チームで子供を支援!「なごや子ども応援委員会」の取り組み

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いじめや不登校をはじめとして教育上の課題は担任の悩みの種です。名古屋市では、学校に常勤で、かつ複数の専門職を配置して、子供や親を総合的に支援する「なごや子ども応援委員会」という制度を設け、こうした教育上の課題に成果を上げています。その取り組みを追ってみました。

取材・文/高瀬康志

「なごや子ども応援委員会」の様子(写真)

子供や保護者を総合的に支援する新しい制度

名古屋市では、さまざまな悩みや心配を抱える子供や保護者を総合的に支援する「なごや子ども応援委員会」という制度を構築しています。これは、いじめや暴力行為といった子供の問題行動や不登校に直面している学校現場に、スクールカウンセラー(SC)など常勤の専門職を配置し、子供たちと日常的にかかわりながら、学校とともに問題の未然防止、早期発見や個別支援を行うものです。

名古屋市教育委員会事務局子ども応援委員会制度担当部子ども応援室の水谷章一室長、森田雅美係長、石原一英主査、総合援助職の坂﨑祟正氏、スクールソーシャルワーカーの小金井祐子氏に、その先進的な取り組みをうかがいました。

特徴1《チーム性》首長主導の施策

「なごや子ども応援委員会」が設置され、活動を開始したのは平成26(2014)年度に遡ります。その前年の7月に名古屋市南区の市立中学2年の男子生徒がマンションから転落死した事件がありました。同市の第三者検証委員会の報告書において、この事件はいじめと提出物を忘れたことを苦にした自殺であると認定され、「いじめへの理解と対応が不十分」という指摘がなされました。

名古屋市教育委員会事務局子ども応援委員会制度担当部子ども応援室室長の水谷章一さんは「なごや子ども応援委員会」の発足についてこう語ります。

「こうした事案を未然に防ぐ方策を調査するため、河村たかし市長と市教育委員会がロサンゼルス市に視察に訪れたのがきっかけです。名古屋市とロサンゼルス市は姉妹都市提携を結んでいるのです。ロサンゼルス市の学校には、常勤の複数の専門職を配置する体制を整備し、それらスタッフが、問題が起きた後の対応だけでなく、子供たちの発達を支援する活動を行っていることがわかり、それを参考に導入したのが『なごや子ども応援委員会』です」

教員だけでなく、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど専門的知識や経験を持ったスタッフが連携協力し、チームとして子供を支援します。このチーム性が「なごや子ども応援委員会」の特徴の1つです。

特徴2《常勤であること》全中学校に常勤SCを配置

名古屋市内の常勤職員配置図
11の各ブロックに事務局校(★印)、市内の全中学校(●印)に常勤のスクールカウンセラーを配置
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「なごや子ども応援委員会」の活動の拠点となるのは事務局校です。市内を11のブロックに分け、各ブロックに設置された事務局校には多職種のスタッフが配置され、活動の中心となっています。

「令和元(2019)年度には、市内すべての中学校110校に常勤のスクールカウンセラーの配置が完了しました。スクールカウンセラーの席は職員室にあり、職員会議にも出席します。小学校には、非常勤のスクールカウンセラーが配置されていて、中学校区内の小学校から依頼がある場合には、事務局校や各ブロックの中学校にいるスクールカウンセラーが連携して対応します。令和2(2020)年度からは、常勤の総合援助職という新たな職種を創設しました。

昨年度までは、常勤のスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、スクールアドバイザーと、非常勤のスクールポリスの計4職種の構成でしたが、総合援助職は従来のスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの業務を一体化し、より広い視点から子供を応援・援助することを目的に導入したものです。さらにその総合援助職の中から現場のリーダーとなる主任総合援助職を配置し、各ブロックの管理運営や、これらの多職種の連携協力を統括する役割を持っています」(水谷室長)

特徴の2つめは、専門職が常勤していることにあります。
職種の役割は次のようになります。

常勤専門職の役割
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「専門職が常勤している良さは何か」…あるブロックの事務局校に所属する総合援助職の坂﨑祟正さんは端的にこう答えました。

