「ウェルビーイングの向上」とは?【知っておきたい教育用語】
2023年の中教審答申「次期教育振興基本計画」で、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が提唱されました。今後の教育においてウェルビーイングの獲得的要素と協調的要素を調和的・一体的に育むことが示されました。
執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明

目次
ウェルビーイングとは
【ウェルビーイング】
「良好な状態」や「心身ともに健康で、持続的に幸福な状態」を意味する言葉。教育分野において、子どもはもちろん、教師のウェルビーイングの向上も望まれている。
「ウェルビーイング」を解説した過去の記事はこちら
経済先進諸国では、GDP(国内総生産)に代表される経済的な豊かさだけではなく、精神的な豊かさや健康までを含めたウェルビーイングを向上させる考え方が重視されています。OECD(経済協力開発機構)の「Learning Compass2030(学びの羅針盤2030)」では、個人と社会のウェルビーイングは「私たちが望む未来(Future We Want)」であり、社会のウェルビーイングが共通の「目的地」とされています。
「次期教育振興基本計画」では、ウェルビーイングについて次のように説明しています。
○ ウェルビーイングとは身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含むものである。また、個人のみならず、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることを含む包括的な概念である。
文部科学省(PDF)「次期教育振興基本計画について(答申)」中央教育審議会、令和5年3月8日
将来の予測が困難な時代(VUCA)において、個人が幸福や生きがいを感じるだけではなく、社会全体が幸福な状態になることをめざしています。あわせて、教育を通じて日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上を図ることも求められています。
日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上
ウェルビーイングには2つの要素があります。一つは自己肯定感や自己実現などの獲得的要素で、もう一つは人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの協調的要素です。
日本では獲得的要素と協調的要素を調和的・一体的に育む日本発のウェルビーイングの実現をめざします。まさに、教育を通じて調和と協調(Balance and Harmony)に基づく日本発の日本社会に根ざしたウェルビーイングを向上させ、国際社会に発信していきます。
また、協調的要素については「同調圧力」につながるような組織への帰属を前提とした閉じた協調ではなく、他者とのつながりや関わりのなかで共創する基盤としての協調が重要です。
教育とウェルビーイング
教育とウェルビーイングの関係については、文部科学省「第4期教育振興基本計画リーフレット」で次のように説明しています。
●不登校やいじめ、貧困など、コロナ禍や社会構造の変化を背景として子供たちの抱える困難が多様化・複雑化する中で、一人一人のウェルビーイングの確保が必要
文部科学省「教育振興基本計画」令和5年6月16日閣議決定
●子供・若者に、つながりや達成などからもたらされる自己肯定感を基盤として、主体性や創造力を育み、持続可能な社会の創り手の育成を図る必要
●地域における学びを通じて人々のつながりやかかわりを作り出し、共感的・協調的な関係性に基づく地域コミュニティの基盤を形成
教育に関連するウェルビーイングの要素には「自己肯定感」「心身の健康」「幸福感」「協働性」「社会貢献意識」「学校や地域でのつながり」「自己実現」「安全安心な環境」「多様性への理解」「利他性」「サポートを受けられる環境」などがあります。
そして、教育活動全体を通じたウェルビーイングの向上をめざすために、各要素を育む教育活動の事例として、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」や「多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂による共生社会の実現に向けた学び・生徒指導」「地域や家庭で共に学び合う環境整備」「キャリア教育・職業教育、課題解決型学習」「豊かな心・健やかな体の育成、安全・安心」「グローバル社会における国際交流活動」などが挙げられます。
教師のウェルビーイング
子どもたちのウェルビーイングを向上させるためには、教師をはじめとする学校全体のウェルビーイングが重要です。
教師のウェルビーイングとは職場の心理的安全性、良好な労働環境、保護者や地域との信頼関係、子どもの成長実感などが挙げられますが、現状はいずれの項目も万全とはいえない状況、環境です。教師のウェルビーイングがなければ、子どもたちのウェルビーイングの実現は困難であるため、早急に教師の多忙化、バーンアウトの解消となるような学校の働き方改革が求められます。
教師および子ども一人一人のウェルビーイングが家庭や地域、社会に広がることによって、その広がりが多様な個人を支え、将来にわたり世代を超えて循環していくことが望まれています。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「次期教育振興基本計画について(答申)」中央教育審議会、令和5年3月8日
文部科学省(PDF)「次期教育振興基本計画について(答申)参考資料・データ集」中央教育審議会、令和5年3月8日
文部科学省「教育振興基本計画」令和5年6月16日閣議決定
株式会社第一生命経済研究所「教育振興基本計画とは(1)~教育とウェルビーイング~」鄭 美沙、2023年3月13日