安心・安全な場所を保障するリスタートマニュアル③「休み明け 心のケアのポイント」

特集
夏休みあけの学級経営リスタート特集

例年とは違う今年の夏休み。夏休み明けの学級リスタートは、どんなところに注意しながら行うべきでしょうか? 3部構成で、それぞれ経験豊かな教員が指南します。

ここでは「子供たちの心のケア」に視点を当てておおくりします。

執筆/奈良県公立小学校校長・中嶋郁雄

なかしま・いくお。1965年鳥取県生まれ。「子どもが安心して活動できる学級づくり」をめざし、教科指導や学級経営、生活指導の研究に取り組む。現在、管理職として、若手教員の育成に力を入れている。著書に『新任1年目なのに、学級担任が驚くほどうまくいく本。』(学陽書房)、『究極の生徒指導』(さくら社)など多数。

「休み明け 心のケアのポイント」メイン

元気とやる気を引き出して、子供たちを「学校モード」に

休みの期間が長くなればなるだけ、学校生活のリズムを取り戻すのにも時間がかかってしまいます。特に、休み期間が長い夏休み明けは、集中力を欠いた行動や気の緩みなどから、さまざまなトラブルを引き起こす危険性が高くなります。

だからと言って、早く学校のリズムに戻すために、強制的で厳しい指導をすれば、子供たちの元気とやる気を奪ってしまいかねません。「家にいるほうが気楽でいい」「学校はつまらない」という気持ちでは、勉強にも遊びにも充実感を味わうことはできません。

まずは、「学校は楽しい」と、気持ちを前向きにすることが大切です。なぜなら、低学年は特に、「気持ちに行動が大きく左右される」時期だからです。休み明けは、教師自身が、言葉がけや学習活動を工夫するなどして、子供たち一人ひとりの「心のケア」に気を付けましょう。気持ちが前向きになることで、子供たちは、落ち着いた学校生活を取り戻すようになります。

ここでは、夏休み明けに起こりがちな「気になる言動」を取り上げ、その原因や問題行動を放置することで起こり得るトラブルについて考えてみましょう。そのうえで、どのような指導が子供たちを守り、学級を守ることにつながるのか、考えてみたいと思います。

①「暗い雰囲気」は危険サイン

起こりがちな問題

休み明けは、取り立てて気になる行動をするわけでもないのに、教師の問いかけに無反応だったり、何をするにもやる気が感じられなかったりする子供をよく見かけます。学級全体に覇気がないと感じるときは、注意が必要です。このような場合は、ケガや器物破損、ケンカなど友達関係のトラブルが起こる危険性が高くなるからです。

覇気がなく沈んだ雰囲気が漂うときの子供たちは、一見すると落ち着いているように感じられます。しかし、それは心が平穏な状態にあるわけではありません。気持ちが陰鬱で、無気力な状態にあるのです。些細な刺激がきっかけで気分が爆発し、危険で迷惑な行動をとる可能性が高くなります。覇気がなく暗い雰囲気が教室に漂う休み明けは、子供のメンタルケアが特に必要です。

対応策

教室の雰囲気が悪いからと、教師である自分がその雰囲気に巻き込まれてはいけません。子供たちの覇気のなさに憤りを覚え、「なんだ、そのやる気のなさは!」などと、厳しい言葉を投げかけることは、子供たちの気分をますます落ち込ませることになりかねません。

子供に覇気が感じられないと思ったら、そんなときこそ出番です。子供を元気に明るくするのが、担任の役割です。教師自身がまず、明るく元気にふる舞い、子供に前向きな姿を見せるように努めましょう。低学年にとって、担任の教師の存在は非常に大きく、影響力も絶大です。憂鬱な気持ちで学校に来ている子でも、教師の明るく元気な姿と言葉を見聞きするうちに、元気を取り戻します。

「暗い雰囲気」は危険サイン

②「姿勢」の崩れは崩壊の兆し

起こりがちな問題

教師が話をしているにもかかわらず、「話を聞く姿勢」ができていない子供たちが多く見られる休み明け。机の上に突っ伏していたり、イスの後ろ脚だけでバランスを取ったりしている子や、よそ見をしていたり、手遊びをしていたりする子などさまざまです。休み中の気ままな生活習慣から、イスに普通に座ることさえつらく感じてしまう子もいます。話を聞く姿勢の乱れは、子供たちの気持ちが教師や学習に向かっていない証拠です。

よそ見や手遊びは、取り立てて周囲に迷惑をかけるほどの行為ではありません。しかし、「些細なこと」だと、そのまま何もしないで放置すれば、子供の気持ちはますます緩んでしまいます。それだけでなく、なんの指導もしないことは、「その状態でOK」と、子供の間違った行いを認めることにもなりかねません。行動が徐々にエスカレートして、手の付けられない状態になる危険性があります。

対応策

「たかがその程度のこと」と、考えて放置してはいけません。一人でも「聞く姿勢」が崩れている子がいたら、必ずなんらかの指導が必要です。わずかな乱れに敏感に反応し、迅速に指導することが大切です。子供の行為が、軽微であるほど、ほんの一言の声かけや目でサインを送るなどの簡単な指導で正すことが可能です。トラブルが大きくなってから、大声を出して威圧的な態度で、強制的に子供の行為を正すような指導は避けましょう。