「常勤ゆえ、スクールカウンセラーに相談しようという動機すらいらないということです。子供や教員との距離が近いことの効果だと思います」

スクールポリスを置くというのもユニークです。子供とどうかかわっているのでしょうか。

「スクールポリスは警察官のOBです。子供たちのたまり場の見回りや、法に触れたら、どうなるかというような話を子供にしていただいています。子供の中には、『スクールポリスだから話せる』という子もいます」(水谷室長)

特徴3《橋渡し役》連携が発揮された事例

各専門職の連携図
ブロック内の小・中学校と常勤専門職員チームの連携体制が構築されている
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具体的にどのようにチーム性を発揮しているのか、前出の坂﨑さんと、スクールソーシャルワーカーの小金井祐子さんにうかがいました。

ーーーどんな事例でしたか。

小金井さん:
「複数の事例を組み合わせてお話しさせていただきます。ブロック内のA小学校から相談を受けました。ある生徒から悪口を言われたことで、本人が登校できなくなったという案件でした。私がA校に出向き、本人や保護者の窓口になっている学年主任に話を聞いてみると、本人と連絡が取りづらくなり、保護者との電話連絡のみになっているということでした。
A校は、本件をいじめと認識して対応していましたが、この程度の悪口で不登校になるのは本人にも課題があるのではないかとも捉えていました。事の重大さに気づいていないと思ったので、ブロック内のスタッフ全員で各職種がそれぞれの視点から何度も検討を行い、対応方針を決定しました。その対応方針に沿って再度、坂﨑にも話をしてもらうことにしました」

坂﨑さん:
「A校の教員に集まってもらい、話をしました。私は、過去にある学校で大きな事故があり、それに対する担当教諭の発言や学校の対応の不備が問題になり、学校側と保護者側が揉め、大きく報道された例を引き合いに出して、その事案と同じようにA校の対応が後手に回っているのではないかとお話ししました。
保護者は学校に対して教員の処罰を要望として出しており、学校はそれは無理だと正面から回答しようと考えていたところでした。そこで、私は、そもそもなぜ保護者はこんな要望を出してきたのか、考えてくださいと申し上げました。今、保護者は怒りでいっぱいで、子供をこんなにした学校を困らせてやろうという攻撃的な姿勢がこの要望として表れていることを理解してほしい。無理だとただ突っぱねるだけでは、保護者の態度はますます硬化するだけです。保護者も本質的には子供のためを思っているはずなので、先生方もそこにシフトすることを考えてくださいと呼びかけました」

ーーー子供や親に寄り添うということですね。

坂﨑さん:
「もし学校側が当初のまま対応を行えば、本人の思いとは別の方向へ話が向かい、かえって逆効果になる可能性があり、ますます本人は不登校になってしまうかもしれません。本人はそんなことを望んでいませんから、保護者も本人も本心から要望しているわけではないということになります。先生方には、本人が登校できる手立てを考えて、学校から先に提示できるような姿勢で向かうことを提案し、理解してもらいました。
例えば、子供が絵を描くのが好きなら、一緒に絵を描く場を設定し、本人とかかわる時間を増やすアイデアを提案することで、登校できるきっかけになるのではないか。たとえそれが実施可能でなくても、提案するという姿勢が保護者に伝わります。そのことが、子供のために行っているということを保護者にわかってもらうことにつながります」

「なごや子ども応援委員会」のメンバーは、学校にいても教員ではないから、第三者の立場でいられます。それだからこそ、学校と本人や家庭、学校と児童相談所など橋渡しの役割を果たすことができるのです。

平成30(2018)年度と令和元(2019)年度1月現在の対応状況をみると、相談等の対応件数は増えています。相談者は児童生徒本人が一番多く、相談内容には、不登校、精神的不安、家庭の問題が上位にきています。

アメリカには、「子供中心(child-centered)」という考え方が根づいているとのことです。子供が自律・自立して自分の生き方を自分で選び、それを後押しして応援することが学校援助職の役割であるという考え方です。それを反映して、「なごや子ども応援委員会」と名づけられました。さまざまな教育上の課題にはチームで取り組みたいものです。

「教育技術 小五小六」2020年6月号より

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