小学校だいすき!な一年生を育てよう。これで大丈夫! 入学式 安心ガイド
校門に立てかけられた看板の前で大きなランドセルを背負ってにっこりピース。日本の風物詩の一枚です。どこの家にも入学式の写真はあります。この記事を読んでいるあなた自身も入学式の写真を見て懐かしんだことがあるでしょう。
入学式は「特別な日」です。子どもも保護者も新しい学校生活の始まりに胸膨らませてやってきます。この日のために、洋服を調達したり、髪の毛を整えたり、ランドセルを背負う練習をしたり、お祝いをしたりと、家族総出で準備をします。
ドキドキワクワクの子どもたちや保護者を迎え入れる入学式。先生方はどんな準備をしておけばよいのでしょうか。

【連載/小学校だいすき!な一年生を育てる #02】
執筆/大分県公立小学校教諭・小野晃寛
目次
迷わず先輩に頼ろう!
「4月から1年生を受け持ってもらいます」
校長先生から命じられたら、迷わずやってほしいことがあります。それは「先輩に頼る」ことです。1年生の担任を多く経験している先生はだいたいどこの学校にもいます。そんな先輩の力を惜しみなく借りましょう。
私も1年生を持つときには必ずベテランの先生に相談しました。
さらに、そのついでに先輩に良い教育書を紹介してもらいましょう。
先輩から借りて読んでもよいし、インターネットで購読してもよいです。とにかく頭の中に「1年生の発達」をインプットし、イメージさせていくのです。特に1年生の始めは、とてもデリケートな時期であり、その後の学校生活に大きく影響します。1年生の始めの行き渋りがこじれると、取り戻すのに相当なエネルギーが必要になります。
書籍を通して、1年生の子どもの発達を理解し、4月、5月の学級経営くらいはイメージしておくとよいでしょう。今この記事を読んでいるあなたは大丈夫!読み進めながら、子どもの姿を少しずつイメージしていきましょう。
入学式に向けて学校全体で取り組もう
入学式は子どもにとっても親にとっても忘れられない、6年間の小学校生活の起点です。6年後の卒業式の日には、保護者は入学式の日の姿を思い浮かべながら涙します。入学式で保護者の信頼が崩れることがあれば、学校全体の信頼を失うことになりかねませんし、1年生の担任は、それだけ重い責任を背負っているということでもあります。だからこそ、校内のさまざまな人たちの力を借りて、1年生を迎えるための大作戦を実行しましょう。
①6年生と環境美化作戦
校内美化はとても大切です。きれいな学校環境は、1年生の子どもたちが整理整頓の概念を培う上で重要ですし、保護者からの信頼感にも繋がります。
では、担任が時間をかけて掃除をすればよいのか? そんな時間はありません。
こんなときこそ、6年生の力を借りましょう! 小学校の最高学年となった彼らの、後輩を思うエネルギーは計り知れません。
1年担任は、「1年生のためにありがとう」の気持ちで、6年生や先生方にお礼を伝えましょう。最後にまとめてではなく、すれ違う1人1人に伝わるよう短い言葉で感謝を伝えるのです。すると「新1年生のために役に立った」という達成感が得られ、進級した子どもたちのやる気がさらにパワーアップします。高学年の子どもたちにとって幸先のよいスタートとなり、win-winの効果をもたらすのです。
②6年生と配布物セット作戦
入学式当日は、新一年生にたくさんの配布物を持ち帰ってもらいます。教科書やお知らせのプリント、各種提出書類、お祝いのグッズ(定規やランドセルカバー、防犯ブザーや下敷きなど地域によって様々です)が配布されます。持ち帰りやすいように封筒にセットするのですが、これが意外に時間がかかる上、中身の確認もしなければならず、かなり手間です。
こんなときにも、6年生は大変な戦力になります。前日教室の飾り付けに来てくれた6年生のみんなに1年生の机に着いてもらいます。そして、それぞれに1つずつ配布物を渡していき、順番にセットしていけば、もれなく全セットが完成です。
③先生方とお名前チェック作戦
