温かい雰囲気を作る『心理的安全性と挑戦する勇気』
新人教員のための学級安定実践13選⑧

学級の温かい雰囲気は、子どもたちの学習意欲と人間関係に大きな影響を与えます。しかし、温かい雰囲気とは単に「優しく接する」ことではありません。子どもたちが失敗を恐れずに挑戦でき、お互いを認め合える環境を作ることが重要です。これを心理的安全性と呼び、現代の教育において注目される概念です。
執筆/私立小学校教諭・熱海康太
目次
心理的安全性の本質

心理的安全性とは、失敗や間違いを恐れることなく、自分の思いや考えを表現できる環境のことです。子どもたちが「間違えても大丈夫」「分からないことを分からないと言っても大丈夫」と感じられる学級では、主体的で深い学びが実現します。
逆に、間違いを笑われたり、分からないことを恥ずかしいと感じたりする環境では、子どもたちは萎縮し、消極的になってしまいます。温かい雰囲気作りの第一歩は、この心理的安全性の確保なのです。
よく「教室は間違えるところだ」といいますが、それはまさにこの考え方が根本にあるということです。私自身も、4月当初などこれを口ぐせのように伝えて、挑戦することが当たり前である文化を育てようと試みていました。ファーストペンギンの寓話(氷上から先に海に飛び込むペンギンがいると全体へのポジティブな影響が大きく、また、自分自身も多くのエサにありつける)などを使って、様々な角度から刺激を与えることは重要です。
また、挑戦の結果にはさほど注目しません。成功などの結果でなく、挑戦そのものを讃えるのです。「正解できたね」だけでなく、「考えて発言してくれてありがとう」「新しいことに挑戦する姿勢が素晴らしい」といった声かけにより、プロセスを重視する文化を作ります。
失敗したときも、「惜しかったね」「いい考えだったよ」と挑戦したことを認めます。そして、「どこまでは合っていた」「どの部分が惜しかった」と具体的にフィードバックすることで、失敗から学ぶ姿勢を育みます。また、「失敗は成長の元」(成功の元、ではなく、結果が出てはいないが成長には確実につながったという励まし)であったと、背中を力強く押したいものです。このような取り組みを、継続的に行うことによって、挑戦文化は定着していきます。
拍手の文化:みんなで讃える
発表や挑戦に対して、クラス全体で拍手を送る文化を作ります。ただし、これは形式的な拍手ではなく、心からの讃えの気持ちを込めた拍手です。「○○さんの発表に拍手をお願いします」ではなく、「○○さんの勇気ある発表、みんなはどう感じましたか」と問いかけます。そこで自然に拍手が起きたら、「こういう雰囲気が、温かいってことなのかなと思ったよ」と伝えるのが良いでしょう。
バリエーションも教えます。大きな成功には大きな拍手、勇気ある挑戦には温かい拍手、困っている友だちを助けたときには感謝の拍手など、場面に応じた拍手により、子どもたちの感情表現も豊かになります。拍手の相手におへそを向けて、顔を見ながら拍手をすることで、よりそんな気持ちが伝わりやすくなることも付け加えます。
権限なきリーダーシップの育成
温かい学級では、誰もが状況に応じてリーダーシップを発揮できます。これを「権限なきリーダーシップ」と呼びます。係や委員でなくても、困っている友だちを助け、良いアイデアを提案し、みんなをまとめる力を持った子どもを讃えます。
「今日は○○さんがみんなをまとめてくれましたね」「○○さんのアイデアのおかげで、みんなが楽しく活動できました」といった声かけにより、役職に関係なく貢献を認める文化を作ります。
また、みんなの前で表現することが苦手な子には、「いつも片付けを丁寧に行っている」「あなたは優しさがあるよね」と教師がポジティブなラベリングをすることも手です。そうすることで、この子はクラスの中で「優しさリーダー」になる、ということになります。このように役職はなくとも「優しさリーダー」や「ムードメーカー」、「落ちつきの達人」などはクラスには不可欠な存在です。それらを言語化することによって、権限なきリーダーシップはクラスにポジティブな影響を与えるのです。
個々の良さを見つける技術
バナーイラスト/futaba(イラストメーカーズ)

著者:熱海康太(あつみこうた)
一般社団法人日本未来教育研究機構 代表理事
大学卒業後、神奈川県内の公立学校、私立学校で教鞭を取る。
大手進学塾の教育研究所を経て、現職。
10冊以上の教育書を執筆し、全国10,000人以上の先生方に講演を行うなど、幅広く活動している。
