Z世代の教員と学校を作っていくために、年長者が考えるべきこととは?


いま、30代の半ばから20代の若い先生たち…いわゆるZ世代の人が、指導陣の多くを占めてきている学校も多いのではないかと思います。管理職のみなさんや、ベテラン教員のみなさんは、若い先生方としっかり分かりあえてますか? 育ってきた時代や環境が異なれば、価値観や考え方が異なるのは当たり前のことです。ときにそれが原因で、人間関係の摩擦や問題が起こることもあります。
今回は、Z世代をモデル化し、その特徴や対応法を考えていきます。
【連載】がんばれ教頭クラブ
目次
Z世代とは?
1990年代中盤以降に生まれた若者が「Z世代」と呼ばれています。
これはアメリカ発祥の呼び方で、1960年代中盤から1980年生まれを「X世代」と呼び、1980年~1990年代中盤に生まれた人たちを「Y世代(ミレニアル世代)」と呼んだことから、それに続く世代として名付けられました。
この世代に特徴的なのは、生まれたときからすでにデジタル機器やデジタルメディアが普及していたことです。幼いときからスマホやタブレットに触れ、ソーシャルメディア(SNS)での意思疎通は当たり前のことでした。
これによって、本来的に子どもが持っている濃密で範囲の狭い接触型のコミュニケーションだけでなく、広く薄い非接触型のコミュニケーション範囲をも獲得しました。むしろ、後者の方に親しみを強く持っている人が多いのではないかと思います。それは人間社会の広さや多様性を理解することにつながりましたが、「人は人、自分は自分」という個人主義的な価値観も浸透させることとなりました。
さらにこれは日本社会において特徴的ですが、Z世代は低成長・低出生率の時代をずっと生きてきているため、無駄や浪費を嫌い、効率を重視し、安定志向であると言えます。冒険はせず、人の輪は乱さず、ルールには従う、というような保守的な姿勢をもっています。
Z世代教員の特徴
① タイムパフォーマンス重視
「この会議、もっと短くできないですか?」
「その書類、デジタル化すればムダが省けますよね?」
彼らはムダを嫌い、生産性の最大化を追求します。学校業務の効率化や改善を加速させる、推進力となり得ます。
② 強い仲間意識
特に同世代間、共感しあえる者同士の仲間意識が強いです。
新年度の学級準備。配布物の作成に追われる中、Z世代教員が
「これ、画像を入れたりレイアウトを変えたりするだけで、もっと分かりやすくなりますよ!」
と提案しました。すぐに他の教員たちとファイルを共有し、分担して作業を進めました。あっという間に魅力的なプリントが完成し、
「みんなでやると、こんなに早く、しかもクオリティを高くできるんですね!」
と、チームでの成果に手応えを感じていました。
③ 仕事よりプライベート。「健全なワークライフバランス志向」
ちょっと仕事が残っていても、
「今日は定時で上がって、夜は趣味の時間にします!」
と、仕事とプライベートの区別を明確にし、心身の健康を大切にします。既存の世代では考えられないことも多いですが、結果として学校現場での高い集中力とパフォーマンスにつながっています。
④ 多様性を自然に受け止める「ボーダレスな受容性」
「A君はLGBTQ+で、Bさんは不登校。でも、みんな大切な教え子です!」
彼らは多様な背景を持つ児童生徒一人ひとりの個性を自然に尊重し、どんな子も受け入れるボーダレスな受容性を持っています。これは、これからの時代に求められるインクルーシブな教育に直結する強みです。
⑤ デジタルネイティブゆえの「先進的な情報活用力」
タブレット操作は朝飯前、最新の教育アプリもすぐに使いこなす。
「せんせい、この動画教材、このアプリで作ったらもっと効率的ですよ!」
彼らはデジタルネイティブとして育ったため、GIGAスクール構想におけるICT活用のリーダー的存在になり得ます。
Z世代教員の潜在的課題
一方で、Z世代教員が既存の学校文化の中で戸惑いを感じる場面も少なくありません。
① 伝統・慣例との摩擦
「なぜこのやり方をする必要があるんですか? 合理的ではないですよね?」
長年引き継がれてきた学校の伝統や慣例に対して、彼らが合理性を問いかける発言は、時には挑戦的と受け取られてしまうことがあります。さらに
「指導書どおりにやれば教材研究の時間も短縮できますよね」
と真剣に言います。
② トップダウン型マネジメントへの抵抗感
上司からの
「これ、やっといて」
