小3道徳「おせち料理を知っていますか?」指導アイデア
執筆/東北学院大学文学部教授・佐藤正寿
監修/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
伝統行事を扱う意義
日本には、伝統的な年中行事がいくつもあり、季節ごとに子供たちも経験しています。ただ、それらの行事の由来や意義については未知という子も多いと思われます。
特に年末年始の行事については、学校が休業中ということもあり、「なぜ、このような行事をするようになったか」という点まで考える機会は、それほど多くはありません。
その点で、年末年始の行事を道徳の授業で積極的に扱うことは意義があります。子供たちも毎年経験しているだけに、日本の伝統や文化について興味を示すことでしょう。
「おせち料理」の何を扱うのか
今回、対象にするのは、「おせち料理」です。もともと、おせち料理は「御節料理」という漢字から分かるとおり、季節の変わり目に神様にお供えした料理です。今ではお正月料理だけを指します。江戸時代から広まり、現在のように重箱に詰めるようになったのは、明治時代からと言われています。
現在でも、正月には多くの家庭でおせち料理が食べられており、子供たちにとっては身近なものと言えます。ただ、おせち料理の種類や歴史を教えるだけなら、何も道徳の授業で取り上げる必要はありません。
■料理の一つ一つに意味や願いが込められていること
■それらは古くから伝わる日本人の知恵であること
■おせち料理だけではなく、お正月行事にも、それぞれ人々の願いが込められていること
このような内容を授業で考えることにより、子供たちの関心は広がります。
授業のポイント
①子供たちの知識や経験を生かす
子供たちは、お正月行事やおせち料理について、ある程度知識をもっています。それを引き出して発言に生かすようにします。
②視覚的な資料を用いて理解の手助けにする
おせち料理の意味や願いを考えさせる場面では、実際のおせち料理の画像によって、意味の理解を促すようにします。
③料理に意味や願いを込める意義を話し合う場面を設ける
この場面の時間を十分に確保することで、授業のねらいに迫るようにします。
実際の授業展開
タイトル
おせち料理から人々の願いを考える~おせち料理を知っていますか?~
指導目標
おせち料理の意味や人々の願いを話し合うことにより、伝統や文化を大切にしようとする態度を育てる。
内容項目
C 伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度
準備するもの
・教材1 「おせち料理」の写真
・教材2 「えび」「こんぶまき」「かずのこ」「黒豆」の写真
▼ワークシートと教材はこちらからダウンロードできます
小三道徳学習プリント「おせち料理から人々の願いを考える」
指導の概略(板書計画例)
導入
① お正月には特別な出来事があります。どのようなものがありますか。
- テーマであるおせち料理に結び付ける。
展開1
② おせち料理には、どのような料理がありますか。
- 子供たちの知識や経験を引き出す。日本の伝統食であることを押さえる。
③ それぞれの料理には意味や願いがあります。例えば、えびは体が曲がっていますね。人も腰が曲がるくらい長生きするようにという願いがあるのです。ほかの料理は、どのような意味や願いがあると思いますか。
- 写真を1枚ずつ貼る。それぞれ名前にヒントがあることを伝え、考えさせる。難しい場合には時間をかけずに説明する。
展開2
④ このように一つ一つの料理に意味や願いがあるのは、どうしてだと思いますか。
- 時間を十分にとって発表させる。
- 話合いの後、「思ったこと」を発表させ、食べ物に意味や願いを込めている昔からの知恵に共感させたい。
終末
⑤ おせち料理だけではなく、最初にみんなが発表したお正月行事にも意味や願いがあります。どんな意味や願いでしょう。
- 関心を高めて授業を終える。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
まずは導入で「お正月」と板書します。この板書で、子供たちは正月の自分の経験を想起する準備ができます。次の「お正月には特別な出来事があります。どのようなものがありますか」という問いかけで、「毎年初詣に行くよ」「お年玉が楽しみ」というように、自分の経験を次々と話します。
本時の布石のために、「初詣でどんな願いごとをかけますか」「お年玉の意味は」と問い返して、関心を高めるようにします。【展開1】では、おせち料理に関わる写真を一枚一枚掲示して、食経験が乏しい子にも理解しやすくなるようにします。
おせち料理の意味や願いについては、クイズを出すように「かずのこは漢字で書くと? それがヒントだよ」というように興味をもたせます。ただし、後半部分の時間確保を考えて、時間をかけすぎないようにします。
【展開2】で、「このように一つ一つの料理に意味や願いがあるのは、どうしてだと思いますか」と問います。本時のねらいに迫る発問であり、時間を十分にかけたいところです。反応が芳しくない場合には、グループで話し合ったりノートに考えを書かせたり、「もし、おせち料理に願いがなかったら」といった補助発問をしたりして、考えを深めるようにします。
話合いの後、思ったこと、感じたことを発表させます。子供たちからは、昔から伝わる人々の考えのすばらしさへの共感が出てくることでしょう。その思いを「日本に昔から伝わる人々の知恵」として束ねます。
なお、おせち料理例の意味や願いは次の通りです。
・「こんぶまき」→「喜ぶ」につながる。
・「かずのこ」→子孫繁栄を願っている。
・「黒豆」→まめに働き、暮らせるように。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
導入で主題のおせち料理ではなく、正月行事を取り上げるのには意味があります。子供たちの知識や経験が反映しやすいだけではなく、終末場面で再度取り上げるからです。
「みんなが最初に発表したお正月行事にも意味や願いがあります」と終末で話すのは、この学習が自分たちの生活に連続していくことをねらっています。
関心が高まった子供たちは、自分で調べたり家族に聞いたりすることでしょう。その点で、本題材は、子供たちの生活に広げていくことができるものと言えます。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「ICTの効果的な活用」
ICTの活用は、どの教科などでも求められており、教育活動の効果を高めるための手段です。道徳科の授業においても、例えば、導入で子供の実態を言葉やグラフで提示したり、教材の読み聞かせをしながら、その場面の絵や写真を大きな画面に映し出したり、終末で子供の活動の様子を動画でふり返ったりするような使い方が見られます。
ICTの活用で一番気を付けなければならないことは、使うことを目的としないことです。教育効果を上げるために活用するものだからです。さらにもうひと工夫で効果は一層高まります。導入で見せた子供の実態はその場限りのものではなく、授業の展開の段階で実態に戻ると、自分との関わりで考えられるようになります。
読み聞かせをしながら映した絵や写真は、教科書の文字や教師の音声だけでなく、視覚優位の子供への配慮になるので注目させるとよいでしょう。終末の動画では、BGMを使いながらスローモーションにして表情に注目させます。
要するに、何を伝えるためにICTを活用するのか、その目的を考えることが重要です。
『教育技術 小三小四』2020年1月号より