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中二国語「走れメロス」の全文を使用する、協働的な学び・意見をつなぐ学び合いの実践

教育コンサルタント

田畑栄一

子どもたち個々人の考えを大切にし、個々人の成長をサポートしながら、学級経営もしていける【意見をつなぐ学び合い】。今回は、『走れメロス』を題材に、その授業実践をご紹介していきます。一つの正解を求める授業から、それぞれの意見を伝え合い、学び合う学びへ。その転換について考える一助となれば幸いです。
教育アドバイザーとして全国各地で講演しながら、現在も授業実践を重ねている田畑栄一先生によるメソッドです。

執筆/教育コンサルタント 田畑栄一

はじめに 「伝え合い・学び合う国語」への転換を目指して

これからの国語教育に求められているのは、「一つの正解を追い求める読み」から、「それぞれの読みを伝え合い、広め合い、深め合う学び」への転換ではないでしょうか。この転換は、教室にいる生徒たちの姿を根本から変える可能性を秘めています。私がその確信を得たのは、ある附属小学校の研究発表会に参加したときのことでした。そこで出合ったのは、教材文の提示方法そのものが、子どもたちの読みや伝え合いの質を変える力をもっているということでした。教材は、単なる「読む材料」ではなく、「考え、伝え合うための土台」として機能していたのです。
今回は、そうした教材文のあり方について考えてみます。どんな教材提示が適しているかは、学習の目的によって変わります。だからこそ、教材提示は一律ではなく、柔軟に考えていく必要があります。特に、読みをつなぎ、深め合うことを目指す授業では、構造的に工夫された教材が大きな力を発揮します。

長文教材で立ち現れる、わかりにくさ

現在、多くの教科書教材は、文字の大きさや行間などに配慮しながら、場面ごとに丁寧に読み進める構成となっています。もちろん、この構成は多くの場面で有効に働きます。
しかし、たとえば『走れメロス』のような長文の物語教材になると、少し事情が変わってきます。この作品では、登場人物の心情の揺れや葛藤といった感情の変化が、時間の流れに沿って緻密に織り込まれています。そのため、読みの全体像を把握することが、深い理解には欠かせません。ところが、ページをめくりながらの読み進めでは、「いま、どの場面の話をしているのか」が分かりづらくなり、意見を言いたくても言いづらいという場面が出てきます。また、発言している生徒に「その根拠はどこですか」と問いかけると、「なんとなく」と曖昧になることも少なくありません。私はこの点に、ずっともどかしさを感じていました。
ある日の授業後、生徒のひとりがこう話してくれました。
「言いたいことはあるけど、どこを話し合っているのか分からなくなることもあって…」
その一言は、私にとって大きな気づきとなりました。「生徒が根拠を持って発言できない」のではなく、「発言しにくい教材構造になっているのではないか」と感じたのです。
そこで私は、教材そのものの提示方法を見直す必要があると考えるようになりました。生徒の読みを引き出すには、教材の構造自体が「読みたくなる形」であることが必要なのです。思い切って研究会で出会った「全文シート」の導入を決めたのです。それも行数をつけた「行番号の付いた「全文シート」(以後「全文シート」と表記)です。

A3二枚に印刷された「全文シート」

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