授業づくりはまず学習指導要領を読んで、どんな資質・能力を付けさせたいか考える 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #13】
中学校の国語と言えば、全国学力・学習状況調査の結果が長年にわたって良好な秋田県を思い浮かべる先生も少なくないのではないでしょうか。そこで今回からは、秋田県の能代山本教育研究会国語部会の研修部長を務め、同県の学力向上フォーラムで授業公開を行ったこともある、三種町立山本中学校の工藤央弥教諭に国語の授業づくりについて聞いていきます。
目次
授業を考えるときには、学習指導要領のほか、指導書や指導計画も参考に
まず、工藤教諭に自身の授業・単元づくりの考え方を象徴する授業について聞くと、中学2年の教材「盆土産」(光村図書)の3/5時の授業を紹介してくれました。
「単元・授業づくりをするときには、まず学習指導要領解説を読んで、どんな資質・能力を付けさせたいか考えることから始めます。この『盆土産』では、例えば『思考力、判断力、表現力等』では、『読むこと』の⑴イ『…登場人物の言動の意味などについて考えたりして、内容を解釈すること』となります。この資質・能力を、生徒たちのやり取り(対話)を通して育んでいくために、まず生徒たちがあれこれ考え、多様な意見の出るような大きな問いを考えました。そして、そこからさらに深い学びにつながるような『ゆさぶり』の問いかけを準備しようと考えていったのです。
『えびフライ(えんびフライ)』は、この物語のキーワードであり、キーアイテムです。指導書を見ると、『(主人公は)何で、えんびフライと言ってしまったのだろうか?』と、クライマックスの場面を取り上げて問うものが、オーソドックスな流れになっているようです。もちろん、この発問も作品を読み深める重要な問いです。ただ、この作品がもつ温かみ、おじいさんやお母さんが亡くなっており寂しさもありながら家族全体が寄り添い合って生活している状況を味わうためには、『父親はなぜお土産にえびフライを選んだのだろうか』との問いがより効果的なのではないかと考えました。
ちなみに単元や授業を考えるときには、まず学習指導要領解説を見て、どの資質・能力を育むのか考えて教材研究をするのですが、その後、指導書にも目を通して参考にします。ただ、指導書で『この教材ではこの資質・能力を育む』と書いてあっても、『別の資質・能力を育てるアプローチのほうが、生徒たちも多様に考えられるし、作品のよさを引き出せるのではないか』と考えられるときには、自分の考えたもので単元をつくるようにしています。
単元を始めるにあたっては、付けたい力について説明をしている
単元を始めるにあたっては、あまり先が見えすぎるのもよくない場合もあるのですが、付けたい力について説明をしています。この『盆土産』であれば、先にも説明した通り、『登場人物の言動の意味などについて考えたりして、内容を解釈すること』がめざす読みの資質・能力です。ですから、初めて教材を読む1/5時には、『言動の意味に注目して、この物語のよさを見付けていこうね』と話しました。そうすれば生徒たちは最初から言動に注目して読むので、そこから初発の感想を引き出していきました。
少し余談になりますが、例えば、説明文を読むならば、何らかの『読みの視点』がないと、『内容が分かった(分からなかった)』と教材文の内容に関する感想になってしまう場合も少なからずあります。『教材で学ぶ』わけで『教材を学ぶ』わけではないのですから、それでは困るので、読みの視点を与えることが多くあります。物語でも同様に、描写なら描写、登場人物なら登場人物などの『読みの視点』を与えて読ませることもあります。
■『盆土産』の単元計画
この『盆土産』の単元では、最終的にはサブタイトルを付けるというのをゴールの活動にしています(単元計画参照)。そこでは、生徒たちから『家族の絆』『家族の温かさ』や、それに類するサブタイトルが多く出てきましたが、そこがこの物語の醸し出すよさでもあると思います。そこへ行くために、まず1/5時に視点を与えた上で物語を読んで初発の感想を書きます。次に2/5時には、父親の帰りを待つ『僕』の心情について考えていきました。
その中で、『お父さんが持ってくるえびフライという土産をすごく気にしている “僕”』その一方で、『お父さんのためにそばの出汁を作らなければならないと言って動いている “僕”』の姿があり、そこにお父さんへの思いが出ているという話が出てきました。一方でお父さんも、家族のことを思いやって『盆土産』を買って帰ったという話があります。それを受けて2時間目の終わりに、『“僕” はすごくえびフライを気にしていたよね』『じゃあ、お父さんはそもそも何でエビフライにしたんだろうね?』と投げかけておき、それについて考えていったのがこの3/5時の授業です。
近くの友達は花火やTシャツをもらっています。それは運びやすいし、えびフライのようにドライアイスで冷やし続ける必要もありません。『生徒からしても派手な服やおもちゃなどのほうがいいのは分かるよね』などと生徒たちと話した後で、『じゃあ何で、お父さん、お土産にえびフライを選んだんだろうね』と投げかけたのです。
■『盆土産』3/5時の指導案
この授業ではまず、各自が個別にえびフライを選んだ理由について考えていきます(指導案参照)。そこからグループでまとまって、意見交換をしていきました。その対話の中では、『家族のため』『食べたことのない家族に食べさせたかったから』という考えが出てきますが、その『家族』とは、僕や姉や祖母といった存命の家族です。そこで、『お盆』というものを意識させたいので、『じゃあ、何で6本だったんだろうね?』と問い返し、そこから深めていきました。
過去の授業でも、グループの意見交換で亡くなった人への思いまで出てくることはあまりなかったので、『なぜ6本?』と問い返すことで深めさせていったのです。ちなみに、もし『亡くなった家族も含めて…』という意見があったとすれば、『それはどこから分かる?』『どうしてそう考えられる?』と問い返して、『6本』や『お盆』の意味について考えさせるようにすると思います。
生徒は考えながら読み返すわけですが、文章の中には亡くなった祖父や母のためだという叙述はありませんし、『僕』と姉が2本ずつ食べたということしか書いてありません。生徒たちの中も、『“僕” や姉に2本ずつ食べさせようとして、買ってきたんじゃないの?』という人もいます。そういう意見には、『最初から “僕” と姉にだけ買ってきて、祖母にはもう少し食べやすいものを買ってきてもいいんじゃない?』と問い返します。
そうやって考えていく中で、『お盆で同じ食卓を囲んで食べる団欒では、家族が同じものを食べるのでないと』といった意見が出て、そこで『ちょっと待って。6って何の数字だ?』『元々この家族って6人だったよね』といった気付きが出てくるわけです。そうなると、『祖父や母の分も買ってきたんじゃないの』といった意見が出て、『そこまで考えていたのかな?』という意見も出てくるので、この物語の時期にも注目して考えさせるようにしていきました。
そうした授業を通して学習すると、ふり返りの中で『言動に気を付けて読むことが大事』という意見が見られるのですが、『言動だけでなく、物語の設定や時期も考えて読むことが大切』といった意見も見られました」
※
このように『なぜ、えびフライ?』『なぜ6本』といったシンプルな問いを投げることで、めざす資質・能力を育むという工藤教諭。次回は、そのような授業づくりの考え方について聞いていきます。
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は11月29日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之