小学一年生の「スタートカリキュラム」をレッツ スタート。 新一年生が「明日も小学校に行きたいな!」と思える最高のスタートを!
「小学校」という新しい社会で生活することになる新一年生。幼児期の生活とのギャップによる「段差」に困りを抱える子どもは少なくありません。小学校に勤める教師にとって「当たり前」とされていることが、新一年生にとってはなじみがなかったり、抵抗のあるものだったりします。いろんな園や環境で育った子どもたちが小学校でも安心して主体的に力を発揮することができるカリキュラム。それが「スタートカリキュラム」です。
新一年生が生き生きと学校生活を過ごすためには、このカリキュラムを見直すことがとても重要です。

【連載/小学校だいすき!な一年生を育てる #03】
執筆/大分県公立小学校教諭・小野晃寛
目次
スタートカリキュラムって何?
そもそもスタートカリキュラムって何ですか?
スタートカリキュラム スタートブック(H27文部科学省 国立教育研究政策所)では、スタートカリキュラムを以下のように説明しています。
スタートカリキュラムとは、小学校に入学した子供が、 幼稚園・保育所・認定こども園などの遊びや生活を通した学びと育ちを基礎として、主体的に自己を発揮し、新しい学校生活を創り出していくためのカリキュラムです。
※下線は筆者が引いたもの
そうです。
スタートカリキュラムとは、子どもたちが主語となり、主体的に小学校生活を送れるようにするためのものです。
教師が主語となり、子どもたちを「型にはめる」ものでは決してありません。
人は誰でも、これまでの経験や身に付けた力が役に立ちそうだと見通しが立った瞬間に、やる気のスイッチが入り、物事に主体的に関わろうとします。
新1年生にとっては、これまで育ってきた幼児教育施設での経験や力を発揮しながら、人やもの、出来事に自ら働きかけていく姿と言えます。
このような主体的に関わる姿を実現しながら、子どもたちが自ら新しい学校生活を創り出していくための希望のカリキュラム。それが「スタートカリキュラム」なのです。
だれが、いつ、どんな風に作るのですか?
スタートカリキュラムはすでにどこの学校にもあります。前回の改訂(H20年小学校学習指導要領)でスタートカリキュラムを用いて指導の改善を図ることが示されており、H29の改訂では、さらにその重要性が高まっていると明記されています。つまり、10年以上の長い年月をかけて、それぞれの学校ではスタートカリキュラムの作成、実施、改善をしてきているのです。そのため、改めて0から作るということはありません。
H29小学校学習指導要領解説 生活編では、「全教職員でその意義や考え方、大切にしたいことなどを共通理解し、協力体制を組んで第1学年を見守り、育てるとともに、児童の実態に即して毎年見直しを行いながら改善し次年度につないでいくことが重要である。」とあります。
要するに、スタートカリキュラムは、学校全体で取り組むものであり、第1学年の担任だけが考えるものではないのです。理想は、前年度までに校内研修等にて全職員で見直しをしておくことがよいのですが、4月からでも遅くはありません。4月の職員連絡会や研修等で全職員とスタートカリキュラムについて共通理解しておきましょう。
週案とは違うのですか?
先生方は手帳や教務必携、タブレット端末等を利用して週案を作成していますよね。
1年生の先生も当然週案は作成します。その基となるものがスタートカリキュラムです。
スタートカリキュラムは、幼児期の教育と小学校の教育の発達の特性を踏まえた学校段階の円滑な接続を具体化したカリキュラムです。
例えば、こんな弾力的な時間の設定が考えられます。
●朝の会から1時間目の時間の長い時間を使って、ゆったりとした時間の中で活動する。
●15分間ごとの短いスパンで、活動内容や教科をかえる。
●四時間目から給食の準備を始め、一人一人の実態に合わせて食べる時間を確保する。
また、スタートカリキュラムの共通理解を通して職員の協力を得ることができます。
初めての全校集会では、並ぶことに時間がかかってしまうことが予想されます。また、静かに座って聞くことが難しい子どもがいます。
では、全校集会のある○日は、内容を少なくして、短時間で終わるようにしましょう。校長の話も短めにしますね。
6年生に掃除の手伝いに来てもらうことで、学校全体の掃除が手薄になる所があります。
では、他学年で6年生の掃除が行き届いていない所があったら協力していきましょう。
○月○日の2、3時間目に学校たんけんをします。
1年生には、いつ、どこで、どんな声かけをすればよいですか?
上級生にも学校たんけんがあることを事前に伝えておきましょう。
1年生の活動を見守り、協力していくためには、全職員で内容や方針を共通理解しておくことが重要です。それがスタートカリキュラムを全職員で共有する意味です。
自分の手帳の中だけで完結するものではないため、普段の週案と同じではないのです。
どうしてスタートカリキュラムができたの?
学習指導要領では、各教科において教育目標や内容が、資質・能力の三つの柱を踏まえて整理されています。同時に改訂された幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、保育所保育指針においても、「知識及び技能の基礎」、「思考力、判断力、表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」の三つの柱からなる資質・能力を育むように示されています。つまり、幼児教育から高等学校教育まで、資質・能力の三つの柱に沿って内容の見直しが図られ、幼児教育から高等学校までを縦のつながりで見通すことができるようになりました。
とくに、小学校では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえ、幼児期の教育を通して育まれた資質・能力を更に伸ばしていくよう教育活動を展開し、児童が自己を発揮しながら主体的に学びに向かうことを重要視しています。つまり、すでに幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の素地はできているのです。
しかしながら、この幼小の円滑な接続を実現することは簡単ではないのです。
遊びを中心として、頭も心も体も動かしながら直接的な体験を通して無自覚に学ぶ幼児期の教育と、学ぶということを意識しながら集中する時間とそうでない時間の区別を付け、課題に取り組む児童期の教育とでは、「違い」があるからです。
子どもたちは幼児期と児童期ではっきり分かれるものではありません。ましてや入学したての子どもたちです。発達が児童期と合致していない子が多くいるかもしれません。
この課題に応える具体的なツール(手立て)として期待されるのが「スタートカリキュラム」というわけです。