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【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯15 学校に怒りをぶつける保護者との「対話の扉」をどう開くか

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令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ
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元北海道公立中学校教諭

千葉孝司
【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ バナー

近年の子どもたちと昭和型学校システムとのミスマッチを要因とした令和型不登校への対応を、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案する好評連載、今回は、わが子の不登校が原因で担任と学校に激しい怒りをぶつけてくる保護者へのアプローチについて提案します。

執筆&イラスト/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)

今回の相談事例

小学6年生担任からの相談(架空事例)です。

私のクラスに、友人関係であったAとBという男子児童がいます。2人はささいなことで仲違いをし、険悪な関係になってしまいました。社交的なAは、すぐに他の友人をつくりましたが、Bは孤立してしまい、学校を休むようになってしまいました。
このことでBの保護者は「担任の配慮不足で我が子を孤立させた」と学校側に不信感を持ち、私や管理職に対し攻撃的な言動を繰り返しています。保護者の要求も、「Aに謝罪させろ」と言ってみたり、「学校の責任なんだから自分で考えろ」と言ってみたり、要領を得ません。ただ怒りをぶつけているだけのようで話し合いになりません。
Bの教室復帰に向けて、保護者とどのように向き合っていくべきでしょうか。       (40代女性)

保護者の思いを想像する

子どもたちの生活には、仲違いやトラブルはつきものです。教師としては、そうした経験を糧に子どもが成長していくことを願うものです。しかし現実には、成長のために協力してほしい保護者からの攻撃的な言動が続き、その影響もあって不登校状態のBさんの状況を変えられずに困っている――おそらく、そうした状況なのだと思います。

そもそもの仲違いの原因や事実そのものは、さほど大きな問題ではないように感じられます。それにもかかわらず、保護者がそれを大きく捉えてしまう。その姿勢に納得できない気持ちは、教師として当然のことです。「保護者はそうすべきではない」と感じ、「では、どのように向き合っていけばよいのか」と悩んでしまうのも無理はありません。

ここで、今回の事例において、学校に見えている部分と見えていない部分とを整理してみましょう。

〇仲違いのきっかけとなった些細なこと。
〇その後の二人の様子。
〇保護者の対応。

学校に見えているものは、これらの事実です。
では、今見えていないものは何でしょうか。
一度、「~すべきだ」という考え方を脇に置いて、じっくりと考えてみる必要がありそうです。

「子どもが学校に行けないのだから、それはつらいですよね」という、表面的な理解だけで終わらせず、保護者が抱えている苦しみに本当に寄り添ってみましょう。

「保護者の苦しみ」を理解するための模式図

目の前の保護者の言動だけで判断するのではなく、その奥にある不安や孤立感、焦りや自責の思いに想像を広げていくことが大切になってきます。

友人関係のトラブルがあって、我が子が学校に行けないとき、保護者の心の中には次の思いがあるのではないでしょうか。

怒り 「学校に行けなくなるほど傷つけるとは何事だ」
防衛 「これ以上傷つけられるわけにはいかない。何としても我が子を守らなくては」
孤独 「この気持ちを分かち合える人がいない」
悲しみ「我が子はなんて可哀想なんだ」
混乱 「このまま休んだままだとどうなるんだ。どうすればいいんだ」
罪悪感「そもそも、ここまでの状況になってしまったのは、親である自分にも落ち度があるかも」
恐れ 「休んでいる間に我が子は孤立してしまうのではないだろうか」
不安 「この状況はいつまで続くのだろう」
後悔 「もっと早く対応していればよかった」

こんな思いが頭の中をぐるぐると巡り続けています。気がつけばそのことばかり考えてしまい、夜もゆっくり眠れない。そんな日々が、今日までずっと続いているのです。

では、そのような保護者に対して、学校は本当に必要なケアを十分に行えているのでしょうか。もしかすると、学校に見えている“事実”に対してだけ対応しており、その背後にある保護者の苦しみや不安には、十分に目を向けられていないのかもしれません。