という指示に、彼らは
「なぜですか?」
「目的は何ですか?」
と感じてしまう。背景や目的が共有されないトップダウン型の指示では、彼らの意欲は低下しがちです。
③ 突発的な業務への戸惑い
「え、今日中にこれ全部やらないといけないんですか? 聞いてないですけど…」
急な会議や、予測できない業務の発生は、彼らの大切にするワークライフバランスを崩し、摩擦の原因となることがあります。さらに、マニュアルがないとできない、研修でやっていないと堂々と言います。
④ 画一的な指導への疑問
「全員同じプリントを配って、同じ答えを求めるのは、もう時代遅れじゃないですか?」多様性を尊重する彼らは、画一的な指導や教育方法に対して疑問を抱き、より個別最適化された教育を求め率直な提言をすることが増えています。一斉指導の発問研究などはあまり重視していません。
⑤ 対面よりオンラインを好む傾向
「せんせい、これってメールで質問しても大丈夫ですか?」
Z世代教員は、対面で話すよりも、LINEやチャット、メールなどでのやり取りを選びがちです。
これは、デジタルツールを使いこなしているから、という理由以上に、対面で話すよりお互いの時間を浪費せず、効率がいいから、という理由があります。
Z世代と一口に言っても、もちろん個人差はありますが、Z世代をモデル化するうえで、こうした特徴は欠かせないのではないかと思います。
Z世代と “つながる” 3つのキーワード ──スピード・共感・体験
Z世代教員との人間関係を円滑にし、人材育成につなげていくためには、「スピード」「共感」「体験」の3つが鍵になると言えます。
⑴ スピード ― わかりやすさと即応性
Z世代の教員にとって、明確で簡潔な情報は仕事の効率とモチベーションに直結します。業務連絡では、「要点」「担当」「期限」の3点を明確に示し、長文にならないよう配慮することが不可欠です。
「これを参考に使ってください」
とテンプレートを添えたり、要点を箇条書きにしたマニュアルをつけて指示することが望ましいです。
不確実性を減らし、迅速な判断と行動を促すための「標準化」された情報提供こそが、Z世代教員の能力を最大限に引き出す鍵となるのです。
<ポイント> まずは「標準化」から!
⑵ 共感 ― 否定しない受け止め
Z世代の教員と効果的なコミュニケーションを図るには、まず相手の意見を「否定しない」姿勢が極めて重要です。彼らの発言や提案に対しては、
「そういう見方もあるね」
と一度受け止めてから、その理由や背景に耳を傾けるようにしましょう。面談の際には、「〇〇ができるようになったのは、あなたの工夫があったからだね」
と具体的に成長や貢献を認め、共感を示すことで、彼らは安心して自己表現できるようになります。また、彼らのプライベートやワークライフバランスに対する価値観を尊重し、「最近よく動いているね。自分のペースでできている?」
といったワンクッション置いた声かけも有効です。多様な価値観を持つ彼らを頭ごなしに否定せず、その個性を「肯定」する姿勢が、信頼関係の構築と彼らの自主性を育む基盤となります。
<ポイント> 多様な価値観を「肯定」する!
⑶ 体験 ― できた感と成長の実感
Z世代の教員は、自らの手で成し遂げた「できた感」や、具体的な「成長の実感」を強く求める傾向があります。新しい教材提案や授業での実践について、若手に部分的にでも裁量を与えて任せ、その結果を具体的にフィードバックすることが重要です。例えば、
「あの部分、児童がすごく集中していたよ」
といった具体的な称賛は、彼らの自信に繋がります。学期末や教職員面談時には、
「4月の自分と比べてどうだった?」
といった問いかけを通じて、自己評価と成長を整理する機会を与えましょう。さらに、小さな成功であっても見逃さず、翌日すぐに
「昨日の対応、落ち着いていてよかったよ」
と声をかけるなど、タイムリーな承認が彼らのモチベーションを大きく高めます。成功体験を積み重ねることで、「自分はできる」という自信を育み、さらなる挑戦へと繋げていくことが、彼らの継続的な成長を促す上で不可欠です。
<ポイント>「成功体験」を自身につなげる!
この3つのキーワードで接すれば、Z世代教員の能力を最大限に引き出せます。これは、彼らの特性を理解し、自律的な学びと具体的な貢献を促すマネジメントが鍵となることを意味します。個々の強みを活かし、成長を加速させることで、学校全体の活性化にもつながるでしょう。