「日本ギフテッド・2E学会」がついにキックオフ!歴史的な1日に密着しました<前編>
2024年12月1日、「日本ギフテッド・2E学会キックオフ大会(高知)」が、高知大学・朝倉キャンパス(高知県高知市)で開催されました。日本で「ギフテッド」をメインに据えた学術団体が発足するのは初めて‼ その様子を密着レポートします。
目次
「ギフテッド・2E学会」立ち上げまでの経緯
全ては、2023年10月、高知大学大学院での以下の対談から始まりました。
ギフテッドが安心して学べる場所を、どう保障するのか?ー対談「ギフテッド応援隊」代表✕是永かな子教授
日本のギフテッド保護者団体の中で最大規模の「ギフテッド応援隊」代表理事、冨吉恵子さんは言います。
安心してギフテッドのことを語り合える場を作りたい。
一方、北欧諸国の社会システム研究者である是永先生は、こんな想いを抱いていました。
北欧諸国ではギフテッド教育の整備が既に着々と進行中です。こうした北欧の動きを受けて、日本にもそろそろギフテッドの学会が必要なのでは?
この二人が核となり、2023年12月にギフテッド学会設立準備会 が発足しました。約1年をかけて有志によるミーティングを重ね、キックオフ大会の日を迎えることとなりました。
なぜ今「ギフテッド」・2E学会なのか
「なぜ今『ギフテッド』・2E学会なのか」と題して、大会長を務める是永先生の講演が始まります。
ギフテッド教育との出会い
是永 私自身がギフテッドの「特別な教育的ニーズ」について知ったのは、2010年のデンマーク・オーデンセ基礎自治体での調査でした。ギフテッドの支援をする「ギフテッドプログラム」について聞いて、初めて、「高IQゆえの困難さがある」ということを認識しました。
これらの支援は「保護者の想い」から立ち上がった活動であったことを、後にギフテッド応援隊の代表理事・冨吉さん、ギフテッド応援隊の泉さんの報告により知ることになります。
ギフテッドに気づいて、ともに
是永 現実問題として、学校不適応を起こしているギフテッドは多数います。けれども、まずは支援者がそのことに気づかなければ、支援にはつながりません。
是永先生が考える「学校の役割」
是永 今後の学校の役割として求められることは、「仲間との学びの保障」「居場所の保障」です。
- 仲間との学びの保障 個人の学びはインターネットや塾に代替されていく
- 居場所の保障 他者理解・他者受容/自己理解・自己受容
そして、ギフテッド支援における学校の役割もまた、「居場所の保障」と「仲間につなげる学びの保障」だと考えています。
- 居場所の保障 : 個に応じた課題・環境設定、他者理解・他者受容/自己理解・自己受容
- 仲間につなげる学びの保障 : 個に応じた課題・環境設定、他者理解・他者受容/自己理解・自己受容、個人の学びにいかに必然性を持たせ、興味関心、知的好奇心でつなげるか
ギフテッドの子どものために分離した特別な場を作ることは、日本では適切で現実的だとは思えません。分離的教育支援ではなく、インクルーシブな環境でギフテッドの教育が保障できないかを考え、中学校段階で教育実践を行っています。
ギフテッドの存在にまず「気づく」こと、そしてギフテッドのニーズにも対応できる学校を、当事者、保護者、関係者で「ともに」作っていくことが重要だと考えています。
「ギフテッド」という言葉を使う意味
是永 日本では「ギフテッド」の定義は明確ではないものの、その解釈に関する議論自体を行うという目的もあり、この学会では諸外国との交流の際の共通言語として、あえて「ギフテッド」の表現を使っていきたいと思っています。
「ギフテッド」をめぐって ~北海道大学研究グループの萌芽的取組~
特別講演は、「『ギフテッド』をめぐって ~北海道大学特殊教育・臨床心理学研究グループの萌芽的取組」と題し、室橋春光北海道大学名誉教授が行いました。
北海道大学グループの取組「北大土曜教室」
室橋先生は2000年代前半から、学びの困難のある子どもたちのために、北海道大学のゼミとして「土曜教室」を開講していました。当時から、土曜教室の学習援助対象の子どもの中に、ギフテッドだと思われる子が存在していることに気がついていたと言います。その子たちは、様々な物や事象に強い関心があるものの、学業面・生活面に生きづらさを抱えていました。
土曜教室では、子ども達に対してWISCをベースとしたアセスメントを実施し、データを参照しながら援助方法を「事前ミーティング」で検討、教室が終わった後は「事後ミーティング」として援助過程を議論しました。
「小学生グループ」と「中高生グループ」に分けて毎週開催していたので、たとえば「小学生グループ」の子どもたちにとっては、教室は月2回開催されていました。半年に1回、援助経過を個別教育計画としてまとめ、ゼミ全体でも討論していました。
また、北海道大学の「総合大学」としての特性を生かし、理学部などの関連講座と連絡を取り、ある子には大学院生に話をしてもらったり、ある子には研究室を見学する機会を作るなど、望まれる環境を個別で整えていくといった活動もしていました。
室橋先生の現場主義~子どもの姿から学ぶ姿勢~は、室橋ゼミ出身の先生方(本記事で紹介する以下5名の先生方)に受け継がれ、ギフテッド関連の論文も多く発表されています。
