「ユースクリニック」とは?【知っておきたい教育用語】
「ユースクリニック」とは、家族や学校には相談しづらい体や性の悩みに対して、安心して打ち明けられる場所のことです。今回はユースクリニックの役割をはじめとし、現代の子どもを取り巻く性の問題や性教育について解説していきます。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム
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目次
ユースクリニックとは
【ユースクリニック】
1970年代のスウェーデンで若者の性感染症の拡大をきっかけに民間の活動として誕生。その後、行政が制度として導入し、子ども・若者(13~20代前半)を対象に保護者や先生、友人などの周囲の人には相談しづらい体や性に関する不安や悩みごとを相談できる場として機能している。日本でも2019年ごろから開始され、都内を中心に取組が実施されている。
ユースクリニックは、別名「街の保健室」や「ユース相談室」とも呼ばれています。日本国内では、少なくともおよそ60か所あるといわれており、多くの子ども・若者に利用されています。
ユースクリニックを訪れる子どもや若者の相談内容としては、生理による体調不良のほか、正しい避妊の仕方、パートナーとの性交渉における悩みや困りごとなど、体や性にまつわるさまざまな相談が寄せられます。さらに、パートナーからのDV被害者や予期せぬ妊娠に悩む女性などをケア、サポートする場所としての役割も担っています。
ユースクリニックの利用にあたっては、保険証は不要で、費用は無料もしくは一律500円と低額に設定されています。また、コンドームや緊急避妊薬、低用量ピルといった避妊用具を実際に手にとって見ることができるクリニックもあります。
子どもを取り巻く性に関わる問題
2024年7月、日本では「性交同意年齢」が13歳未満から16歳未満に引き上げられました。
性交同意年齢
性行為への同意を自分で判断できるとみなす年齢。刑法改正前は、性被害による被害者が13歳以上であった場合、性行為に同意していないこと、暴行または脅迫による性交などがあったことを立証しなければ罪に問うことができなかった。しかし、近年の性犯罪の増加によって見直され、被害者が16歳未満である場合、相手の同意の有無にかかわらず、処罰の対象となる。
そのほか、人の性的な部位や下着を同意なく撮影したり他者に提供したりした場合、「撮影罪」や「提供罪」が成立します(16歳未満の場合は同意の有無にかかわらず成立)。16歳未満の子どもに対して、性的な目的のために会うことを要求した場合は、「面会要求等罪」が成立します。
13歳未満から16歳未満に引き上げられたといえ、SNSの発達によってさまざまな世界や人に手軽かつ気軽にアクセスできるようになった現代において、若年層が性犯罪に巻き込まれるリスクは高まっており、悪質な手口も増えています。そうした状況のなかで、文部科学省では子どもたちが性犯罪および性暴力の被害に遭わないよう、「生命(いのち)の安全教育」を推進しています。
生命の安全教育をはじめ、子どもたちが正しく自分の体と性について向き合えるよう、適切な性教育の在り方が求められています。
日本における性教育の現状とユースクリニックの可能性
ユネスコが発表した「包括的性教育」では、主に「子ども・若者が自身の健康やウェルビーイング、尊厳を実現すること」や「個々が尊重された社会的、性的な関係を育てていくこと」などを示しており、体の発達や性に関する知識だけでなく、人間関係やジェンダーなど、より広く性を捉えることを目的としています。
こうした性教育をめぐる世界全体の動きのなかで、日本の教育現場における性教育は、どのように捉えられているのでしょうか。東京都教育委員会の「性教育の手引」によれば、「学校における性教育の基本的な考え方」として、性教育の意義を次のように示しています。
学校における性教育は、児童・生徒の人格の完成を目指す人間教育の一環であり、豊かな人間形成を目的に、生命の尊重、人格の尊重、人権の尊重などの根底を貫く精神である人間尊重の精神に基づいて行われる教育です。
東京都教育委員会(PDF)「性教育の手引」平成31年3月
このため、性教育は、人間の性を人格の基本的な部分として、生物的側面、心理的側面、社会的側面に加え、生命尊重から捉えるとともに、総合的に指導することが大切です。
学校は、全ての児童・生徒に対して、人間尊重や男女平等の精神の徹底を図り、性に関する基礎的・基本的な内容を、児童・生徒の発達の段階に即して正しく理解できるようにするとともに、同性や異性との人間関係や今後の生活において直面する性に関する諸課題に対して、適切な意思決定や行動選択ができるよう、組織的・計画的に指導する必要があります。
上記のように、日本の学校における性教育も、その根底に子ども自身の性を軸として人格形成を図ることが目的とされています。
「総合的に指導」するためには、保健体育科だけによらず、道徳や家庭科、総合的な学習の時間など、教科横断的な指導が必要とされます。そのため、学校全体で取り組んでいくことが大切であり、教員の研修も不可欠でしょう。
しかし、学校だけで性教育のすべてを担うことは人員・時間の確保、教員の指導スキルなど、さまざまな面から難しいのが現状です。そうしたとき、ユースクリニックのような学校外部で性について学ぶ機会が提供される場所はとても貴重です。今後は、学校がユースクリニックと連携し、子ども・若者の実態に応じた性教育の環境を整備していくことが期待されます。
▼参考資料
NHK(ウェブサイト)「性や体で悩む若者たち 広がる「ユースクリニック」2024年10月29日
日経BP(ウェブサイト)「薬局内に開設した”街の保健室”、思春期の体や性の悩みに寄り添う」2021年4月26日
NHK(ウェブサイト)「性交同意年齢とは? なぜ13歳? 世界では…〈用語解説〉」2021年10月1日
朝日新聞(ウェブサイト)「包括的性教育とは? 必要な理由や構造、学習内容のポイントを解説」2024年5月18日
文部科学省(ウェブサイト)「生命の安全教育」2017年7月5日
文部科学省(PDF)「性教育の手引」平成31年3月