学級目標がまとまらない!【4年3組学級経営物語3】
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4月②「学級目標にレッツ・トライだ!」
文/濱川昌人(よりよい学級経営を考える大阪教師の会)
絵/伊原シゲカツ
新任で4年3組を任されることになった渡来勉先生。学年打合せ会で、イワオジ学年主任からあれこれ指摘され、次第々々に自信をなくしていく渡来先生。学年打合せ会は、まだまだ続きます。
目次
<登場人物>
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主人公。教職1年目。教師になる熱意に燃えて、西華小学校に赴任。 やる気とパワーは人一倍あるものの、時には突っ走り過ぎるのが玉にキズ。しばしば飛び出す口癖から「トライだ先生」と 呼ばれるようになる。4年3組担任。
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教職20 年の経験豊富な学年主任。4年1組担任。一見いかついが、 温かく見守りながら的確なアドバイスをしてくれ、 頼れる存在。ジャグリングなど意外な特技も。
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教職3年目。4年2組担任。新採のトライ先生を励ましつつも一 歩リード。きまじめな性格で、ドライな印象を与 えてしまうことも。音楽好きでピアノが得意。
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当番活動と係活動は別もの
「でも、子どもを動かすには、さらなる手立てが必要だ。何だかわかるかな…」
主任の問いに、再び葵先生が的確に答えます。
「自主的、組織的な活動を支援・援助する手立てです。ところで、3組は係活動はもう始まっているの?」
「はい、窓係、電気係、遊び係、算数係…」
「当番活動、係活動、学習グループが完全にゴチャゴチャ。この後で補習よ!」*ポイント
先輩の厳しい視線。続いて主任の指導も…。
「学級内の様々な活動の違いをきちんと理解し、各々の目的を達成し、自主的に活動できるよう適切に支援する。これも担任の重要な仕事だよ」
ひたすらメモに専念する渡来先生です。
「でも、一番大切なことは児童理解だね」
主任の熱い話が、再開します。
「係活動」と「当番活動・生活班」の違い
当番活動とは、学級の生活を円滑に運営していく上で不可欠な「ないとみんなが困る活動」。係活動とは、よりよい学級づくりをめざして自主的に計画を立てて実践していく「あるとみんなが楽しくなる活動」です。年度始めの時期に、係活動と当番活動の違いをはっきりと意識させることが大切です。
前学年からの引継ぎで児童理解を
「児童理解の出発点は、昨年度の学習や生活等の様子の把握だな。以前の旧3年担任との引継ぎ会は、役立っているかな? *ポイント
主任の問いに、大きくうなずく葵先生。
「学校での様子や家庭環境などの必要な情報を自分なりにまとめて、指導に活用しています」
ニッコリ微笑む主任。『スミマセン…』と心で詫びる渡来先生。
休憩時間は子どもたちと遊んでばかり。先生の机上には、書類の山が…。
前年度の担任の先生に聞くことには、次のようなことがあります。
◇ 健康調査書から…既往歴やアレルギーなどで、担任が気を付けていたこと。また、保護者からの要望など。
◇ 家庭調査書から…家庭環境において気になったことについて。また、児童費や給食費の未納や滞納について(就学援助費や生活保護を受けているかなど)。
◇ 指導要録などから…学力に応じて、前担任が授業中に気を付けていたことや、特に注意して行っていた支援など。
◇ その他…友達関係や学級での行動の状況など。
積極的に子どもたちと関わる強み
「渡来先生には、素晴らしいところがあるなぁ…」
急にほめられたことに、驚く渡来先生。ニコニコ顔の主任がゆっくり話を続けます。
「それは…、子どもたちといつも一緒にいること。先生の学級づくりの、よき同志が育つよ」
「ほんとに楽しそう…。でも、どちらが先生か子どもか分からない時もありますけど」
笑いながらも厳しい一言を含んだ葵先輩の感想。
「子どもと同じ目線で対応することは、教師として大切だ。ただ、学級スタンダードを定着させる立場であることも忘れないように」
頭を掻くしかありません。
けれど、上手くいかなかった理由が少しずつわかってきました。
「子どもたちとの関わりの中で、わかることや見えるものがある。心理的距離がグンと縮まり、指導のチャンスもつかめる…。君はきっと素晴らしい先生になれる。だから頑張るんだよ」
「あ、ありがとうございます。問題点が見えてきたように思います。明日からトライです!」
「私も、後輩の手本となる学級経営をめざすわ」
教師として大切にすること、努力すべきことを学べた渡来先生。後は、実践あるのみです!
学級目標の意見がまとまらない!
3日後、4年3組では議題「学級目標をつくろう」に取り組んでいます。
「何事も前向きに」「進んで取り組む」「みんなで協力し合う」…。
黒板にはたくさんの目標案。
その数のあまりの多さに、司会のヒロより渡来先生が戸惑っています。
「意見がいっぱい出てうれしいけど、どうやって一つの学級目標にまとめるんだ?」
喜びと疑問が渦巻く渡来先生。
小声でヒロが質問してきました。
「先生、意見のまとめ方教えてよ」
『うーん…。何か言わなきゃ…。と、とにかくトライだ』
乏しい教師力を激しく反省し、焦り始めたその時です。先生の鬼ごっこ仲間のカズが、「ハイッ」と勢いよく挙手しました。
「先生が気合いを入れる時の言葉、どうかな!」
「トライだ!」
教室のあちこちに響く元気な声。
「3組にピッタリ!」
全員、納得の表情です。
「“渡来”という先生の名前、トライって読み間違えてたよ」という発言に、何人もがウンウンと頷きました
「でも、まだ何か…言葉いるよね?」
ジュンが指摘します。
考えながらハジメが答えました。
「さあみんなで頑張ろう、という意味で、『レッツ・トライだ!4年3組』はどうかなぁ?」
「いい!」
「カッコいい!」
あっという間に、素晴らしい学級目標が決定しました。
「じゃあ、これからはトライだ先生だ!」
カズの発言に、ニコニコ頷く子どもたち。
学級目標と素敵なニックネームが決まり、大感激のトライだ先生!
みんなに支えられ、4年3組の「よりよい学級づくり」が始まりました。
(5月①につづく)
『小四教育技術』2017年8月号増刊より