保護者に必要なケアの大きさを示した図

共感から始める

保護者に本当に必要なのは、共感です。「自分の苦しみをわかってもらえた」と感じられることこそが、心を開く第一歩になります。そのために、もし次のような言い方をしてしまっているのであれば、別の表現に言い換えてみることが大切です。

「子どもが歩みだせるように、前向きに考えていきませんか。」     
→「つらい思いがたくさんあって、どうしていいかわからなくなりますよね」

「いつまでもひきずらないで、気持ちを切り替えませんか」
→「つらい気持ちはすぐにはなくなりませんよね。少しずつでも薄れている感覚はありますか」

「きっかけは、本当に些細なことなんですよ」
→「小さなことのつもりでも、人を大きく傷つけてしまうことってありますよね。それをわかってほしいですよね。

「あれこれ考えていると、余計につらくなりますよ」
→「あれこれ考えて、つらい思いをしましたね。子どもが大切だから、そうなるのも当然ですよね」

保護者との対話例

<↓共感不足な対話パターン>

 うちの子が学校に行けないんです。Aちゃんのせいです。このままずっと行けなかったら、どうしてくれるんですか。
先生 Aちゃんのせいとおっしゃいますが、きっかけは本当に些細なことなんですよ。
 うちの子が悪いって言うんですか。
先生 いえ、そういうわけではなく、どうしたら良いのか前向きに考えませんか。
 ずっと私は考えていますよ。まずはAちゃんに謝らせてください。
先生 それはBさんがそう望んでいるんですか。
 そうです。先生には言えないだけです。
先生 トラブルがあってからかなり時間が経っています。それなのにAさんを納得できない気持ちにさせてしまったら、関係の修復も難しくなるような気がしますが…。
 やっぱり学校はAちゃんの味方なんですね。もういいです!
 
<↓共感的な対話パターン>

 うちの子が学校に行けないんです。Aちゃんのせいです。このままずっと行けなかったら、どうしてくれるんですか。
先生 行けなかったらどうしようという不安をずっと抱えてこられたんですよね。学校が十分に対応できていなくて申し訳ありません。Bさんが元気に登校できるように、何が必要かを考えたいと思っています。
 そうですよ。
先生 家でBさんの様子を見ていて、何かこうした方がいいとか希望はありますか。
 Aちゃんに謝らせてください。
担任 謝ってほしいですよね。Bさんはどれくらいそれを口にしていますか。
 本人はあまり言いませんけど、私が納得できません。
先生 トラブルがあってからかなり時間が経っていますが、納得できない気持ちがふくらんでいくこともありますよね。
 そうなんです。もう苦しくて。
先生 謝罪があれば、関係の修復に向けて少しは変わりそうですか。
 正直よくわかりませんけど、それがないと前に進めないような気がします。
先生 私の方からAさんに謝りなさいって言うのは、少し違うような気がするんです。強制的に言わされている感じで、Bさんも素直に受け取れないかもしれないですよね。『本当は悪いと思っていないんでしょ?』とか疑う気持ちになりますよね。
 そう言われればそうですね…。
先生 だから、まず私が今のAさんの気持ちを聞いて、それをBさんに伝えますね。
 よろしくお願いします。

非言語コミュニケーションの例を示したイラスト。聴くときの表情によって受け取られ方が違う。

※会話の際には何を言うかというだけでなく、話の聴き方など非言語的コミュニケーションにも気をつかう必要があります。第1印象が肝心です。右側のイラストで示したのが望ましい表情です。

安心を与える

共感の次に必要なのは、安心です。

保護者が抱えている不安は、多くの場合「このままでは子どもの将来が暗いものになってしまうのではないか」という強い恐れから生まれています。だからこそ、まずはその不安を受け止めたうえで、「必ずしも予測しているような暗い未来だけが待っているわけではない」と感じてもらえるような関わりが大切になります。
保護者が思い描く最悪のシナリオとは異なる、別の明るい可能性が確かに存在することを、言葉や態度で少しずつ伝えていきます。