子どもたちの「名前」には、親の願いが込められています。仮に名前を間違えていた…となると、我が子のことを軽視しているのでは? と思われてしまいます。なにより間違えられた当の本人がガッカリしますよ。入学者名簿から学級名簿への転記は教務や教頭がしてくれる所が多いと思いますが、できた名簿や名前シールを入学者名簿の原本を基にして複数人でチェックをしましょう。二重・三重の網を重ねて、間違いがないようにしましょう。
落とし穴は「漢字」の表記です。ひらがなで書かれたロッカーや机の表記を中心に確認すると思いますが、保護者向けの書類や受付名簿などの漢字表記も必ず確認してもらいましょう。ダメ押しに、最終チェックを1年の学年部で行うようにしましょう。
④幼稚園・保育園に寄せる作戦
幼児教育施設には、教科書がなければ、チャイムもありません。学校のきまりとなる校則もありません。保育者は子どもたちの発達や性格・志向にあわせ、個別に対応して、子どもからの信頼と安心感を得ています。
一方、小学校は、指導する学習内容が小学校学習指導要領により定まっており、小学校生活を通して資質・能力を身に付けさせる使命があります。そのためにも学級規律や校則は必要なものです。
およそ一ヶ月前まで幼児教育施設にいた子どもたちが、いきなり小学校のルールに合わせることは難しいと言えます。ここはまず、保育者と同じような姿勢で子どもたちに接し、子どもたちからの「信頼」を得るようにしましょう。子どもたち個々人に対する承認と個性の尊重はどの学年でも大事ですが、特に1年生は発達段階を踏まえると重要なことです。
1に「笑顔」。2に「温かい言葉」です。
ハイタッチや握手など「温もりが伝わるボディタッチ」もあるとよいでしょう。
子どもの心を掴む3大技、教えちゃいます!
私は21年間の教員生活で、5回、1年生を受け持ちました。だから5回入学式を経験しています。「いつか慣れるのかな」と思っていましたが、甘い考えでした。いつの時も緊張するものです。入学式のあの雰囲気には慣れませんでした。
だからこそ、「これは絶対にうける!」という鉄板ネタを持っておくと、意外と楽しみになってきます。発想の転換です。今回は私の鉄板ネタベスト3を大公開します。やって損はありませんよ!
①机の中の贈り物
入学式が始まるまで、子どもたちは教室で、初めてもらう自分の机に座ります。
ここで勉強するんだな…。それにしても何もないな…。おもちゃがない…。絵本がない…。遊び道具がない…。
子どもたちは緊張の中、じっと時が過ぎるのを待ちます。ところが、しばらくすると、早めに来てお利口に座っていた子どもの限界がやってきます。もじもじ、ざわざわ…。
「静かに待てるかな? お利口だね」魔法の言葉も3度使うと効かなくなってきます。一人が先陣を切っておしゃべりを始めると、面白いように次々と口を開き始めます。子どもの「遊びスイッチ」が入る瞬間です。
幼児教育施設では、スイッチが入った子どもたちが主体的に遊びに繰り出せるよう、環境を構成しておきます。これと同じようなしかけを用意してみましょう。
「みなさんにプレゼントです。机の中にそっと手を入れてみてください」
「あっ、折り紙だ」「折っていいの?」
折り紙に触れて来なかった子どもはまずいません。思い思いに折り始めます。紙飛行機が飛ぶ場面も見られます。
「紙飛行機を追いかけてぶつかって入学式に出られないと困るよね。今日は座ってできる折り紙遊びにしましょう」
このように「子どもが動き出した時」にこそ、明日からのヒントがたくさんあるのです。
手先が器用な子。おしゃべりしながら折る子。周りの子に教えてあげる子。興味がなくぼーっとしている子。紙飛行機を飛ばし続ける子。
どの子の態度がよくて、どの子の態度が悪いのか、といった見方は一旦忘れてください。
「どんな子がいるのかな」「どんなことが得意なのかな」「人と関わるのが好きなんだな」等、その子一人一人の様子を見て特性を見付けましょう。