普段から、子供一人ひとりに目を向けることを常に意識し、子供たちの些細な行為に敏感に反応できる力を身に付けておきましょう。「話を聞く姿勢」に対するきめ細やかな指導は、子供たちのトラブルを未然に防ぐことになり、子供たちが楽しく充実した気持ちで学校生活を送るための支援につながります。

「姿勢」の崩れは崩壊の兆し

③時間のルーズさは乱れを拡大

起こりがちな問題

休み明けは、子供たちが時間にルーズになっています。チャイムが鳴っても、なかなか席に着かない子や、遅れて教室に戻ってくる子が増えます。「まだ、いいや!」「少しくらい大丈夫!」と考えている子供もいるのではないでしょうか。

全員が教室に入って着席するのを待って、授業を始める教師がいますが、これは間違いです。怠けて時間を守らない子を待つことは、真面目にやっている子をないがしろにすることと同じです。また、時間にルーズな子を待つことは、「少々遅れても、待ってあげるよ」というメッセージを、暗に子供たちに送ることになります。

正しい行いが認められなくなると、「少しくらいなら、遅れても大丈夫!」「少しでも長く遊びたいから、遅れちゃおう!」と間違った行いをする子が増えることになり、学級の大きな乱れにつながります。

対応策

基本は、チャイムが鳴ったら、時間通りに授業を始めるべきです。みんなが真面目に授業をしているところに、遅れて授業に参加するのはきまりが悪いものです。遅れた子は、教師に注意されなくても、「しまった」と反省することでしょう。そして、「次からは、時間を守って行動しよう」と改善を決意します。

教師は、その場ではていねいに指導しなくても、「どうしたの?」と、一声かけるだけで十分です。次の時間、その子が時間通りに教室に戻ってくるか否かを注意して観察しておき、時間を守ることができたら、大げさなくらいにほめることを心がけましょう。自主的な反省を促し、子供自らが改善した姿を認め、ほめることによって、「自分でできた」という自信を付けさせましょう。その指導が、前向きな気持ちでの学校生活につながります。

時間のルーズさは乱れを拡大

④「ザツ」な言動は危険サイン

起こりがちな問題

休み明けは、子供たちのモラルが低くなっています。言葉遣いが乱雑でケンカや言い争いを起こす子、きまりを守らず、思慮深さを欠いてケガをしたり、物を壊したりする子が増えます。授業中も適当に作業したり、ノートに「ザツ」な文字を書いたりする子が多くみられたら要注意です。  

このような「ザツ」な姿勢をそのままにしておくと、気分次第で勝手気ままに学校生活を送ろうとする子供が増え、次々と問題行動やトラブルを引き起こしかねません。すると、周りの子供たちの気持ちもどんどん荒み、さらに次のトラブルを引き起こすという悪循環をつくってしまいます。 

子供の「ザツ」な言動がないか注意深く観察し、的確に指導しなければ、「ザツ」さが学級に広がり、毎日のようにトラブルの対応に追われることになってしまいます。

対応策

「ザツ」な姿勢による心の緩みが、ケンカや器物破損などさまざまな問題行動を引き起こします。「気持ちが行動に表れる」ということは、反対に、「行動が気持ちをつくる」と考えることもできます。行動を変えることで、気持ちを変えることができるということです。集中力とやる気に欠けるときは、背筋を伸ばして姿勢を正す指導によって、気持ちを引き締めます。投げやりな行動が目立つときは、静かにていねいな文字でノートを書かせることで、落ち着きを取り戻していきます。

休み明けで、やる気や落ち着きが感じられないときや、なんとなくざわついてきまりを守らない子や言葉遣いが悪い子が多いときは、「背筋を伸ばして姿勢を正す」「ていねいに文字を書く」「静かに黙って読書する」指導や、自分の体や心と向き合う時間をつくるストレスマネジメントなどが効果的です。

「ザツ」な言動は危険サイン

⑤保健室に行く子が増えたら要注意

起こりがちな問題

休み明けに、不規則な生活を改善できず、睡眠不足のまま登校する子を見かけることがあります。中には、軽い腹痛や頭痛などの体調不良を訴える子もいます。このような状況で、保健室に行く子が増えたら要注意です。

対応策

「たかが睡眠不足」「気分的なもの」と、適当に対応してはいけません。休み明けに限りませんが、頻繁に保健室に行く子には、十分な心のケアが必要です。また、学級の中に保健室に行く子が増えたら、友達関係のトラブルも増える危険性が高いと考えて、一層注意深く子供を観察し支援する必要があります。

養護教諭と協力して、様子を見ながら体を休ませたり、話を聞くことで安心させたりするなどの対応をとりましょう。保健室を一時的なシェルターにして、子供の元気と活力を取り戻して、学級に戻すことも必要です。

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イラスト/コダシマアコ

『教育技術 小一小ニ』2020年9月号より

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