「生命の安全教育」とは?【知っておきたい教育用語】

連載
【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
関連タグ

生命(いのち)の安全教育とは、「生命の尊さを学び、性暴力の根底にある誤った認識や行動、また、性暴力が及ぼす影響などを正しく理解した上で、生命を大切にする考えや、自分や相手、一人一人を尊重する態度等を発達段階に応じて身に付けることを目指すもの」です。その推進の背景や、手引きの内容について見ていきましょう。

執筆/文京学院大学名誉教授・小泉博明

「生命の安全教育」推進の背景

2020(令和2)年6月、政府は「性犯罪・性暴力対策強化のための関係府省会議」において、「性犯罪・性暴力対策強化の方針」を決定しました。

性犯罪・性暴力は、被害者の尊厳を著しく踏みにじる重大な人権侵害であり、被害者の心身に長期にわたり重大な影響を及ぼします。性犯罪・性暴力の根絶に向けて、誰もが性犯罪・性暴力の加害者にも、被害者にも、傍観者にもならないように、2020(令和2)年から2022(令和4)年までの3年間を性犯罪・性暴力対策の集中強化期間としました。

この方針を踏まえ、全国の学校において、子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないように、「生命の安全教育」を推進することになりました。

生命の安全教育の概要

「生命の安全教育」では、発達の段階に応じた、「生命()を大切にする」「加害者にならない」「被害者にならない」「傍観者にならない」ための教育を実施します。対象は幼児(就学前の教育・保育)、小学校、中学校、高校、大学等です。特別支援教育では、障害のある児童生徒などの個々の障害の状態や特性及び発達の状態などを踏まえた指導を行います。

そして、各学校の状況を踏まえ、学校教育活動全体で性暴力被害防止に取り組む際の指針となるのが、教材・指導の手引きです。

生命の安全教育の教材・指導の手引きの内容

生命の安全教育のための教材・指導の手引きは、文部科学省と内閣府が連携し、有識者の意見も踏まえて作成されました。

指導の手引きには、次のことが示されています。

各段階に応じたねらいや展開、児童生徒から相談を受けた場合の対応のポイント、指導上の配慮事項、障害のある児童生徒への指導方法の工夫、保護者への対応等

文部科学省「性犯罪に遭わないための生命(いのち)の安全教育について

活用の方法については、次のように述べられています。

児童生徒の発達の段階や学校の状況を踏まえ、各学校の判断により、教育課程内外の様々な活動を通じて本教材を活用することが可能

文部科学省「性犯罪・性暴力対策の強化について

留意事項としては、次のことが挙げられています。

各教科等の授業の中で本教材を使用する場合は、各教科等の目標や内容等を踏まえた上で、適切に使用するよう留意することが必要である。

文部科学省「『生命(いのち)の安全教育』指導の手引き

また、生命の安全教育に関する保護者向け周知資料も作成されており、保護者や地域の人々の理解を得ながらの推進が求められています。

教材は、各校や地域の状況に応じで適宜内容の加除、改変も可能です。中学生・高校生向け教材には、登場人物がどのように行動すればよかったのかを考えるワークの事例も掲載されています。

各発達段階の教材例

教材例には次のようなワークシートがあります。

幼児~小学校高学年に向けては、「水着で隠れるところは自分だけの大切なところ」と、自分の身体を大切にすることを伝えます。さらに、小学生(高学年)向けには、SNSを使うときに気をつけることについても盛り込まれています。

中学生向けには、性暴力の例として「デートDV」を挙げており、次のように説明しています。

DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、結婚している相手など親密な間柄の相手からふるわれる暴力のことです。恋人同士の間に起こる暴力のことを「デートDV」と言います。

文部科学省「生命の安全教育教材(中学校)

その上で、「どんなことがデートDVになるの?」かについて、具体的に説明しています。

中・高校生向けには「性暴力が起きないようにするためには」とし、次のように説明しています。

性暴力の被害者と加害者を生まないためには、自分を大切にし、相手も大切にして、相手とよりよい人間関係をつくっていくことがとても大事です。

文部科学省「生命の安全教育教材(中学校)

その他「自分と相手を守る『距離感』について」、性暴力では「SNSを通じた被害、セクシャルハラスメントの例示」、「二次被害について」「性暴力に逢った場合の対応」などがあります。

学校で実効性のある性被害防止等を教える「生命の安全教育」が全国的に展開され、子ども・若者の性被害を防止し、すべての子ども・若者が安心して過ごすことのできる社会の実現が期待されます。

▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「性犯罪・性暴力対策の強化について
文部科学省(ウェブサイト)「生命の安全教育
文部科学省(PDF)「『生命(いのち)の安全教育』指導の手引き
文部科学省(PDF)「生命の安全教育教材(中学校)
文部科学省(PDF)「性犯罪に遭わないための生命(いのち)の安全教育について
内閣府(PDF)「『性犯罪・性暴力対策の強化』に関する内閣府特命担当大臣(男女共同参画)のメッセージ」(令和2年6月11日)

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました