子供同士のトラブルは聞き役に徹するべし!【動画】
多くの若手教師から慕われる小倉美佐枝先生が、連載記事「令和2年度新任教師のリアル~実習と通常授業の間にある大きな壁~」を読んで、アドバイス! 今回は先生たちの頭を悩ます子供同士のトラブルについて。ミサエ先生は指導を挟まず、まずは子供たちの話をまるごと聞くようにしています。
目次
保護者からの連絡はありがたい
“習い事が原因で起きた子供同士のトラブルについて、保護者が学校へ相談しに来た”
「保護者あるある」だなぁ(笑)。学校のことではないじゃん…、学校の外で起きたことなのに…って思いますよね。
でも、その人間関係って意外とクラスに影響を及ぼすんですよ。あれ⁉ 2人の様子がなんか変、何があったのだろうと思ってたら、その原因が習いごとだったというのが結構あります。
だから、むしろ保護者の方から「こういうトラブルがあるんです」と連絡をもらえると、私はすごくありがたい。やっぱりそうでしたか!! となりますね。
保護者の方が学校に教えてくださるというのは、それだけ子供が困っているんだということを自覚したほうがいい。子供同士で解決したり、親子で折り合いがついていることは、わざわざ学校へ連絡をしないはず。
トラブルを引きずりそうだな、学校でも困るんじゃないかなという心配とか不安が残るから、学校に言っておこうということになるのだと思います。
だから、私たち学校側にできることは事実確認を丁寧にして、早めの対応をすること。保護者や子供たちの困り感を減らし、日々の生活を安心して楽しく過ごせるように手立てを打つことが必要です。
聞いた内容はすべて記録するべし
子供同士のトラブルについて、教師が間に入って仲直りをさせることがよくあります。私は仲直りというのは、自分を見つめ直す時間だと思っています。人間関係って人が悪いのではなくて、人と人の間で起きることがぎくしゃくしてうまくいかなくなってしまうので、そこを調整する必要があるんですよね。
そこで一人一人に話を聞く必要があります。ですが、子供たちはまだ自分の言葉や行動を客観視することに対して未熟なんです。だから、子供たちそれぞれに話を聞くときも、子供たちが伝えてくれたこと、話してくれたことは丸ごと聞いてほしいなと思います。
子供の発言に「いえ、それは・・・」と、つい口を挟んで指導したくなりますが、そこはじっと我慢。私の場合、「そうだったのね」「そんなことがあったのね」と聞きながら、A4の紙に全部記録するようにしています。
〇月△日
Aさんの話
4:Bさんから、「もうあなたとは絶交!」と言われました。
2:あなたは忘れ物ばかりだからダメ、とBさんに言われました。
1:定規を忘れたので貸して、とBさんにたのみました。
3:貸さないならこの前あげたペンを返して、とBさんに言いました。
↑あとから、それぞれの発言の、時系列での順番を記入します
記録する際はこんな風に記していきます。一番最初に言ってくれたことが事の発端とは限りません。子供は時系列を追って話すことに不慣れです。まずは全部聞いて、あとからナンバリングをして話を整理します。
そして「さっき、Aさんが言ってくれたことを先生が確認するね」と告げてから、誰が何をしたか、誰がどこでそれをしたか、ナンバリングをして整理した事柄を具体的に、子供たちに確認していきます。
ここでも感情は抑えて、指導をしないことが大切。最後に整理した事実を「これで間違っていませんか」と子供たちに確認し、「はい」と言う子供たちの返事まですべてを受けとめます。
これは子供たちに小さな小さな責任を背負わせるためにやっていることです。言動には責任が伴います。無責任に何かを言って相手を傷つけてよいワケではありません。
自分が言った事実を必ず確認をすることで「あなたはこう言いましたよね」と、責任を背負わせるようにしています。 そういう経験はこんな時にこそできるものと私は思っています。
記録したA4紙がいつしか地図に
AさんとBさんに話を聞き終えた後、初めて、AさんとBさんを対面させます。そして「Aさんからこういう話を聞きました」「Bさんからこういう話を聞きました」とそれぞれに伝えて、事実にズレがないか双方に確認します。