「明日の授業でどの子のよさを引きだそうかな」なんて考えられると、一人一人が輝いて見えますよ。
②金の巻きもの、銀の巻きもの
「みなさんに見せたいものがあります。金の巻きものと銀の巻きものです。どちらが好きですか?」
2つの巻きものを準備しておきます。黒板に丸めた状態で貼り付けておいてもよいでしょう。
子どもたちは
「巻きものの中には何が書いてあるのかな?」
と期待に胸をときめかせます。
「金がいいと言っている人が多いので、金をあけてみましょう!それっ」
紐を引くと金の巻きものがぱらっと垂れ下がります。
「ようこそ ○○しょうがっこうへ」の文字。
「みなさんは今日から晴れて○○小学校の一年生です。おめでとう!拍手~!」
と、子どもたちへのメッセージを届けましょう。
「銀の巻きものは何て書いているの?」
と、子どもたちの興味はやがて移っていきますので、
「ご希望に応えて、銀の巻きものも見てみましょう!」
銀の巻きものには担任の名前を書いておきます。
子どもたちは担任の名前を読み始めます。
「お、の、あ、き、の、り」
「よく読めましたね!私の名前はおの あきのりです。憧れの人は大谷翔平です。よろしくお願いします!」
2つの巻きものでメッセージを伝える「きっかけ」を作り、「インパクト」を与えます。使った巻きものはしばらく教室に掲示しておくとよいでしょう。
③親愛なるマスコットキャラクター
「みんなのお友だちを紹介します。新入生のぶーたんです。よろしくね」
下から手を入れて、口をパクパクさせられるパペットを、教卓の下に用意しておきます。
パペットが登場すると、子どもの間から歓声が上がります。教室の雰囲気も一気に明るくなります。
「ぼくぶーたん。みんなと同じで1年2組に入学してきました。得意なことは食べること。憧れのぶたはぶりぶりざえもんです」
担任の口の前でぶーたんの口をパクパクさせながら喋ります。口元がぬいぐるみで隠れるので腹話術のような技術はいりません。また、入学式の日は時間もないので、紹介だけで終わることになりますが、それでいいのです。
次の日も、ぶーたんと一緒に子どもたちをお迎えしましょう。
ぶーたんも入学生です。席を作ってあげましょう。私は教師用の机の上にお菓子の空き箱を置き、そこをぶーたんの席にしていました。席が決まれば休み時間に触った後も子どもたちがお片付けしてくれます。ぶーたんの席の周りは似顔絵でいっぱいになります。
ぶーたんが算数の問題に出てくると大騒ぎ。トラブルが起きたときは、ぶーたんと担任のやりとりで再現し、問題に気付かせる…等々、ぶーたんの活用方法は限りなしです。
活発な子はもちろんのこと、人見知りの子と教師の間もぶーたんが取り持ってくれます。
「ぶーたんは焼き芋が好きらしいよ。○○ちゃんは何が好き?」
ぶーたんを触りながら会話をします。 暖かな春の日差しとぶーたんの笑顔が、入学したての子どもの心をほぐしてくれていました。

イラスト/坂齊諒一
小野晃寛【プロフィール】
大分県の公立小学校教諭、大分大学教育学部附属小学校教諭を経て、大分県教育委員会の指導主事となる。公立小学校時代は、九州算数・数学教育研究大会にて、提案授業者や研究発表者として算数の授業研究を進める。また、全国生活指導研究協議会にて、2度の全国大会実践レポート発表を行う等、学級経営についても実践を積み重ねてきた。大分大学教育学部附属小学校では、算数教育の研究を重ね、公立小学校の先生方に授業公開を行ってきた。現在は大分県教育委員会にて幼児教育の理解・発展や幼小の円滑な接続に向けて、「しんけん遊ぶ子」の実現を目指し、指導・助言を行っている。
著書は、「はじめての学級づくりシリーズ」として、「班をつくろう」「リーダーを育てよう」「話し合いをしよう」を執筆する(共著)。また、生活指導誌にて、実践記録やトピックなどを投稿している。
信念は「遊びは学び、学びは遊び」。子どもたちが遊びに夢中になることで育まれる力の可能性を、幼児教育施設を訪問する度に感じている。