「ルッキズム」とは?【知っておきたい教育用語】
近年、「ルッキズム」が社会的課題として注目されるようになってきました。その背景には、SNSの普及やメディアの影響が大きく関係しています。今回は、ルッキズムが社会に与える影響や、ルッキズムにおける教育の役割、教育実践例などを解説していきます。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛

目次
ルッキズムとは
【ルッキズム】
人を外見によって判断することで、「外見重視主義(look・外見+izm・主義)」ともいう。外見的魅力を基準として他者を評価する価値観や行動を容認することから、日常生活、雇用、教育などにおいて不平等な扱いを正当化する根拠にもなっている。
インターネット上では、自撮り写真や美的加工が日常的に行われ、特定の美的基準が拡散・強化されています。とくに若年層においては、他者からの「いいね」やコメントが自己評価に大きく影響を与え、自尊感情の低下や過度な容姿への執着を引き起こす要因となっています。
また、テレビや雑誌、広告などのマスメディアにおいても、美しい外見をもつ人々が称賛される傾向にある一方、そうでない人々は笑いの対象になることがあり、外見によるステレオタイプが温存され続けています。さらに、就職活動や学校生活のなかでも、見た目が「好印象」であることが有利に働くという見方が存在し、ルッキズムが機会の平等を損なう社会構造の一部となってしまっています。
2023年にアメリカで公開された映画『顔を捨てた男』でも、ルッキズムがテーマの一つとして扱われています(日本では2025年7月に公開)。
『顔を捨てた男』
ブラックユーモアを効かせながら「ルッキズム(外見至上主義)」を痛烈に風刺した不条理スリラー映画。主人公は、外見や過去に対して根拠のないうわさを立てられたり、偏見を受けたりするなど、周囲から「危険な存在」と見なされる。そこで外見を劇的に変える過激な治療を受け、念願の新しい顔を手に入れる。過去を捨て、別人として順風満帆な人生を歩みだすことになるが、かつての自分の顔にそっくりな男に出会い、外見ではなく内面で人を判断することの大切さを学んでいく。
この映画では、見た目に基づく差別=ルッキズムがもたらす孤立や誤解、そしてそれを乗り越える人間関係の力が描かれています。外見にとらわれずに他者と向き合うことの意味を、観客に問いかける作品です。
こうした時代背景のなかで、近年、「容姿に基づく差別や偏見は、人権問題として捉え直される必要がある」との認識が広がってきました。
ルッキズムが社会に与える影響
ルッキズムは、個人の尊厳や公平な社会の実現に対して、深刻な影響を与えています。容姿による偏見や差別は、当事者の自己肯定感を大きく損ない、精神的健康に悪影響を及ぼします。とくに若年層では、外見に対する過度な評価がいじめや排除につながることがあり、学校現場での重大な教育課題ともなっています。また、労働市場においても、容姿が採用や昇進に影響するケースが報告されており、実力や適性よりも外見が重視される風潮は、社会の多様性や公平性を阻害しています。
さらに、ルッキズムはジェンダーの問題とも深く結びついており、とりわけ女性に対する容姿規範の押しつけは、身体的・精神的な自由を奪う要因となっています。このように、ルッキズムは個人の生き方を制限し、無意識のうちに差別を再生産する社会的メカニズムの一部であるといえます。