改めて、ギフテッドとは
室橋先生は言います。
「ギフテッド」とは、なにか? 学会の役割としての定義の検討が大切
「日本におけるgiftedという語の受容の課題 小林茂(2021)」を引用をされつつ、ご自身の見解を述べていました。曰く‥‥‥。
・キリスト教に由来する概念。宗教改革以降、個人に与えられた恵みというだけでなく、社会の中で活かし社会の中に還元されるものとしての理解が広がる。→ ある人が持って生まれたものを、個人の特性に限定されるものでなく、社会が育て尊ぼうとするか? という日本文化の問題がある。
・日本における「ギフテッド」→ ある種のカテゴライズと個人の特性化にともなうラベリングに留まらないかという危惧
・誰からのgiftとして、自分の才能を理解するのか、どこに還元するのか
・自らの持つ才能と日本社会との間で、自己同一化できているかという課題
・社会からの承認・需要なしで、個人の特性に還元化された才能は、生きづらさというかたちで個人に託されるリスクとなる。→ 贈り物がありがた迷惑にならないか。
ギフテッドと保護者への援助
室橋先生が最も心を寄せているのは、ギフテッド当事者と保護者への援助です。
「当事者としてのギフテッドは、自己選択・自己決定を求めている」「関係者は、協働・見守り・待つという心持ちが大切なのではないか?」
ギフ寺(後述)のギフテッドの青年たちと、「社会とどう向き合っていくか?」といったことを、「お友達として」話す機会もあるそうです。講演の言葉の端々から、支援相手と対等な目線で歩んでこられた室橋先生の臨床研究の姿勢を垣間見た気がしました。
室橋春光(むろはし・はるみつ)
北海道大学名誉教授 (教育学博士)。北海道大学では発達に偏りがある子どもの学習・余暇支援活動をする「北海道大学土曜教室」を率いていた。室橋研究室からは教員、教育実践家、研究者が数多く巣立っている。
高い知的機能と生きにくさを抱える子どもたちの援助実践
室橋先生を「ボス」と呼ぶ小泉雅彦先生は、北海道で「ギフテッドのための寺子屋」(通称:「ギフ寺」)を運営しています。小泉先生は、「ギフ寺」での教育実践を踏まえ、「ギフテッドをめぐって ~高い知的機能と生きにくさを抱える子どもたちの援助実践~」を発表しました。
ギフテッドの援助実践
土曜教室や支援級で出会ったギフテッドとの関わりを、具体的な事例として紹介したスライドの中には、小泉先生の率直なボヤきも‥‥‥。
相談に乗ったはいいが、素敵な解決策は見つからなかった…
小泉先生のボヤきからは、子どもと一緒に悩み、考え続けた時間の積み重ねを感じます。そんな小泉先生の存在自体が、どれほどギフテッドの心の支えになったことだろう! と、筆者は思いました。
臨床研究から得られた知見
小泉先生は、「ギフ寺」の教育実践(後述)や臨床研究から得られた知見について発表しました。
小泉先生の発表は、記録映像を映画監督の筒井勝彦氏に撮影していただきました。その記録動画は2025年春頃に公開予定ですので、詳細はそちらをご覧ください。
筒井勝彦(つつい・かつひこ)
映画監督・プロデューサー。ドキュメンタリーからドラマまで、ジャンルを問わずヒューマンな映像作品を製作・監督する。近年の話題作は、日本の学校教育の変革の為に尽くす教育実践研究家・菊池省三氏のドキュメンタリー映画「挑む」シリーズで、発表後多方面からの関心を寄せられている。公式ホームページは、コチラ。
小泉先生のことは、小学館として「記事」と「映像」で追いかけています。以下の項で、いくつかのコンテンツをご紹介しておきましょう。
ギフ寺始動の秘密
「みんなの教育技術」では、「ギフ寺」の様子を記事にしました。
私たちの秘密基地~「ギフ寺」が問いかけるもの~ダイジェスト版
小学館の関連団体である「日本児童教育振興財団」が、「ギフ寺」に通う子どもたちと保護者の経験談、そして、今の「ギフ寺」で行われている実践を記録したものです。
私たちの秘密基地~「ギフ寺」が問いかけるもの~はDVDでの有料貸し出しコンテンツです。貸し出しをご希望の方は、コチラからお申し込み・ご活用ください。
小泉雅彦(こいずみ・まさひこ)略歴
「ギフ寺」住職。ギフ寺での子ども達との関わりで見えてきたことを発信している。専門は特別支援教育、認知心理学。
2Eの子どもたちの明るい未来に向け、今、私たちができること
NPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子先生は、1990年代から日本の特別支援教育を牽引してきました。高山先生はアメリカの大学院で二つの修士号を取得された後、室橋ゼミで学びました。
オンラインでの講演テーマは、「2Eの明るい未来に向けて今、私たちができること ~当事者、保護者、支援者の自己実現~」です。
高山先生が考える自己実現
高山先生は、自己実現を「自分の能力を自分以外のために使い、自分らしさを生かして社会貢献すること」とし、その機会を提供することが重要だと言います。
2Eのある人の自己実現は、「支援や合理的配慮を受けながら自己理解・自己受容し、SE(セルフエスティーム)やセルフアドボカシースキルを高め、社会貢献する」と定義されていました。
当事者、保護者、支援者、それぞれの自己実現とは? どんなことなのでしょうか?
高山先生の発表も、記録映像を映画監督の筒井勝彦氏に撮影していただきました。詳細は、そちらをご覧下さい(動画は2025年春頃公開予定)。
筆者は長らく高山先生の連載記事の担当ライターをしています。「高山先生は海外の情報をいち早くキャッチして、日本の現場の声に耳を傾けながら日本風にアレンジする力がすごい!」と、思っています。
高山恵子(たかやま・けいこ) NPO法人えじそんくらぶ代表。臨床心理士。薬剤師。木村泰子先生との共著『「みんなの学校」から社会を変える』(小学館新書)など、著書多数 。えじそんくらぶではオンラインの「2Eの会 コレカラ」の活動もしている。Instagram : edisonclub.2e 。「2Eの会 コレカラ」入会申し込みは左記のQRコードから、もしくはedisonclub.2e@gmail.comまで。
過度激動の事例から学校、家庭での対応、支援を考える
室橋ゼミの若手3名は、片桐正敏先生(北海道教育大学旭川校教授)、日高茂暢先生(佐賀大学教育学部講師)、富永大悟先生(山梨学院大学講師)です。
3人の先生が扱ったのは、過度激動。過度激動とは、文字通り、過度な感情や行動を示す状態です。多くの人が自然に受け入れることができる物事に過剰に反応してしまうなど、過度激動がある子どもたちに向き合う際には、対応に苦慮する場面もあります。片桐先生は、事前にこんなふうに言っていました。
本ラウンドテーブルは少人数の対話形式です。聴講だけでも構いませんが、参加者同士の積極的な議論を通して、過度激動への対応や支援について、共に考えましょう!
肯定的分離理論とは、過度激動(OE)理解のベースとなる概念で、学校での不適応などを「人格を発達させる肯定的な兆候」と捉えます。日本語訳である「肯定的分離(積極的分離)理論」の原文は、Theory of Positive Disintegration。略してTPD理論とも呼ばれています。
「みんなの教育技術」では、肯定的分離理論についての解説記事も公開しています。
片桐正敏(かたぎり・まさとし)
北海道教育大学旭川校教授、専門は、臨床発達心理学、発達認知神経科学、特別支援教育。基礎的な研究と併行して、臨床研究も行っている。発達障害のある子どもやギフテッドの相談支援活動も行う。
富永大悟(とみなが・だいご)
山梨学院大学経営学部経営学科専任講師。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程単位修得退学。専門 は特別支援教育、認知心理学。山梨県で「ギフ寺」を運営している。
日高茂暢(ひだか・もとのぶ)
佐賀大学教育学部講師。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程中退。専門は特別支援教育、障害児精神生理学、臨床心理学。日本の過度激動研究の第一人者。
ラウンドテーブルの様子
過度激動のラウンドテーブルの様子を、ご参加の皆様からの許可を得た上で撮影しました。
ラウンドテーブルという場には、研究者、当事者、保護者、医師、支援者が、立場を超えて話し合う姿がありました。これぞ、冒頭で紹介した「安心してギフテッドのことを語り合える場」なのではないか? そう筆者は感じました。
ますますヒートアップ! の<後編>も、ぜひお読み下さい。
「ギフテッド・2E学会」がついにキックオフ!歴史的な1日に密着しました<後編>はこちら
次回「日本ギフテッド・2E学会」全国大会は、千葉大学で2025年11月開催予定
次回の「日本ギフテッド・2E学会」の全国大会は、2025年11月に千葉大学で開催される予定です。
詳細につきましては、決定次第、随時「みんなの教育技術」で告知します。
取材・文 / 楢戸ひかる(ならと・ひかる)
ライター。「ギフテッド」や「学校に行かない選択をした子供たちのためのフリースクール」取材を通じて、「選択肢としての新しい学び」や「教育活動の連携」を探究している。自身のサイト「主婦er」内に「ギフテッド関連記事のリンク集」がある。