「この子にはまだ伸びる力がある」「状況は変えていける」という希望を、押しつけではなく、自然に感じてもらえるように寄り添うことが、安心につながっていきます。

保護者との対話例

<↓安心不足な対話パターン>

 うちの子が学校に行けないんです。Aちゃんのせいです。このままずっと行けなかったら、どうしてくれるんですか。
先生 どうしてと言われましても…。
 そんな他人事みたいに。
先生 いえ、そういうわけではなく、これからどうしたら良いのかを前向きに考えませんか。
 ずっと私は考えていますよ。まずはAちゃんに謝らせください。
先生 もうずいぶん時間も経っていますし、そのことについては互いに一応謝罪しているはずです。
 でも状態が良くならないじゃないですか。
先生 謝罪をしても関係の修復にはつながらないかもしれませんよね。
 やっぱり学校は子どものことはどうでもいいんですね。もういいです!
 
<↓安心を感じさせる対話パターン>

 うちの子が学校に行けないんです。Aちゃんのせいです。このままずっと行けなかったら、どうしてくれるんですか。
先生 このまま行けなかったら……って不安になりますよね。つらい思いをさせてしまい大変申し訳ありません。
 そうですよ。学校はどうしてくれるんですか。
先生 トラブルで一時的に学校に来られないという子どもも、たまにいます。でも落ち着いてくると自然と学校に足が向くことが多いですよ。
 そうなんですか。どうしたらそうなるんですか。
先生 最初は『相手を許せない』って思いますよね。許せない相手がいる学校には行きたくないですよね。顔も見たくありませんから。
 そうですよね。だから、まずはAちゃんに謝らせください。
先生 大人の感覚と子どもの感覚は違うんですよ。良かれと思って謝罪の場を設けても、『後から関係が気まずくなった。余計なことをするな』と言われる場合があります。本人が感情に任せて謝罪を求めても、冷静になってから後悔することもあるんです。
 そうですか…。
先生 だから、まずはBさんの思いを吐き出させる場をつくりたいと思います。Aさんに対する思いだって、何度も言葉にしているうちに、どうでもよくなってくることもあるんです。大人の感覚と子どもの感覚は違うんですよ。ケロリと仲直りすることだってあるんです。
 …私だったら許せないですけどね。
先生 大人ならそうですけど、子どもは違うんです。だから2人の関係に関することは慎重に進めさせてください。でも、Bさんの思いはしっかりと聞きたいと思っています。怒りのボルテージが少し下がってこないと難しいかもしれません。ちょうど本人に宛てて手紙を書いたので、今日渡してももらえますか。
 あ、ありがとうございます。
先生 話したいとか、学校に行ってみたいとか、本人のペースを大切にしたいと思っています。上手に休めば一歩を踏み出しやすくなるので、Aさんのことには触れずにそっとしておいてもらえますか。
 わかりました。

共感と安心を土台にして保護者を支える構造を示した図

共感と安心、この二つがそろってはじめて、保護者の心は安定します。

どれほど正しい助言や情報を伝えたとしても、保護者が「わかってもらえた」「受け止めてもらえた」と感じられなければ、心は閉じたままです。土台となる共感と安心が欠けている状態では、前向きな行動や建設的な話し合いは生まれにくいのです。

保護者が一方的に話し続けてしまったり、感情的になってしまったりして「話し合いにならなくて困る」という場面は、学校現場ではけっして珍しくありません。しかし、その背景には、多くの場合、深い不安や孤独感、そして「自分だけが苦しんでいる」という切実な思いが潜んでいます。

だからこそ、まず必要なのは“土台づくり”です。相手の言葉の表面だけを受け取るのではなく、その奥にある気持ちに寄り添い、「この人は自分の味方でいてくれる」「ここなら安心して話せる」と感じてもらうこと。その信頼が育ってはじめて、保護者は落ち着きを取り戻し、対話の扉を開くことができます。

土台が整えば、保護者は少しずつ未来を前向きに捉えられるようになり、学校との協力関係も築きやすくなります。焦らず、急がず、まずはその基盤を丁寧に育てていくことが必要です。

 

イラスト/千葉孝司
この連載は、原則として月に1回の更新予定です。

<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓発活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。

千葉孝司先生のご著書(必読の名著!)、好評発売中です。

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