みん教の動画を使った鳥取県教育センターの初任者研修~笑いと交流が生まれる工夫とは~

「堅苦しい」初任者研修が、お笑い動画で変わる! 鳥取県教育センターが、同県の初任者研修で「みんなの教育技術」が制作したお笑いコンビ「オシエルズ」出演の研修動画を活用。視聴後の話合いを通じて、初任者同士の本音の対話が生まれました。新しい研修スタイルの成果と可能性に迫ります。

みん教×鳥取県教育センターのコラボプロジェクト

これまで「みんなの教育技術」では、おもに新任の先生に向けて現場のNG事例を楽しく学べるショート動画「お笑い初任者研修」シリーズを制作し、YouTubeで配信してきました。こうした動画コンテンツを実際の初任者研修にも使えないかと考えた編集部が、鳥取県教育センターに提案したところ、動画を見た担当の指導主事の先生から「やってみましょう」と快く引き受けていただくことができました。

ただし、初任者研修というのは法律に定められた公的な研修です。すでに制作した「お笑い初任者研修」の既存動画ではテーマ的にそぐわないかもしれません。そこで、あらためて鳥取県教育センターから研修内容に基づくコンテンツ案をいくつも提案いただき、その中から編集部がセレクトした案を元に、“日本一学校を回るお笑いコンビ”「オシエルズ」の矢島ノブ雄さんがコント台本を作成。これを鳥取県の先生方にお見せして意見を頂戴し、修正する、という形で話合いを重ね、各動画の内容を決定しました。

その後は決定台本をもとにオシエルズさんのコントを編集部で撮影し、東京都の公立小学校教諭・佐々木陽子先生の解説動画と合わせて編集・仕上げました。

その最新動画シリーズがこちらです!

分からないことを分からないと言おう

上手に切り替えを

子どもが学んでいますか

子どものやる気を引き出すには?

組織人として助け合おう

公私の区別を

YouTubeにはコント+解説が合わさった動画を流していますが、実際の研修用には「解説部分を見せない」という手法も採れるように、コント部分と解説を分けて動画を提供しました。

初任者研修での活用の様子

さて、それでは実際の鳥取県での初任者研修では、どのように動画が使われたのでしょうか。2024年10月に倉吉市内で行われた研修を取材させていただきました。

鳥取県教育センターでは初任者研修を、講師による講義と参加者による話合いとを効果的に織り交ぜて実施しています。今回制作した研修動画コンテンツは、主に参加者同士の話合いのきっかけとして使っていました。

講義型研修の様子

取材にお伺いした日の研修で視聴されていたのは子どものやる気を引き出すには?の動画です。初任者の先生方は30名ほど参加されていました。

視聴後には、シールの使用経験やその功罪などについて、活発な話合いが行われていました。参加された初任者の皆さんは、もともと知り合いではなかったものの、この研修を通じてきたんなく話し合える間柄になったとのこと。他には次のような意見を聞くことができました。

  • 初任者研修に対して、当初は大学の講義のようなイメージを持っていたが、対話の機会が数多く設けられていて、よりよく学べたと思う。
  • 普段は別々の自治体に勤務している人たちと交流できて、いろんな考えに触れられるのでとても参考になる。
  • 勤務校で初任者は私一人なので、同じ立場で話せることは貴重
話合い活動の様子

では今回の研修動画を、初任者の先生方はどのように受け止めたのでしょうか。「作り手側に忖度なく感想を教えてください!」とお願いしてインタビューにこたえてもらいました。おおむね好評だったようです。

  • ちょうどよい面白さの動画だったので、仲間との話合いが盛り上がった。
  • 「確かにこういうところはあるよな」と思って参考になった。堅苦しくない、ちょうどいい内容。
  • 面白いか面白くないかで言えば、面白くない(笑)。効果音が良くないからではないか。ただ、研修用の動画にそこまでの面白さは必要ないとも思う。

