危機を乗り切る“硬派なクレーム対応”術
保護者と王道の関係づくりをしていても、しばしば非常識な態度や理不尽なクレームに悩まされてしまうのが、学校現場の現実です。度が過ぎる保護者に対しては、時には、自分や同僚を守るための“硬派な対応”も必要です。元警察官で、NPO法人ちば危機管理研究支援センター理事長の星 幸広先生からアドバイスをもらいました。
目次
Point1 必ず管理職を含む複数で対応しよう
学校への「クレーム」には、近年、大きく三つの傾向があります。一つ目は、文書での回答を求める保護者が増えていることです。後述しますが、学校として「文書での回答は一切しない」という姿勢を貫くのが望ましいです。
二つ目の傾向は、誠実に説明しても納得しない保護者が増えていること。現場の先生方は苦しいでしょうが、「完全に納得してもらう必要などない」と考えましょう。一般的な第三者が客観的に見て、「学校は誠実に対応した」という域まできちんと説明すればよいのです。保護者が訪ねて来ても「あれが学校としての最終回答です」と面会を拒否するくらいの気概が必要です。
三つ目の傾向は、弁護士を連れての学校訪問の増加です。先生方は怯みがちですが、「むしろ論理的に話し合える相手が現れた」とプラスに捉え、それ以降は保護者とは会わず、弁護士とだけ面会し、話し合うとよいでしょう。
いずれにせよ、“硬派な対応”で危機を乗り切り、教職員や子どもたちを守るためには、管理職、中でも校長の強い覚悟と、毅然とした姿勢が前提となります。この記事をお読みの若い先生方は、非常識な保護者や理不尽なクレームをけっして一人では抱え込まず、可及的速やかに管理職に報告、相談し、学校全体で問題を共有するようにしましょう。
管理職に報告してしまいさえすれば、最終的な責任は管理職に移ります。職員室の評価など気にせず、一刻も早く報告、相談することが、何よりも大切です。
Point2 職員室に「お客様コーナー」をつくって対応しよう
学校を訪れる保護者は、原則、職員室内等に「お客様コーナー」を設けて対応しましょう。常に複数の教職員が見ている場所で対応します。非常識な保護者や理不尽なクレームの場合、できればやり取りを録音しましょう。
「聞き間違いがあってご迷惑をおかけするといけませんので、録音させていただきます」と穏やかな声でにこやかに伝え、レコーダーを机の上に出します。
Point3 基本的に文章での回答は断ろう
Point1にもありましたが、近年、口頭での説明や謝罪だけでは引き下がらず、文書での回答を求める保護者が増えています。文書での回答には時間も労力もかかりますし、後々まで形になって残ってしまいます。
また、SNS等で他の保護者に拡散し、次からは常に文書回答しなければならなくなるリスクもあります。「今、校長が口頭で説明いたしました。これが全てです。文書回答はお断りします」と、落ち着いた低い声で、しかしきっぱりと伝えます。
文書化してよいのは、学校側に有利に働く場合だけです。例えば、学校側から出した条件や要求について、「そんなことは聞いていません」などと言われた時には、きちんと念書(確認書)を交わすようにします。
Point4 面会人数を制限しよう
中には、SNSで仲間を集め、徒党を組んでやって来る保護者もいます。そうした場合、「当事者で、解決する力のある方としかお会いしませんよ」と伝え、人数を制限します。また、世間一般の常識として、学校を訪れる場合、事前にアポイントメントを入れてもらうよう、日頃から伝えておきましょう。
Point5 毅然として警察の協力を仰ごう
私が相談に乗っている先生方の中には、「先日保護者が来て、10時間も粘られて困りました」などとおっしゃる方がいますが、“そんなに粘らせる方が悪い”と思います。
「もうお話は終わりです。この後仕事がありますので、そろそろお帰りください」と伝えた後も、何時間と居座るような行為は、「威力業務妨害」や「不退去罪」になってもおかしくありません。
あくまでにこやかに、穏やかに、「こうなると不退去罪や威力業務妨害に当たり、警察に連絡させていただくこともできるんですよ。まだいらっしゃいますか?」と伝えましょう。
大事なのは、ブラフとして伝えるのではなく、いざとなったら本当に警察を呼び、被害届を出すことです。不要な敬語を使い、後ずさりするばかりではダメです。時に本気度を示すことも大切です。
Point6 対話の主導権を握るテクニックを身につけよう
苦情を言いに来た保護者との対話においては、まずこちらが主導権を握ることが大切です。ポイントは、「相手を喜ばせる会話から入る」こと。例えば、その保護者が目をつり上げて来たとしても、笑顔で「やあやあ、しばらくですね、どうぞ」と出迎え、「ところで○〇くん(その保護者の子)が先日……」と、日常の中から見つけたプラスのエピソードを伝えます。
「○○くんは優しい子ですね! ご家庭でどんな教育をされたら、あんな素晴らしいお子さんになるんでしょうね」などと続けます。そういう風に言われて、嫌な気がする親はいません。そして、「ところで今日はどういったご用件でしょうか」と始めた頃には、相手はすっかり気勢を削がれてしまっているというわけです。
このように相手の攻撃的姿勢と真っ向からぶつからずに、一度すかすテクニックを身につけましょう。
もう一つ、対話の主導権を握るために重要なのは、相手のことをよく知ることです。その保護者の家の近所にある公園について、「あの公園の桜は毎年綺麗ですよね。大好きなんです」などと言うと機先を制し、親近感を持たせることができます。家庭訪問でも応用できるでしょう。
Point7 怒らせたことについて謝罪する必要はない
今でもまだ「まずはご不快な思いをさせてしまったことについてお詫び申し上げます。申し訳ありません」と伝える学校現場があるようですが、そうした形で最初に謝罪するのは間違っています。
体罰等、実際に学校側に非がある場合には相手が納得するまで謝罪すべきですが、そうでない場合にまず謝ってはいけません。最初に学校側が逃げ腰になるから非常識な保護者に主導権を握られ、攻め込まれるのです。
Point8 教育三法をはじめ法律を斜め読みしておこう
“法は弱い者の味方ではない。法を知っている者の味方だ”という言葉があります。自分や同僚、そして学級の子どもたちを守るために、学校教育法をはじめとする教育三法や、学校保健安全法などの法律には、できるだけ目を通しておくことをお勧めします。第一法規(株)の『教育関係者必携』等、関係法規を解説した書籍をざっと斜め読みしておくだけでも違ってくることでしょう。
教えていただいたのは
星 幸広先生
1944年福島県生まれ。1963年に警察官となり、警察庁警備局(総理大臣警護責任者)、千葉南警察署長等を歴任後、2002年に退官。現・千葉大学ジェネラルサポーター・NPO法人ちば危機管理研究支援センター理事長。著書に『実践 学校危機管理 現場対応マニュアル』(大修館書店)等がある。
『教育技術 小一小二』2019年5月号より