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可憐なモンシロチョウは、見た目に似合わず大の辛党だった?【モンタ先生の自然はともだち】

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春になると、野山に鳥がさえずり、色とりどりの花が咲き、枯れ葉色の世界から一気に華やかな色合いへ衣替えをします。暖かな陽気に誘われた虫たちの姿も見え始めますが、中でも特によく目にするのは、モンシロチョウなどの白いチョウチョではないしょうか。この白いチョウの仲間、実は結構色々いるのですが、一般的には知られていなくて、ちょっとかわいそう。そこで、今回は、モンシロチョウの世界を詳しく見ていきましょう。

【連載】モンタ先生の自然はともだち #03

執筆/森田弘文

1.春の景色になくてはならない可憐な脇役

野原一面に広がる黄色いナノハナ。その向こうには今を盛りと咲き誇る淡いピンクのサクラ。そして真っ青な空。明るい陽光。美しい春の野山の景色ですね。しかし、それだけでは画竜点睛を欠くと言えます。ひらひらと飛び回るチョウチョの姿が足されることによって、まるで時間の流れさえゆっくりになるような、牧歌的で平和な日本人の心象風景として完成するのではないでしょうか。この景色の素晴らしさは、ずっと失いたくないものですね。

可愛い姿なのに実は辛党??

「チョウチョ」と聞くと、多くの方が童謡の「ちょうちょう」を連想されるのではないかと思います。
モンシロチョウなどのシロチョウ科は、この歌のとおりナノハナが大好き。
私たちも春のメニューとして、ナノハナをおひたしなどにして食べますよね。それでナノハナには独特の辛味があることを、皆さんもご存知だと思います。
実はこの辛味成分は、ダイコンやコマツナなど、アブラナ科の植物が共通して持っている「忌避物質」です。他の生き物に食べられないようにと、進化の過程で獲得してきた防御手段だったわけですね。
これは多くの生き物にとって効果的で、アブラナ科の植物は生き物たちの間では不人気なのですが、中には人間と同じように辛党の生き物もいます。アブラムシやナメクジなどがそうですが、シロチョウたちはアブラナ科の植物オンリー。それしか食べないんですよ。
この偏食には理由があります。シロチョウは、辛味成分をたよりにして、必ずアブラナ科の植物に卵を生みます。生まれた幼虫は、アブラナ科の植物だけを食べて成長し、体内に辛味成分を蓄えていきます。
この辛味成分は、他の虫や動物にとっては毒なため、他の虫や鳥などがシロチョウの幼虫を食べると「まずい!」と感じてしまいます。
辛いものを食べて自分が辛くなることで、餌食にならないよう生存戦略を行っているわけですね。

2.モンシロチョウの「モン」って?

白いチョウなので、「モンシロチョウ」と言いますが、モンとは紋のことです。あの羽についている、黒いマークのことですね。では、「モンクロチョウ」とか、「モンクロシロチョウ」と呼ぶのが正しいのでは? そう思われた皆さん、さすがです。
実は、モンシロチョウは昔、モンクロシロチョウ(紋の黒い白い蝶)と言われていました。
しかし、一つの種の名前に白も黒もあったのでは分かりにくいので、「モンシロチョウ」になったそうです。
同じように、モンキチョウという蝶がいますが、これも、始めはモンクロキチョウ(紋の黒い黄色い蝶)でしたが、やはり「クロ」が省略されました。
ちなみに、キチョウという蝶もいますが、これは紋がないので、黄色い蝶で、キチョウそのままでよいのです。
さて、チョウの羽にある、あの綺麗な模様や色は、どんなふうに発生しているのかご存知ですか?
蝶の羽はうっすらと「鱗粉(りんぷん)」という粉で覆われています。この粉によって、色や模様が描かれているわけです。鱗粉は、幼虫がサナギとなり、マユの中にこもったときに出すうんちやおしっこを材料にしているそうです。
おしっこが黄色いのは「尿酸」という成分によります。黄色っぽい色をしたチョウが多いのは、その尿酸によると考えられているんですよ。

キタナイ? いえいえ、とってもキレイなんです!

