために行政をはじめとする公的機関が「生と学びの保障」の責任をもつことです。社会の分断を防ぎ、公正な民主主義社会の形成に向けて、目の前にいる子どもの窮状に気づき、それを解消するための具体的な取り組みを進める仕組みづくりが望まれます。
格差とは、本人の努力やがんばりでは乗り越えられない大きな差を意味します。教育格差によって、将来に希望を抱けなくなり、社会を信頼できなくなる子どもが増えることを防がなければなりません。すべての子どもが自分の人生に希望をもち、他者とともに生きる幸せを実感できるようにするために、教育格差は解消しなければならないのです。
それぞれの学校が、そして1人ひとりの教師が、そのためにできることを考え、動くことが求められています。
▼参考文献
松岡亮二『教育格差─階層・地域・学歴』筑摩書房、2019年
文部科学省「我が国の教育水準と教育費」(『平成21年度文部科学白書』)
文部科学省(ウェブサイト)「子供の貧困対策に関する大綱~日本の将来を担う子供たちを誰一人取り残すことがない社会に向けて~」2019年
文部科学省(ウェブサイト)「学力格差にどう立ち向かうか(千葉県検証改善委員会)」