2人の発言にズレがあった場合は、その時の様子を知っているほかの子供に聞いたりもしますし、2人で修正をし直す場合もあります。そうやっていると、双方の話を記した2枚の紙だったものが、トラブル全体を説明した地図になり、大切な記録になります。
その記録を私は一年間保管しています。保護者に事実を伝えるときも、その記録を見ながら説明をします。来年に引き継がなければいけないようなトラブルだった時は、その記録を次年度の先生に渡します。
その説明の地図を見ていると、子供たち自身が気付きだします。「今回の出来事でどこでうまくいかなくなったと思う?」と聞くと、子供たちはじっと黙って考えています。
黙っている間、つい口を挟んでしまいたくなりますが、ここはひたすら待っていましょう。「うまくいかなくなったのは何番のところだと思う?」など、説明の地図を促しながらアドバイスをしてあげるのは良いでしょう。
すると子供たちは地図を見ながら、「ここのところで自分が◯✕□・・・と言ったから、Bさんがイヤな気持ちになったと思う」など、自分の行動を見つめ直したりするのです。
私はターニングポイントはここだと思うのです。自分の言動を振り返ることで、自分も非があったのだなということに気付きます。
お互いに、
「私が△□・・・」
「僕が✕◯・・・」
と、自分がこうしたからだと言い始めた時は子供たちは反省しています。
そういう時私は「じゃあ、どんな事をしていたら良かったと思う?」と聞くと、一生懸命考えて、
「もっと□◯と言えばよかったな」
と反省の言葉が返ってきます。
すると、たいていの子供たちは涙をぽろぽろと流して相手に「ごめんね」と言います。私まで泣きそうになる場面です。
トラブルは人生経験のチャンス
大人は人間関係のトラブルがあったとしても、経験値から冷静に客観視できます。でも子供は感情が先行するので、振り返られずにそのまま進んでしまいます。
「友だちと仲良くするのは難しいよね。仲良くしようと思ってもうまくいかない時、どうしようかと考えることは何より大事。ありがとう、ごめんねが素直に言えて、あなたが大切だから自分も大切にしようと思える事こそ、本当の友だちよ。先生はいつも見守っているから、いつでも失敗してもいいよ。そのたびに一緒に考えよう」
最後はこんな風に子供たちに話しています。トラブルは子供たちの人生経験のチャンス。トラブルを回避するために教師が指導してしまいがちだけど、うんと子供たちに考えさせたほうがいい。
そうやって考えた時のほうが子供たちの心に残ります。そして似たようなことが起きた時、子供たち自身がそれを思い出して回避することがあります。
子供たちは生まれて十年ちょっと、まだまだ人間関係を勉強し始めたばかり。だからトラブルの最後には笑顔で「先生は応援してるよ」と伝えるようにしています。
そして保護者への報告は、必ず子供たちから聞いた内容を伝えています。なるべく子供自身の口からお家の人へ伝えてほしいので、「お子さんがお伝えし終えた頃に連絡します」と連絡帳に記入しておき、あとで電話で連絡をするようにしています。
わが子がトラブルに巻き込まれたことを不安に思う保護者の気持ちを考えて、「学校でこういう風に頑張っていますよ。ぜひ応援してあげてください」と、伝えるようにしています。
習い事で起きたトラブルかもしれないけれど、学校生活に影響を及ぼす可能性もある。そう思って丁寧に対応してほしいですね。
ミサエ先生による愛あるメッセージいかがでしたか?
トラブルの最後に「失敗してもいいよ、先生はいつでも見守っているよ」。こんなあたたかい一言を添えれば、子供たちも安心して学校生活を送れますね。
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小倉美佐枝(おぐら・みさえ)
若手教員向けのセミナーで圧倒的支持を集める個性派ポジティブ教師。共著に『女性教師の実践からこれからの教育を考える!』(学事出版)ほか。