ええっ、鱗粉って、ちょっとキタナイの??
そんなふうに思わないでください! モンシロチョウの鱗粉は2つの意味でとってもキレイなんです。
1つめは、冷たい空気を遮断する保温効果や、汚れや水などを弾く防水防汚効果があることです。ハイテクなウェアみたいで、いかにもクリーンですよね。さらに、鱗粉は羽から簡単に取れるため、蜘蛛の巣などにくっつきにくくする効果もあります。
2つめは、見た目のキレイさです。モンシロチョウには、人間には見えない紫外線を見る力があります。そして、オスの鱗粉は紫外線を吸収しますが、メスの鱗粉は紫外線を反射するのです。このため、チョウの目から見ると、オスのモンシロチョウは暗い感じに、いかにもむさく(笑)映ります。メスのモンシロチョウはキラッキラに輝く美しい姿に見えて、はっきりとオスメスの差が分かるわけです。
チョウは、鱗粉で羽の見た目を工夫する品種と言っても過言ではありません。中には、大きな生き物の目のような模様を作ることで、防御用のカモフラージュになっていたりもします。
なお、鱗粉が完全に羽から取れてしまっても、チョウの飛ぶ力は変わりません。
見た目が、トンボやハチのような、透明な羽になりますよ。

皆さんもチョウチョを探しに出かけてみませんか?

春の白い蝶というと、まずモンシロチョウが思い出されますが、それ以外にもいろいろな白い蝶がいます。紋ではなく、すじが黒いスジグロシロチョウや、ツマキチョウのメス、モンキチョウのメスも、羽が白い蝶で混乱してしまうことがよくあります。そこで、以下のような「春の白い蝶の検索表」を作成しました。活用してくれたら嬉しいです。

【白いチョウの検索表】

コラム
ツマキチョウ、ツマベニチョウ、ツマグロヒョウモンの、ツマとは…
つまとは、漢字で端であり物のはしの部分、へりを意味します。昆虫の名前にツマの付く種類が多くあります。特に、チョウには、ツマキチョウの他に、「ツマベニチョウ」という種がいます。南方系の蝶で、九州の南から南西諸島に多く見られる種です。白地に前羽の先端部分だけが赤く、とてもきれいな蝶です。沖縄で初めて採集できた時には、その美しい姿にとても感動したことを覚えています。
また、「ツマグロヒョウモン」という種もいます。ヒョウのような紋があり、雌の前羽の先端が黒くなり蝶です。この蝶は、地球温暖化の影響で、年々北上をしている種で注目されています。1980年代には東海地方以西にしか見られませんでしたが、最近では関東や北関東はもちろん、一部東北地方でも見られるようになりました。ナガサキアゲハ、クロコノマチョウという種も、温暖化の影響で年々北上をしている蝶であることが報告されています。

写真・イラスト/モンタ先生・写真AC


森田弘文

森田弘文(もりたひろふみ)
ナチュラリスト。元東京都公立小学校校長。公立小学校での教職歴は38年。東京都教育研究員・教員研究生を経て、兵庫教育大学大学院自然系理科専攻で修士学位取得。教員時代の約20数年間に執筆した「モンタ博士の自然だよりシリーズ」の総数は約2000編以上に至る。2024年3月まで日本女子大学非常勤講師。その他、東京都小学校理科教育研究会夏季研修会(植物)、八王子市生涯学習センター主催「市民自由講座」、よみうりカルチャーセンター「親子でわくわく理科実験・観察(植物編・昆虫編)」、日野市社会教育センター「モンタ博士のわくわくドキドキ しぜん探検LABO」、あきる野市公民館主催「親子自然観察会」、区市理科教育研修会、理科・総合学習の校内研究会等の講師を担当。著書として、新八王子市史自然編(植物調査執筆等担当)、理科教育関係の指導書数冊。趣味は山登り・里山歩き・街歩き、植物の種子採集(現在約500種)、貝殻採集、星空観察、植物学名ラテン語学習、読書、マラソン、ズンバ、家庭菜園等。公式ホームページはこちら。

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