鳥取県教育センターのお話

研修終了後に、今回の初任者研修に関わられた鳥取県教育センターの方々にお話を伺いました。

お話を伺った方々(左から)
吹野和彦氏(鳥取県教育センター教育DX推進課長)
横山順一氏(鳥取県教育センター所長)
川上典孝氏(鳥取県教育センター教育企画研修課長)

鳥取県では、教職員の心身の健康を守るとともに、子供たちへの教育活動を充実させるため、「学校業務カイゼンプラン」という働き方改革を進めています。時間外勤務をどれくらい減らしたか、という点を中心に報告書も公開しています。

今回のように、初任者研修を対話的なものに変更してきたのも、そうした取組の延長線上にあります。全てオンラインでやらざるを得なかったコロナの時期が終わって、研修を再び対面でやることになったとき、単純に元に戻すのではなく、対面で行う意味を考えました。その重要な意味の一つに「本音の話合いができる」というのがあると思います。

その意味で、今回提案してもらった動画は、うまく機能していたと思います。従来の研修で行われていたガチガチの話と違い、若い先生から本音の意見が出されていたように感じました。これがもし、講師による堅い話だったとしたら、建前の議論が交わされていたのではないでしょうか。

今回の動画を見たとき、正直ここまでくだけた表現でよいのか、少し不安がありました。しかし、初任者の先生方の反応を見ていると、こういう方向が求められているのでは、と思っています。クスッと笑える程度の面白さなので、声には出さないものの、心のなかでは笑っている初任者がいたのではないでしょうか。

初任者研修では、初任者の横のつながりをつくるという部分も重視しています。ですから、研修だけでなく、研修が終わった後の時間を「初任者タイム」と名付け、講師に質問したり相談したりできる場を設けています。今回の動画は「初任者タイム」を活性化するのにも役立っているかもしれません。

鳥取県では、校内で初任者と先輩教員でチームを構成する「メンター制度」を初任者研修に取り入れています。月1回定期的に研修を行ったり、日頃から先生方からの質問に答えたり相談にのったりしながら、先生方をサポートしています。

それから、初任者研修を実施する場所に配慮しました。従来は鳥取県教育センターのある鳥取市で行っていました。しかしそれだと、県西部の境港市からだと約100kmもあり、移動だけでもかなりの負担になってしまいます。そこで、県のほぼ中央に位置する倉吉市にある県の庁舎で実施することにしました。これはおおむね好評のようです。

法定研修にも新しい風を!

とにかくアットホームな雰囲気の研修であると感じました。研修講師の先生は、教えるというよりも語りかけるように講義をしていましたし、休憩時間には講師に相談する姿も見られました。

これは、鳥取県全体として「先生方を支える」という方針を打ち出しているからでしょう。それを端的に表しているのが、研修場所の変更です。「研修は教育センターで行うのが当然」「従来はそのやり方で問題なかった」という硬直的な考え方では、とても出てこない発想だと感じました。

そもそも、法定研修である初任者研修に、民間の出版社が企画したコンテンツを利用するというのも、他の自治体では難しいのが現状ではないでしょうか。鳥取県の先生方は、民間コンテンツの利用に賛同してくださっただけでなく、開発にも協力してくれました。これは、なかなかできることではありません。

しかし、今はこうしたやり方が成果を上げる時代になりつつあるのではないでしょうか。実際、今回の動画コンテンツはある程度評価いただけたと感じます。「みんなの教育技術」編集部としても、今回の鳥取県のような意欲的な自治体といっしょに、研修効果を高められるコンテンツの開発に取り組んで行きたいと感じました。

取材・執筆/村岡 明、山本春秋(編集部)

「みんなの教育技術」編集部では、教員研修に役立つコンテンツの提案・制作・提供に取組ませていただきます。ご関心ある研修担当の方は、お問い合わせフォームよりぜひ連絡ください。(>>フォームへ)

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